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観光庁が開講したネット通信講座「旅館経営教室」、その狙いを担当官に聞いてきた

旅館が「存亡の危機に瀕している」――。こう語るのは、観光庁観光産業課長の石原大氏だ。外国人旅行者の増加で活況を迎える観光業の要、旅館の施設数が減少傾向にあり、稼働率も停滞している。こうした状況を受けて、観光庁は2015年5月に新たな人材育成プログラムを開始した。オンラインで「いつでも、だれでも、簡単に」参加できるコンセプトの「旅館経営教室」だ。その企画・運営を担当する観光庁 観光産業課係長の小俣緑氏(写真)に、その狙いと活用状況を聞いた。

小俣氏は、これまで4年にわたって観光庁で地方大学を活用し、旅館やホテルなど国内宿泊施設の人材育成プログラムを実施してきた。そこで感じてきたのは、「リアルな場の人材育成プログラムに参加できない旅館経営者が多いこと(小俣氏)」。現場で奔走する館経営者に、経費負担をかけず、より広く経営改善のきっかけをつくることができないか、そんな思いからプログラムの企画が始まった。

講座は無料で、誰でも受講が可能。2つのテーマを、それぞれ1回10分程度・10コマを配信する構成とし、スキマ時間を利用してスマートフォンやタブレットでも受講できるようにした。講師は、長年、サービス業の経営指南をしてきた(一社)サービス産業革新推進機構・代表理事の内藤耕氏。経営改革に向けた実践的なプロの講義を受講し、週ごと行う小テストを完了すると観光庁長官の署名が入った修了証が発行される。

受講の流れ(観光庁サイトより)

観光庁は、参加者の目標を3000名と設定。1部が終了し、2部のスタート目前の2015年6月8日段階で2631名が登録・参加しているという。この状況について、小俣氏は「初めての取組みとしては、まずまず」と評価する。講座内では、オンライン上で受講生同士がディスカッションする場も設けた。そこでも前向きな会話が行われ、「そこからも新たな気づきがある。生産性向上に対する現場の考えなどが実感できる(小俣氏)」という。

実際に、ディスカッションを覗いてみると、同じ旅館経営者同士の悩みや課題を共感しながら解決していこうという会話が多い。また、他業界からの参加もできるため、異業種の視点からの意見に刺激を受ける場面もあるようだ。

アンケートによると、参加者は30代が16%、40代が33%、50代が21%。若手経営者が7割を占める。受講動機の最多は「自身の経営ノウハウや知識習得を知る」ため。そして「宿泊産業の現状と課題と知る」「経営改善に興味がある」という動機が続く。ディスカッションの内容とあわせてみると、情報感度の高い受講者層が多い。

だたし、参加者分布から課題も見える。それは、都道府県別で参加者では最多が突出して東京。続いて北海道、神奈川県、と続き、訪日外国人のゴールデンルートと呼ばれる大都市圏がほとんどで、肝心な地方からの参加が1ケタという都道府県も少なくないのだ。

グローバル化や交通機関の発達によって世界が近くなり、それとともに旅館もコモデティ化が指摘されている。小俣氏は、「本来、地方の宿泊業にこそ、可能性がたくさんあるはず」で、講座を利用することで、しっかりと経営改善の取組をすすめ足場を固めてほしいと話す。そのうえで「自分の旅館の強みを知って個性を出し、旅館からも新しい旅の価値を創造していって欲しい」と力説した。

冒頭の石原氏の「旅館が存亡の危機」というコメントは、このオンライン講座を紹介するネット上の動画(以下)で公開されたもの。石原氏は旅行形態、旅行者のニーズ、外的環境変化に旅館経営が対応できていないことを指摘し、旅館の経営スタイルを変える必要性を訴えている。小俣氏もまた、「外国人旅行者が急増し、インバウンド市場が隆盛を迎える今が転換期」として、こうしたツールや観光庁が実施する人材育成プログラムの活用で、経営改善に努めてほしいという考えだ。

なお、観光庁は、今後も人材育成プログラムのブラッシュアップを図る方針。業界の課題をカリキュラムに反映させ、長く継続できるような内容で年度内にも旅館・ホテル経営者向けの新たな教育プログラムの企画を進める計画。

小俣氏は「業界団体との連携や、現場に入っていけるセミナーなど積極的におこなっていくことで、現場の声や課題を反映させる政策としていきたい。」と、今後もオンラインとオフラインを活用して情報提供をしていくことに意欲を見せた。

(トラベルボイス編集部:山岡薫)