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HIS、国内店舗3分の1を閉鎖、国内旅行に本腰、コロナ禍でまずは資金確保

エイチ・アイ・エス(HIS)の2020年10月期第2四半期(2019年11月1日~2020年4月30日)の連結業績は、新型コロナウイルスの影響を受けて減収減益となり、営業損益、経常損益、四半期純損益とも赤字となった。売上高は前年比8.9%減の3443億5300万円で、営業損益14億6900万円、経常損失7億6000万円、四半期純損失34億5900万円となった。

オンラインで開催した決算会見で、代表取締役会長兼社長の澤田秀雄氏は「影響を大きく受けているのは旅行事業」と、売上の8割強を占める旅行事業の影響度合を強調。旅行事業の業績は、売上高が11.0%減の2995億円(372億円の減収)、営業損益が16億円の赤字(78億円の減益)で、特に主力の海外旅行の売上が34.4%減の1301億円(685億円の減収)と激減した。国内旅行も32.9%減の198億円(97億円の減収)となり、訪日旅行は56.3%減の66億円(85億円の減収)と半減。海外での旅行事業は、52.8%増の1430億円(494億円の増収)とプラスに作用したが、それはM&Aによる新規連結寄与によるものだ。

HISでは今後、コロナ対策とし、企業継続に向けた資金確保と、収益の中核事業である旅行事業で、テコ入れを行なう方針だ。

経営面は200億円のコスト削減と手元流動性の確保へ

会見で、経営面でのコロナ対策として澤田氏は、コスト削減の徹底と手元流動性の確保に注力する方針を強調した。

コストに関しては、今期は人件費や店舗賃料、宣伝費などで200億円を削減し、年間コストを現在の1300億円から1100億円へ縮小。また、設備投資もシステム開発は内製化やコストの安いインドでの開発、ホテル開発は一部キャンセルや延期などを行ない、約90億円を削減。さらに、新規資金調達として3銀行と計330億円のコミットメントラインも契約した。「来期中間期までのリスクを考えて運転資金として設定した」(取締役上席執行役員最高財務責任者・中谷茂氏)という。コスト改革については来期以降も継続し、年間1000億円へとさらなる構造改革を図っていく。

資金確保の徹底的な取り組みを行なうことで、(コロナの影響で)収入が期待できない中でも、経営を安定的に継続していく。

HISでは、前期末までに5774億円にまで増やしてきた総資産が、本中間期に4881億円に大きく減少した。コロナによる旅行前受金の減少と借入金の返済で、預金額が940億円減少したのが要因で、そのうち650億円がHIS単体によるものだ。下期にはHIS単体で350億円のキャッシュフローを見込んでいたが、これがコロナによってゼロになった上、旅行前受金の返金240億円が発生するため、このままでは新社屋の購入などその他の支出をあわせると、HIS単体の預金額はマイナス40億円になる見通しだという。

旅行事業はリソースを国内旅行へ配置、店舗は3分の1閉鎖

主力の旅行事業では、今後の市場回復は、近隣国内旅行から遠方国内旅行、海外旅行・訪日旅行の順に戻るとの想定のもと、当面の主軸を国内旅行へ転換し、「本気で国内旅行に取り組む」(取締役専務執行役員 HIS JAPAN プレジデントの中森達也氏)。その基盤を訪日旅行にも活用して、規模拡大へと繋げていく。海外旅行も収束後を見据え、「反転速攻」の準備をする。中森氏は、「過去にもいろんな危機があったが、有事に強いHIS。危機の後には必ず、シェアが大きく拡大した。今回もそこを目指していく」と、自信を示した。

具体的には、国内旅行に海外旅行のリソースを再配置し、商材仕入れを強化して、バスツアーの拡充とダイナミックパッケージを促進する。社内プロジェクトに加え、国のGo Toキャンペーンでは、ハウステンボスや傘下ホテルとのグループシナジーも発揮し、国内旅行の売上高を従来の1.5倍となる1000億円を目指していく。この基盤を訪日旅行でも生かし、受け入れ体制を本格的に整備。海外からの送客を含めたグループ全体の訪日旅行総取扱額となる約460億円から、さらなる拡大を図る方針だ。

海外旅行については、今後の市場回復を、第1フェーズは感染の少ないグアム、台湾、ベトナムから、第2フェーズでオセアニア、ハワイ、韓国、その他アジアへ、第3フェーズで欧州、中近東、第4フェーズでアメリカ、中南米、アフリカと広がっていくと想定。政府観光局や航空会社、ホテル等へ積極的に働きかけ、早期の需要回復を図る。回復局面では「出発2日前まで取消料不要のグアムツアー」などの商品造成も行なう考えだ。

さらに、海外での旅行事業では、オンライン体験ツアーやサブスクリプション式の旅行商品の試験導入など、新需要の創出を図る。海外拠点のスタッフを活用したリモート出張代行や商事事業、物販・ECサイト事業、人材派遣事業など、新収益モデルにも取り組んでいく。

一方で、コスト削減として、国内の店舗数を今後1年間で、現在の258店舗の3分の1にあたる80店舗から90店舗程度を閉める方針も示した。都市圏の重複部分を整理する方針で、澤田氏は「コロナ以前から計画していたこと。店舗の時代は半分終わった」と強調。その分は、オンライン販売の強化で補っていく。本社内には20人の人員によるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進本部を設置しており、ウェブやテクノロジーを活用した新しい旅行のビジネスモデルを構築していく考えだ。

ハウステンボスなどセグメント別業績

その他、セグメント別業績は以下の通り。澤田氏はオンラインで開催した本記者会見で、成長領域へ経営資源を投入し、特にエネルギー事業を大きな成長の柱として注力する考えも示した。スマート農業や宇宙ビジネスなど、新規事業への取り組みも継続する方針だ。