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ホテルのロボット接客を「広告媒体」に、サイバーエージェントらが名乗り、自然対話で人間らしい情報メディアに深化目指す

サイバーエージェントと大阪大学、東急不動産ホールディングスは3者共同研究プロジェクトとして、ホテルにおける人型ロボットを活用した接客の実証実験の結果を発表した。

同プロジェクトで目指すのは、ロボットの特性を活かした接客サービスの深化。人の業務の代行ではなく、「人をもてなし、満足度を向上させる」ロボット接客に向け、研究開発を進める。特に接客対話の自動化に注力しており、人のような自然な会話が可能になれば、ホテルにおける接客ロボットが人間らしい情報メディアとなり、広告媒体としての活用など、新たな展開が期待できるという。

適切なタイミングでの挨拶に好感

実証実験は第1回が2018年3月19日~3月30日、第2回が4月16日~4月27日の日程で、今回は第1回の結果を発表。長期滞在にも対応する都市型ホテル「東急ステイ高輪」を舞台に、卓上型対話ロボットの「CommU(コミュー)」と「Sota(ソータ)」を用いた。廊下に1台、エレベーターホールに2台を配置し、人を検知すると適切なタイミングで人に話しかけ、挨拶をする。計18通りの対話のパターンを用意し、ロボットが積極的に挨拶する効果などについて、宿泊客にアンケートをとった。

その結果、ロボット開発を担う大阪大学教授で工学博士の石黒浩氏によると、ロボットが積極的に挨拶をすることは、好意的に受けとめられた。適切な挨拶が評価され、ホテル側からは「お客様の機嫌がよくなった。おもてなし感を提供できている」という感想も。さらに従業員からも、ロボットに話しかけられることで「気持ちよく働くことができた」という想定外の効果もあった。

デモンストレーションでは人が通りかかったタイミングに応じてロボットが話しかけた。ロボットは左がコミュー、右がソータ

東急不動産R&Dセンター取締役副センター長の山内智孝氏は「導入前は少し懸念があったが、お客様の反響が非常によく、スムーズに受け入れられた」と手ごたえを語った。その上で、「人的サービスの至らないところが助けられ、ホスピタリティが深化することが最大の関心事。ロボットとの共同コミュニケーションによってお客様との対話が進化していくことを期待している」と、プロジェクトに対するホテル側の期待を語った。

開発は4段階で考えており、現在はまだレベル1~2の間。レベル3は直接的に宿泊客の質問に多言語で応答が可能。レベル4にはホテル内の各所でロボットが社会性を見せながら連携して働き、快適な環境を提供する世界の実現を描く。実用化の見通しは立っていないが、レベル3以上の到達がひとつのめどになるという。レベル3の到達には1年半~2年程度を見込んでおり、オリンピックも視野に入れつつ、接客対話技術の研究開発に取り組んでいくとしている。

人にできないロボットの役割、なぜ広告媒体として期待できるのか

今回の実証実験には「新しい『おもてなし』と『新しい広告媒体』に関する研究」というテーマも含まれている。

サイバーエージェント上級執行役員の内藤貴仁氏は今回の取組みについて、同社の広告事業における新局面への対応であることを説明。消費者の接触メディアがPCからスマホへ移行し、その次のフェーズはロボット接客やIoTなど、スマホ以外の日常に接触するリアルな空間でのコミュニケーションになるとの判断だ。その場面を想定した広告ビジネスを作るのが目的だという。

特に内藤氏は、従来のPCやスマホなどのネット広告について、(GoogleやFacebookなど)「米国の企業が支配的だった。我々はそれを販売してきたが、次のロボットの広告ではローカライゼーションの技術でしっかり戦いたい。そこで共同研究的な取り組みを強化している」と言及。同社が広告ビジネスとしてロボットなどの新メディアに注力する理由を強調した。

ロボット接客の実用化の際には、サイバーエージェントが広告部分を含めて営業を行なう。

(中央右)サイバーエージェントの内藤氏、(中央左)ロボット学者/大阪大学の石黒氏、(右)東急不動産R&Dセンターの山内氏、(左)大阪大学の倉本特任准教授

一方、石黒氏は人型ロボットを使用した理由を説明。石黒氏は、今後訪れるロボット社会でも人型ロボットが増えると考えており、その根本には「人は人を認識する脳を持つ」「人にとって最も関わりやすいのが人である」ことがあるという。スマートスピーカーなど、ボイス対応のデバイスが増えているのはその前兆であり、「世の中のインターフェースが人に近づき、情報メディアは人らしくなっていく」と説明する。

さらに石黒氏は、会話や接客の場面において、人型ロボットだからこそできることがあるという。例えば、プライベートな会話をホテルスタッフにされると、場合によってはプライバシーを侵害される気持ちになるかもしれないが、ロボットであれば気にはならない。プライバシーを保ちながらコミュニケーションを行ない、存在感もある、これらの両立はロボットならではのものだと話す。

これが広告媒体として活用できる可能性だと、石黒氏はいう。「宿泊客にとって目的が合致しない広告は邪魔にしかならないが、きちんとした提供をすれば情報として喜ばれる。ホテルの条件を上手に活かしながら、ホスピタリティの中で広告を出せることが考えられる」と語る。

なお、ロボット接客のホテルで先行するエイチ・アイ・エス(HIS)の変なホテルは、生産性の向上を主軸にロボットの機能を付加。本プロジェクトとは対極からアプローチで、顧客満足に繋げている。ホテルのロボット接客でも今後、多様な展開が期待できそうだ。

記事:山田紀子