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世界へ拡大するKlook(クルック)、3つの成功要因と日本戦略をCEOに聞いてきた(PR)

「Keep Looking(探し続ける)」。これがクルック(Klook)という社名の由来だ。旅先で、何かが必要になったら、モバイルを数回クリックするだけで、いつでもどこでも予約できる、そんな便利なオンライン・サービスを提供するタビナカ・プラットフォームを目指して香港で創業。今年9月で5周年を迎えた。

「テクノロジーで異文化の懸け橋になる」という同社のビジネスモデルは、ソフトバンク・ビジョン・ファンドやゴールドマン・サックス、TCVをはじめとする世界の投資家から高く評価され、今や注目のユニコーン企業となった。共同創業者であり、最高経営責任者(CEO)のイーサン・リン(林照圍)氏に、クルックの歩みと、目指す未来を聞いた。

日本で実感した個人旅行の醍醐味と難しさ

創業から5年、クルックは海外では圧倒的な知名度を誇る旅先体験プラットフォームに成長した。月間ビジター数は3000万人、今年の年間予約は6000万件に達する見込みだという。

同社を率いてきた共同創業者兼現CEO(最高経営責任者)のイーサン・リン(林照圍)氏は台湾生まれ。米国で教育を受け、シティグループ香港のインベストメント・バンキング部門でホスピタリティーと不動産部門を担当後、クルックを立ち上げた。世界トップクラスの投資ファンドからクルックが資金を獲得する上で中心的な役割を果たし、中国フォーチュン誌からは「40 Under 40(注目するべき40歳以下の40人)」に選出された敏腕リーダー。だが、かつて日本を旅したときの思い出話に目を輝かせる、根っからの旅行好きでもある。

クルックのビジネスモデルを考案する上で、インスピレーションを受けたデスティネーションの一つが日本であり、「日本の大ファン」を自認する。

「今よりも時間があった6~7年前、頻繁に日本を訪れて、北海道から沖縄まで、あちこち旅していた」(イーサン氏)。東京や大阪、京都など主要都市に滞在するだけでなく、岡山、広島、神戸、奈良、そして和歌山の白浜ビーチなどへドライブ。日本各地で出会う人々のホスピタリティーや景色、田舎の小さな食堂の味など、今でも忘れ難い体験ばかりと話すが、一方で、外国人旅行者がこうした場所を見つけ、出かけていくのは大変な手間がかかる時代だったと振り返る。「当時、まだ携帯端末には今ほど便利な機能がなかった上、旅行のプランニングには、膨大な事前リサーチが必要だった。英語や中国語の表示も、今ほど整備されていなかった」。

イーサン氏は「ぼくたちは、おそらく訪日個人旅行者のフロンティア世代。テクノロジーを活用し、デジタル化することで、こうした体験をもっと世界中に届けたいと思った」。団体旅行ではなく、個人旅行をもっと便利にしたいという想いも、こうした自身の旅行体験が原点だ。「旅行には、異文化の人々をコネクトするパワーがある。ただし、団体旅行に参加し、用意された観光を楽しむだけでは、訪れた地域の人々と旅行者の間に、本当の意味での文化交流は生まれないし、足跡も残らない」。

旅先での偶然やハプニングも大事にしながら、現地での過ごし方を決められる個人旅行にこそ、醍醐味がある、との考えから、個人旅行者にフォーカスし、思い立ったらすぐに予約できる旅先体験予約プラットフォームというビジネスモデルを構想していった。受け入れデスティネーション側にとっても、それまで海外の個人客は、リーチするのが難しい客層だったが、クルックが橋渡し役となっている。オーバーツーリズムなど、一度に大量送客する旅行の副作用が社会問題になるなか、個人旅行者に特化した同社がサプライヤーから支持される理由の一つだ。

訪日インバウンドと日本発アウトバウンドの両輪で加速

日本にはクルックが創業して間もない2015年に進出、現在は東京と大阪にオフィスを構えている。今春、ソフトバンク・ビジョン・ファンドからの出資を受けたことで、目下、日本における陣容を急速に拡大中だ。新しく北海道、沖縄、九州などでの拠点開設を検討しており、人員体制は実に3倍以上とする計画だ。

日本マーケットに精通したローカルスタッフを増やすことで、訪日インバウンド市場に加え、日本発アウトバウンド市場の開拓にも着手。クルックが取り扱うアジアや欧米の旅行素材を、日本人旅行者向けに、言語、決済からマーケティングまでを、あらゆる面で「最適」な形で提供する体制を整えているところだ。今年4月から稼働した日本語版のウェブサイトでは、今のところ、アジア各国へ旅行する人の利用が多いが、2020年には、米国ロサンゼルス、ハワイ、欧州主要都市などのプロダクトも日本人旅行者向けに拡充していく。

日本版アプリのインターフェースの画像

クルックが成功した3つの要因

旅先体験のことをクルックでは“イン・デスティネーション・サービス”と呼ぶ。「この分野は、飲食から鉄道、USJのチケットからショッピング・クーポンまで、幅広い商品があり、それぞれユニーク。ここまでの道のりは非常にチャレンジングだったが、各地のパートナー企業の協力に支えられてきた」とイーサン氏はこの5年間を語る。目指すのは、世界中で誰もが知っている旅行ブランドとなり、旅先体験分野のものなら何でも揃うスーパーアプリだ。

クルックより早く旅先体験予約プラットフォーム構築に着手していた同業他社もあるなかで、圧倒的な存在感を示し、ユニコーンと呼ばれるようになった秘訣は何か? イーサン氏は3つの要素を挙げる。

「第一にはテクノロジー。クルックはどんな会社か、と聞かれたら、究極的には旅行素材を扱うテクノロジー企業だと答える。モバイル空間にいるとき、人は待たされるのが大嫌いで、即時性はとても重要だ。それから何か便利なこと、お得なこと、面白いことを期待している。だからクルックでは、インスタント・コンファーメーション(即時予約)や旅行者のサポート、世界各地で大勢の旅行者が同時に利用しても問題ない盤石なマーチャント・システム作りに多額を投じてきた」。

もう一つは人材。「クロス・カルチャーな環境下でのコミュニケーション能力。ダイバーシティ。チームの一員として力を発揮すること。これがグローバル企業としての我々のDNAだ」。この2つの条件を満たしたからこそ、クルックは世界各地で受け入れられたと考えている。

3つ目は「グローバル・カンパニーとしてのネットワーク」だ。「旅行業において、グローバル・ネットワークがあるかどうかは、重要なポイントだ。例えば日本のサプライヤー各社は、クルックが一部のマーケットだけに強いのではなく、世界中からインバウンド旅行者を送客できるところに魅力を感じている」(イーサン氏)。

すでにクルックは東南アジアと中華圏(台湾、香港、中国本土)、韓国では抜群の知名度を誇り、UAEやインドでも成長著しい。次なる目標は、欧州と米国でも、ナンバーワンの旅先体験予約プラットフォームとなることで、ここ2年ほど、グローバル展開を急いできた。

特に力を入れているのが欧州で、既存のロンドン、アムステルダム、バルセロナに続き、間もなくミラノとベルリンに拠点を開設。現在、世界全体では20都市にスタッフ1500人を抱えるが、2020年までに30都市とし、人員数も倍増する計画だ。すでにフランス語、スペイン語、ロシア語、ドイツ語対応が始まっており、イタリア語も近く始まる予定。これにより、欧州の旅行者による利用増を期待している。北米では、ボストンとサンフランシスコに拠点を置く。現在、クルックのウェブサイトやアプリに掲載されている旅行素材は、世界350都市をカバー、計10万件以上にのぼる。

商品のラインナップに加え、使用言語、通貨、決済手段でも、ローカライズを急ピッチで進めてきた。現在、対応している通貨は41種類。決済手段では、例えば東南アジアだけでも、ドラゴンペイ、モモ(MoMo)、ドク(Doku)など多種類に対応している。

日本、中国、欧州では「鉄道」に注力

JR西日本との提携を発表する大阪での記者発表会

2020年に東京五輪を控えるなか、訪日インバウンド市場対策では、香港や台湾など、世界各地の日本政府観光局との間でも連携を深める一方、東京エリアで体験できるアトラクションやアクティビティの掲載数は、2016年比600%増に拡充している。混雑緩和に向けて、都内からの日帰りツアーや、近隣地域のプロダクトを増やす一方、日本国内の旅行素材のデジタル化も急ぐ。その一環として、9月半ばから、JR西日本との提携により、レールパスを電子チケット化し、窓口ではなく券売機で切符に引き換えられる新しいプロダクトが実現した。

さらに今秋から、プラットフォーム上に「鉄道パス&レール」のセクションを開設。ここに欧州各国や日本、台湾などの鉄道チケットを一か所にまとめて紹介する形に一新した。もともと鉄道チケットやレールパスは、クルックが創業当初からって扱っている商品で、旅行者からの人気は常に高い。そのため、従来、主にデスティネーション別で紹介していた世界の鉄道チケットを一つの場所でみられるように集約した。鉄道は今、クルックがグローバル全体で、力を入れている分野なのだ。

イーサン氏は「日本、欧州、中国の旅行マーケットを考えると、鉄道は絶対になくてはならないコンポーネントだ。日本ではまだレールパスの取扱いのみとなっているが、欧州や中国では、すでに区間乗車券もクルックのプラットフォーム経由で予約できるようになった」。もちろん日本の鉄道網についても、将来的には同様の体制を実現したいと考えている。

「JRのレールパスは人気が高く、日程や利用エリアに幅があるので、予約キャンセルのリスクも低い。だが3度目、4度目のリピーターにはどうだろう」とイーサン氏。今後、増えていく訪日リピーター旅行者の満足度を高めるには、区間乗車券のデジタル化は必須だとの考えから、「クルックのテクノロジーを活用し、我々が協力できることから、着手していく」。

訪日インバウンド旅行者の間で関心が高いのは、秋の紅葉シーズン、冬のスキーなど、季節感を打ち出したもの。こうした季節モノは、知名度が低いエリアに目を向けてもらうきっかけにもなっていると言う。関西ではUSJ、関東ではチームラボの人気が根強い。インフルエンサーによるSNS拡散が奏功し、着物を着て、明治神宮など伝統的な日本を感じられる場所で写真を撮る体験も人気だ。アウトバウンド旅行者と同様、空港で受け取るWiFiやSIMカードへの需要も大きく、これも力を入れている分野の一つだ。

ユーザーがどこで時間をつかい、何に関心を示しているかは、データサイエンスやAIを使って常時、分析している。「我々のようなプラットフォームの存在意義は、たくさんのプロダクトを提供し、そこにたくさんの利用者を集めることで、消費者が本当に探しているもの、最終的に選んでいるものが把握できること。色々な試行錯誤を行っている」(イーサン氏)。

キャンセルやトラブル対応を支えるローカル体制

旅先体験予約プラットフォームの利便性が高まるのに伴い、問題視されているのがキャンセルのリスク増大だ。イーサン氏は「ここでも大きな原因の一つは、異文化間のギャップであり、それを少しでも埋めるよう、工夫するのが我々プラットフォームの役割」と捉えている。

日本は事前に予約して、その時間を厳守することが当たり前の社会だが、国によって温度差がある。アジアの中には、慢性的な渋滞など交通事情の影響もあり、1時間ぐらいの遅刻なら「予定通り」と見なす国もあるし、間際の予約キャンセルは当たり前という国もある。こうした相違をまずクルック自身が理解し、ゲスト側とホスト側の橋渡しに心を砕く。

例えば日本では、ツアーを予約した旅行者に、当日、必ず時間を厳守するようリマインドしているが、これは他の国ではやっていない。小さなことだが、旅行者の母語で、日本における注意点を伝えるひと手間が、トラブル回避に役立っている。

「日本の大ファン」と話すイーサン共同創業者兼CEO

クルック全体でのキャンセルをゼロにするのは難しいが、「何か問題が生じたときは、クルックのローカルスタッフがサプライヤーを全力でサポートしている。万一の際は、我々から利用客に連絡をとるし、決済の問題であれば、現地の銀行や役所など担当当局ともやり取りしている」(イーサン氏)。

クルックでは、世界全体のオペレーション経費のうち、かなりの部分を、こうした旅行先におけるサポート体制の構築に充てている。コストや労力は膨大で、時には難しい業務になるが、意外に外からは見えにくい部分でもある。だが「ここに割いている資源は、同業他社よりずっと大きいと自負している。引き続き、カスタマーサポートには注力していく。それが最終的には、旅行者とサプライヤーの両方にメリットをもたらし、クルックの価値につながる」とイーサン氏。

昨今、世界中のオンライン旅行関係者が、手ごわいライバルになり得ると警戒するオンラインの巨人、グーグルについても、ユニコーンを率いるリーダーは「今、最も注目する企業ではあるが、競争相手とは思っていない。クルックとグーグルは、どちらもテクノロジーで世界をコネクトするビジョンを持っている。むしろ、よきパートナーになると思う」。その理由は明快で、両社は、提供するサービスや価値が異なるからだと説明する。

航空券でもホテルでもなく、旅先体験の予約というマーケットにフォーカスしてきたクルックだからこそ提供できる、サプライヤーや旅行者への手厚いサポート体制は、簡単に真似できるものではない、という自信がきらりと光った。

広告:クルック(Klook)

問い合わせ:masahiro.yamazaki@klook.com

編集・記事:トラベルボイス企画部