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宿泊施設の価格戦略を考えた、コロナ禍で目指すべきは高付加価値の商品開発【コラム】

初めまして。船井総合研究所で旅館・ホテルなど宿泊及び観光業のコンサルティングをしている甘利元(あまり はじめ)です。大手テーマパーク、ホテル、飲食業の経験を活かし、全国を飛び回っています。

新型コロナウイルスの収束が見えないなか、密閉、密集、密接という3つの“密”を回避する点は理解しているものの、なかなか打開策を見出せていない宿泊施設の方も多いのではないでしょうか。宿泊施設がいま、すべきことはなにか。今回は価格について掘り下げていきたいと思います。

稼働率と粗利、どちらを重視するか?

最初に皆さんに考えてほしいのは、稼働率を重視するか、粗利を重視するのか。新型コロナウイルスの影響で客足が遠のき、前年対比がかなり下回っているなか、どちらが正解でしょうか。それぞれの場合のメリットとデメリットを下記にまとめました。

【稼働率重視の場合のメリットとデメリット】

【粗利重視の場合のメリットとデメリット】


この表を見て、みなさんはどう感じましたか?

私は、粗利重視を提唱します。理由は、新型コロナウイルスの感染防止に伴う安心・安全対策によってコストが上昇しているにもかかわらず、安売りしてしまうと、今後その価格でしか宿泊してくれなくなる傾向が強いためです。もちろん、客室稼働率が低いと心配になり、従業員のモチベーションが下がる点も不安でしょう。しかしながら、値下げは誰でも簡単にできますが、値上げは簡単にはできません。今まで築いてきたブランドイメージを下げてしまっては、立て直しが厳しくなります。

都道府県ごとに違いもありますが、県民限定宿泊キャンペーンといった行政の施策を活用するのも手です。いまは有事にあたり、安心・安全が担保されているならば、「価格が高くても選びたい」という傾向が強まっています。こうしたニーズにあわせて、高品質で安心できるものを提供することが重要です。満足度が高ければリピートにつながり、応援していただけるからです。

コロナ対策でかさむコスト

新型コロナウイルスの影響で、旅館・ホテルなど宿泊業は安心・安全を担保するための対策に、通常時よりもかなりのコストがかかっています。消毒液やサーモグラフィー、透明ボードといった備品への出費だけでなく、実は目には見えない部分が人件費です。ソーシャルディスタンスや消毒徹底のために、人件費は普段よりかさんでいることでしょう。

たとえば、ある旅館は、助成金や補助金などで補う部分はあるにしても、設備や備品に300万円以上かかり、人件費も上がる一方で利益が減少しているそうです。大型の旅館やホテルであれば薄利多売は可能かもしれませんが、10部屋以下の小規模旅館の場合、薄利多売では最悪、営業していても赤字が続くことになりかねません。

たとえるならば、カレーライスが平時に原価250円だとします。しかし、有事で原価が500円になれば、いつもの価格で販売できるでしょうか?当然、値上げするはずです。野菜についても、台風をはじめとする災害時に値が上がることはお客様も理解しています。つまり、価格を上げることに対して恐れないでほしいということです。

しかし、お客様はただ単に価格を上げるだけだと不満を持ちます。一体、どうすればお客様に納得してもらえるのでしょうか。

納得感のある付加価値サービスとは?

  1. 送迎車を高級車にして1組限定送迎する
  2. いつもは出来なかったサービス付加でおもてなしUP
  3. 安心安全対策を目に見える形で提供、映像化も効果的

価格が上がった場合、お客様は必ず、上がった分、何が良くなったかチェックします。今回はコロナによる安心・安全対策が目に見える部分とはいえ、なかなか理解してもらえないのも実情です。お客様が一番肌で感じやすいのは何か。それは“おもてなし”です。

具体的な事例として、関東でルームサービスを24時間体制にした旅館があります。新型コロナ対策で人が増えた分、高付加価値の提供に踏み切ったのです。夜遅くまでルームサービスを提供しているホテルは少なくありませんが、旅館では非常に珍しいため、お客様からもかなり喜ばれているとのこと。“おこもり”需要を勘案し、ちょっとした“おつかい”に対応している旅館もあります。

また、新型コロナ対策では送迎車も重要なポイントです。通常は、ワゴン車などで複数組一緒に送迎している施設が大半だと思いますが、コロナ禍では高級車で1組限定にすることで安心感だけでなく、旅の思い出が深まり満足度も上がります。また、新型コロナ対策として、具体的に実施していることを紹介するビデオを流すことでも安心・安全対策を認知してもらうことができます。

価値にあった価格とするために

付加価値をつけてその価値に合った単価とするメリットをまとめてみました。

  1. 利益が残りやすい
  2. 生産性が高くなる
  3. 稼働が少ない分、高品質なサービスを提供できる
  4. 会員や常連客が利用しやすくなり応援してくれる
  5. 3密回避が出来て感染リスクが低くなる
  6. 高級イメージが保てるために今後安売りしなくてすむ
  7. クチコミが高く安定しやすい

ここで感じていただきたいのが、新型コロナ対策で実施している感染リスクの対策は、実は高付加価値の提供にもつながっているという点です。

高単価にすることを恐れずにチャレンジしてみてください。高付加価値の実現にもなり、お客様が納得してくれるはずです。

高付加価値の商品開発とは

最後に、実際の商品開発のコツについて、九州にある9部屋の高級旅館、北陸・中部地方にある高級旅館、九州にあるオーベルジュが実施した事例からポイントを一覧でまとめてみました。

  1. 全室に露天風呂を設置
  2. TVを50インチ以上にする
  3. ネットフリックスやYouTubeが備わっているTVにする
  4. ウェルカムドリンクをシャンパンにする
  5. 送迎車をセンチュリーなどの高級車にする
  6. 冷蔵庫のドリンクをインクルージブにする
  7. 地域の人気薬膳や麹のお店が監修した料理をつくり高ブランド化する
  8. 地域の飲食店と連携し、1泊3食にする
  9. 地域の医療機関に寄付する金額を含めたプランを作成して価値を高める
  10. 山菜取りなどの体験コンテンツを付加して宿泊費に含める
  11. 星を見るツアーを宿泊料にインクルージブにする

ここから読み取れるポイントは、人が触れるものにお金をかけること。難しく考える必要はありません。タオルやアメニティーからでも大丈夫。新型コロナによる影響がある今はお籠り需要が高まっています。だからこそ、人がふれる部分に、お客様は一番敏感になっています。また、体験コンテンツは地元の自然や素材を活かすことが重要。非日常・異日常を味わえる商品開発こそが、高付加価値を提供できる高単価宿への道となります。

自社の規模や状況に合わせたモデル構築を

  1. コロナ対策で安心安全対策にはコストがかかっている
  2. 高単価商品を開発することを恐れない
  3. 高付加価値提供でお客様は高単価でも納得する
  4. 新型コロナ対策が実は高付加価値提供にもなっている
  5. 自社の規模に合わせたモデルを探し改革するのは今がチャンス

大手旅館やホテルの値下げ情報が流れると、自分たちの宿も値下げしないと来てくれないと錯覚しがちです。しかし、規模や宿数の違いを考えると、同じことはできないはず。10部屋未満の宿が100部屋以上のチェーン店宿と同じことをしてはなりません。平時ならば当たり前のことが、有事では分からなくなることもあるでしょう。

大切なのは、自社の宿の規模や状況に似たモデル宿を探して定点観測すること。情報に踊らされず、まずは粗利を獲得して新型コロナ収束時に手を打てる財源を持たなければ意味がありません。日本の伝統産業である旅館やホテルなどの宿泊業の火を消してはならないのです。

甘利 元(あまり はじめ)

甘利 元(あまり はじめ)

船井総合研究所 上席コンサルタント。大手テーマパークやホテル・飲食業の経験を活かして宿泊施設のコンサルティングを行う。現在は300年以上永続経営ができる旅館・ホテルなど宿泊業づくりを提案。論文や講演など多数。