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オーバーツーリズム度の指数化を試みてみた、現地報道をデータ化し、地元感情と観光客数の相関関係の分析で ―スキフト・リサーチ【外電】

オーバーツーリズム(観光客の増え過ぎ問題)は、地域によって異なる形で表面化するが、共通しているのは、地元の人々の気持ちを理解することが、問題の把握に欠かせないという点だろう。そこでスキフト・リサーチでは、地元メディア記事の分析によるオーバーツーリズムのレベル測定を試みた。1万7000本以上の記事を対象に、訪れる観光客に関するもので、ネガティブな内容のものを探し、こうした記事が掲載された頻度を指数化した。

※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

我々の考え方はこうだ。

オーバーツーリズムによる軋轢が生じている地域では、メディアが何らかの形で、否定的な見方で状況を報じているはずだ。それならば、地元紙に掲載された観光に関するネガティブな記事の量を測定することで、オーバーツーリズム度を示す指標ができるのではないか。指標の数値が高くなるほど、その地域におけるオーバーツーリズムの負荷が大きいことを示すはずだ。

残念ながら、オーバーツーリズムの全体像を把握できるメトリクスはないのが現状だが、ローカルメディア記事に表れる地元側の心情を把握することは、数値化が難しいといわれている状況の改善に役立つのではないか―。

我々はこの分析結果を「自然言語分析:オーバーツーリズム指標としての『メディア・センチメント』(Natural Language Processing: Media Sentiment as an Indicator of Overtourism)」と題したレポートとして発表。以下、レポートの一部を抜粋して紹介する。

事例:アイスランドのツーリズムに対するネガティブ記事を読み解く

考案した指標を使い、実際にアイスランドに関するケーススタディを実施した。具体的には、地元メディアの記事をトラッキングし、その中から、ツーリズム関連の問題に言及した単語を含むニュースを検索。その掲載頻度を測定し、全体に占めるシェアをベースに指標化した。

前述の通り、オーバーツーリズムを問題視する動きは、メディアによる否定的な記事となって具現化するため、これをチェックすることで、オーバーツーリズムの数値化が可能だと考えた。指標の数値が高いほど、その地域におけるオーバーツーリズムのマイナス影響は深刻ということだ。

今回はアイスランドを具体例に選び、このセオリーを検証したところ、ツーリズムに対する否定的な感情(ネガティブ・センチメント)と、訪問客数の増加には、強い相関関係が見られた。

1. データ収集

ケーススタディの調査対象としてアイスランドが最適と判断した理由は、(1)オーバーツーリズムが実際に起きているデスティネーションとして広く認知されていること、(2)ツーリズムのデータ収集において先進的な国であること、(3)質の高い英文記事を掲載しているメディアがあること。まず、アイスランドの英字媒体を3つ選び、掲載記事を分析した。対象メディアは「The Iceland Monitor」「The Reykjavík Grapevine」「Iceland Review」。以下に各媒体について簡単に紹介する。

「The Iceland Monitor」は、アイスランド最大のニュースサイトであり、最も読まれている「Morgunblaðið」の姉妹版英字メディア。同サイトの月間ビジター数は平均3億3700万人(2019年2月までの6か月間実績、シミラーウェブ調べ)。同サイトに2015年1月から今年3月までに掲載された計7755本の記事を分析した。

「The Reykjavík Grapevine」は、同誌の説明によると、アイスランドで最も有名な観光マーケット専門メディア。記事は英文で書かれ、発行は年間21回。オフシーズンは月刊、ハイシーズンは2週間に一回の発行。月間ビジター数は平均3億4500万人(同上)。今回の調査では、2015年1月から今年3月までに掲載された計4140本の記事を分析対象とした。

「Iceland Review」はアイスランドで最も長く続いている雑誌で、印刷媒体としての創刊は1963年。ウェブサイト版の月間ビジター数は平均2億5300万人(同上)。対象となった記事は2015年2月から今年3月までの計5158本。

2. 「ネガティブ・センチメント」の把握

すべて合計すると、調査対象となった記事は1万7053本、掲載時期は2015年1月から今年3月まで。これを当社が考案した自然言語分析手法に基づいて分析し、観光のマイナス面について報じているか否かを判断した。最後にデータの誤差を考慮し、6か月ベースの移動平均線チャートにまとめた。

まずは、それぞれのニュースサイトごとに集計し、記事全体に占めるネガティブな観光に関する記事の比率パーセントをグラフにまとめた。以下の図では、数値が高いほど、オーバーツーリズムに関する報道が多いことを示している。

「The Iceland Review」は、発行頻度が他の2媒体に比べて少ないものの、ツーリズムに特化した内容を取り上げているため、オーバーツーリズム関連記事の比率が高い結果になっている。一方、ビジネスと政治問題が中心の「The Iceland Monitor」では、当然ながら、オーバーツーリズムに関する記事数は他より少ない。

各媒体で記事の数にばらつきはあるものの、増減トレンドでは同じ動きを示す結果となった。

メディア3媒体における観光へのネガティブ・センチメント

グラフの線の動きから分かる通り、それぞれのメディアごとに、ネガティブ記事の数には差があったが、増減の傾向は、ほぼ同じパターンを示した。このことから、各メディアによって報道スタイルは異なるものの、人々の感情や行動から浮かび上がる傾向には、共通する部分が多いことがうかがえる。

レポートは以下から購入可能。データ収集や解析手法についての詳細は、レポートの「調査方法」ページで閲覧できる。

「オーバーツーリズム指標としての『メディア・センチメント』(Natural Language Processing: Media Sentiment as an Indicator of Overtourism)」(英語)

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

※オリジナル記事:What Local News Tells Us About Overtourism: New Skift Research


著者:スキフトリサーチ セス・ボルコ氏(Seth Borko)