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HISの成長戦略を聞いてきた、旅行事業はM&A加速、海外のホテル事業は高級路線で

エイチ・アイ・エス(HIS)は今後の成長戦略として、主力の旅行事業では拡大成長を続ける世界の旅行事業を取り込むグローバル事業を強化するとともに、ホテル事業で地方都市や海外展開を本格化する方針だ。ホテルは、中長期的に国内100軒・海外100軒の展開を目指す。先ごろ行われた決算発表の席上、代表取締役会長の澤田秀雄氏ら経営陣が説明した戦略をまとめた。

澤田氏は、今期(2020年10月期)は連結売上高9000億円を目指すとしたうえで「旅行事業は2ケタ増を維持して7940億円を目標としている」とした。また、ホテル事業については2割近い増となる「150億円を目指す」とし積極的な投資を進める考え。

旅行事業に関して、今期の売上高目標は前期比11.0%増に相当するが、大きな伸びを期待するのが海外での旅行事業だ。同事業は2017年度67.8%増、2018年度46.0%増、2019年度42.1%増と大幅に売り上げを伸ばしてきており、今期も他の旅行事業セグメントを上回る伸びが見込まれている。

成長の原動力に位置付けられているのがM&A戦略で、東南アジアではトラベルテックカンパニーのM&Aを計画。具体的な会社名は挙げなかったものの、候補となっているのは「スタートアップながら、ボーダレス発券ができてLCCとも接続しグローバルプレイヤーとも契約があり、NDCにも対応している企業」(織田正幸取締役常務執行役員)だという。狙いは、東南アジア域内に数多くあるIATA未加盟の旅行会社にB2Bソリューションを提供すること。「ニッチな市場だが成長の余地がある未開拓市場を、マーケティング費用をかけずに固め、体力をつけてからB2Cにも進出したい」(同)としている。

またオセアニアでも、HISが苦手とする日本人旅行者以外の欧米等のマーケットに強いDMCのM&Aを計画しており、オセアニア地域での存在感の拡大を狙う。

北中南米地域では、カナダで欧米人中心のグローバルインバウンドを取り扱うJonview社や、カナダ人のアウトバウンドを取り扱うREDLABEL社を、すでにM&Aによってグループ会社化しているが、HISカナダホールディングスを設立して経営統合を進めると同時に事業を整理し直して効率化を図る。

具体的にはHISの直接事業は、強みがある日本人受け入れ事業に特化し、それ以外の事業に当たっていた人員やリソースはJonview社に移し替え、「強い部分は強いところに任せ、グループ各社のメリハリをつける」(織田常務)方針だ。

このほか海外における旅行事業では着地型事業に注力。ヨーロッパではミキツーリストとも協力して現地でのバス事業を強化し、日本人以外の旅行需要の取り込みも図る。ハワイではハワイ州観光局認定サテライトオフィスのハワイ第1号店としてリニューアルオープンしたロイヤルハワイアンセンター内「LeaLeaラウンジ」に関し、「今後はHISの顧客以外にもクレジットカードホルダーなどへのサービス提供などによりマネタイズしていけるよう営業展開している」(同)。

日本での旅行事業はさらに海外旅行に注力、羽田効果を最大限に

日本における旅行事業(海外旅行、国内旅行、訪日旅行)は、2019年度の売上高が5421億円でグループ売上高の75%を占める主力事業。HISの強みである海外旅行事業でさらなるシェアアップを目指す。

同社によれば主要旅行業者における海外旅行取扱額のシェアは2018年度に全体の2割を超え、2019年度も0.7ポイント上昇して21.2%となった。さらなるシェア向上のため、今期は羽田空港発着枠拡大に伴い2020年夏ダイヤからロングホールの米欧路線が大幅に増加することから、他社に先行して仕入れを確保。羽田効果を最大限に取り込む戦略だ。

グアム方面ではチャーターを強化し年間で昨年の2倍のチャーターを計画している。またクルーズでは日本発着自社クルーズを強化し、ゴールデンウィークには豪華客船「MSCベリッシマ」で2200キャビン・4400人分を借り切り、過去最大級のチャーターを実施する。

さらにオンライン販売を強化する。19年度に売上高の30%を超え、送客数では店舗を初めて上回ったオンライン販売は、「スマートフォンでの商品予約が主流となる時代に合わせてウェブサイトをリニューアルし、UI/UXのより一層の向上を図る」(中森達也取締役専務執行役員)としている。

さらなるホテル事業の加速、海外では高級路線で展開へ

澤田会長が「今後が非常に楽しみ」と期待するホテル事業では、10月末時点で4カ国36ホテルを展開しているが、今後は「まずは3~5年で国内で100軒、いずれは海外でも100軒をホテル展開したい」考えだ。

決算発表に登壇した澤田秀雄会長

現在は国内で毎月1~2軒のペースで新規ホテルを開業しており、「『変なホテル』のように100室~200室を7人程度で運営できる、生産性の高いホテルを展開していく」(澤田会長)とし、海外では「国内とは異なり4つ星、5つ星のホテルを良い立地を選んで展開する」(同)。

2020年度には国内では京都、奈良などでホテル開業を予定しており、海外ではウズベキスタンやトルコでホテルが開業する。ほかにベトナム、ニュージーランド、ニューヨーク、ロンドンでもホテル開業の準備を進めている。

ホテル展開の拡大目標の達成に向けて、既存ホテルの買収、リース物件、土地・建物をゼロから用意する物件という「3つの方式を全部やる。そうでなければ目標件数は達成できない」(澤田会長)としており、「良い物件があれば買収していく。また利益が出せなくなったり後継者問題に悩む地方の旅館の再生も手掛けてみたい」と宿泊施設の再生事業にも意欲を見せた。

さらにホテルを商品化した不動産業にも進出する意向で、「ホテル展開は増やしていくが、一方で稼働率が高いホテルなどは売ることも考えていく。これまでにもウォーターマークホテルの物件を売却したように、利回りが大きければ売却し不動産業として利益を上げることも考えていく」(澤田会長)と話した。