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出張旅行のマネジメント不足の実態 - 日本と世界との違いとコスト削減の事例を聞いてきた

世界的なビジネストラベルマネジメント(BTM)では、業務効率化やコスト削減に加え、危機管理やガバナンス強化を含む総合的かつ戦略的なマネジメントとして導入が進んでいる。日本ではどうか?出張に係る手配管理のアウトソースという印象をもつ企業も多く、未対応の国内企業が7割を超える現状と世界に後れをとっている。アメリカンエキスプレス・グローバルビジネストラベル・日本旅行(GBT NTA)のフォーラムで明らかになった。

フォーラムの基調講演で講師を務めた日本CFO協会主任研究員(ナレッジネットワーク社長)の中田清穂氏は、日本企業のBTMの現状を「日本人のホワイトカラーの生産性が海外に比べて低いといわれる理由」とも指摘する。

日本企業の業務出張手配の実態

中田氏は、日本CFO協会が日本の企業を対象に実施した「出張費用に関する意識調査」の結果を公表した。回答企業のうち、航空会社やホテルとの「法人契約の利用」や、出張に係るガバナンスを補助する「出張既定のチェック機能の整備」、「出張に必要な予約の一元化」などがされていない企業が7~8割だったというもの。中田氏は「世界的に日本の傾向はおかしい。海外では法人契約が当たり前」と世界のトレンドとの差異を説明した。

出張者自身が手配をし、出張後には申請業務も行なっている実態に、中田氏は「日本人はアメリカ人より34%生産性が低い」という日本生産性本部の調査結果も紹介しながら、「本来の業務ではないものに時間を費やしていることを考えなくてはいけない」と、BTMの意義を強調した。

また、社内社員の出張の数々を一元管理していないため、半数の企業で規定外の手配や空出張などの不正が行われているほか、航空やホテルとの交渉で安価な価格を引き出すためのデータ分析もできず、出張コスト面でも世界に競争力を欠く要因にもなる。

加えて、有事の際の安否確認を「即座(6時間以内)にできない」という企業も7割超に及んでいるという。中田氏は一元管理ができていないことが要因と指摘し、「企業として責任をもって社員の命を管理していない」と話した。世界情勢の不安定さが増す今後に向け、導入の必要性が高まっている。

プレゼンテーション資料より。出所:平成28年度 日本CFO協会「出張費用に関する意識調査」。同協会ではホームページ上で調査結果を公表

世界に比べて関心が薄い日本企業

さらに中田氏は、同調査の回答数について「155社だったことがショック」だったという。予算管理などの調査では600社くらいの回答があることから、「そもそも日本企業は海外出張に対する意識が少ない。非効率な業務を強いられている出張者や管理部門も変えようと思っていない」と問題点の根本を指摘した。

この出張管理に対する意識については、協賛者の発表セッションでユナイテッド航空法人・個人旅客営業部統括部長・大山直基氏も言及。「日本では人事担当者が行なうケースが多いが、米国では購買部が入札し、指定航空会社を決めるケースが多い。企業は購買部を厳しく評価するので、購買部はコストを下げるのに必死」と、米国企業がBTMに真剣に取り組む理由と実態を説明した。

年間10%の費用改善も可能

同フォーラムは企業の出張管理担当者を対象に実施したもの。GBT NTA代表取締役社長の内山博生氏は冒頭の挨拶で、「今回はBTMの進化に向けて、実情とあるべき姿のギャップを認識し、その差を埋めるための手法・方法を様々な角度から紹介する」と趣旨を述べ、参加者にBTMに関する意識改革を促した。

左上:GBT NTA代表取締役社長の内山博生氏、右上:GBT NTA事業戦略&開発本部本部長・滝田祥丈氏、左下:ソリューションツールの例、右下:実装予定のモバイルアプリの例

ではBTMの導入で海外の企業は、どれくらいの効果を得ているのか。例えば出張規定の最適化を図り、優先サプライヤーを利用することで、年間11億円の出張コストを5100万円削減した企業がある。プロセス分析やプログラムの最適化によって、年間4億7000万円から約10%にあたる5300万円を削減した例もあるという。

このほかフォーラムでは、GBT NTAの事業戦略&開発本部本部長・滝田祥丈氏が、GBT NTAのソリューションツールについて、プレゼンテーションを実施。機能向上のみならず、誰でも扱えるよう操作性の簡易化にも取り組んでいることを紹介した。今年8月には予約から精算までをモバイルアプリで対応できる技術を持つKDS社を取得しており、2018年頃にはGBT NTAのシステムにも、アプリでのメッセージ送信やオペレーターとのチャット通信、読み込んだレシートの精算処理などを実装する予定も発表した。


取材:山田紀子