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LGBTQファミリー旅行を取り込む攻略法は? OTAの戦略や受け入れの考え方を整理した【外電コラム】

LGBTQの旅行マーケットに積極的なホスピタリティ関連企業やデスティネーションは、ここ数年で多くなった。そして、それは、もはや当然のこととして、受け容れられるようになっている。それでもまだ旅行のプランニングに、困難を感じているLGBTQがゼロとは言えない。

LGBTQとは、レスビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシャル(B)、トランスジェンダー(T)にクイア(Queer)またはクエスチョニング(Questioning)の頭文字Qを加えた単語。セクシュアルマイノリティ(性的少数者)を表すだけでなく、自分がLGBTのいずれに当てはまるかわからない人やLGBTに入らない人も含めた表現だ。

旅行先の地域で、自分たちは歓迎されるのだろうか? 危害を加えられる心配は? 現地の法律はどうなっているのか――?

個人旅行か団体かなど、旅行者側の事情によっても状況は異なる。なかでもややこしいのは家族旅行だ。同行者の中にLGBTQの人がいても、ファミリー客としてあたたかく迎えてくれるだろうか?

LGBTQの研修や啓蒙活動を行うホスピタブルミー(HospitableMe)創業者のビリー・コルバー氏によると、バケーションの計画では「LGBTQよりも家族が優先となる」。

「LGBTQの両親であっても、まず行き先と宿泊施設、現地で何をするかを考えるときには、子供たちの希望を最優先して決めていく」とコルバー氏。

「その後に、じゃあそのデスティネーションやホテル、現地体験は、我が家にフレンドリーか、歓迎してくれるだろうかと考える。これはゲイでもレスビアンでも、子供を持つ同性愛カップルに共通の傾向だ。同じことは、異性愛でシスジェンダー(自分の性別に違和感のない人)のカップルであっても、子供が少し変わっていて、自分の性別が男女どちらにも当てはまらないと感じていたり、性別に関する固定観念から自由になりたい場合にも当てはまる」。

LGBTQファミリーにとって、こうした心配を払拭するのは、なかなか手間のかかる作業で、トリップアドバイザーのレビューを読んで解決という訳にはいかない。それよりも友人や家族、LGBTQ専門の旅行ブログやインフルエンサーに頼ることが多くなる。

こうした情報は役に立つが、デスティネーション側やサプライヤー各社の方でも、LGBTQの旅行者や家族連れへの歓迎姿勢をもっと明白にし、現地到着後も安心して過ごせることを示す必要がある。

マーケティングの成功と失敗

LGBTQ向けの家族旅行ブログ「2人のパパと旅行カバン(2 Dads With Baggage)」を立ち上げたジョン・ベイリー氏によると、ここ数年で、旅行各社の受け入れ態勢はかなり進み、ターゲットマーケティングでLGBTQ市場にリーチするだけでなく、コミュニケーション一般において、同性の両親やLGBTQの家族を“普通”と位置付けるようになってきた。

それでもまだ、すべてのデスティネーションや企業が、LGBTQファミリーにも配慮したメッセージを発信しているわけではない。LGBTQ対応に関する情報が全くないところもある。

ベイリー氏が一例に挙げたのはジョージア州サヴァナで、自身のような家族連れを歓迎しているかの情報は“ゼロ”。これに対し、ニューヨーク、ラスベガス、サンディエゴの観光局では、ウェブサイトに専用セクションを設け、他とは違うコミュニティ向けの情報を提供している。

「もし私が何か検索している時に、(デスティネーションや企業の)検索広告が表示されたら、他の公民権やマイノリティ対応サイトよりも先に、まずそこにアクセスする」(同氏)。そして関連情報を探すという。

「各地域や企業がお互い競争しながら、我々を誘致し、予約を獲得しようとしているのだから、当然、できることはやっているはずだ。そうでしょう? 使いやすく、安心できるサイトが見つかったら、情報が何も出ていないサイトではなく、そちらを選ぶに決まっている」。

コミュニティ・マーケティング&インサイトによる2019年版「LGBTQツーリズムとホスピタリティ業界調査」では、LGBTQ旅行者が過去12カ月に取得した休暇の回数は平均3.1回。回答者の80%は、地元で暮らすLGBTQを大切にしないデスティネーションには行かないと答えている。

さらに回答者の69%は、LGBTQフレンドリーだと分かるホテルに滞在する傾向にあり、大多数は、そのホテルや企業が、性的指向に関する差別撤廃を掲げていたり、スタッフ向けにLGBTQの多様性について学ぶ研修を実施しているかどうかも重視している

「(ブランド企業各社は)ここ一世紀ほど、主な顧客層向けのマーケティングとブランド認知度アップに取り組んできた。この辺で、そろそろ新しいオーディエンスの開拓に目を向けるべきだし、それで今までの顧客層を失う恐れもない。二者択一ではなく、顧客層のさらなる拡大になる。」

「ブランド各社に、私はいつもこう言っている。失うものは何もなく、得るものばかりだ」(同氏)。

ブッキングドットコムの賭け

大手旅行ブランドの中では、OTAのブッキングドットコムがLGBTQ旅行者やファミリー客への対応に力を入れており、「トラベル・プラウド(Travel Proud)」プログラムがスタートする。

同戦略が動き出したのは数か月ほど前のことだ。コネティカット州ノ―ウォークを拠点とする同社では、当時、別のプロジェクト関連の調査をおこなうなかで、LGBTQの3人に一人が、ホテルのスタッフからどう見られているか心配していることが分かったという。「世界全体で考えたら膨大な人数になると思った。それほど多くの人が、旅行するとき、ありのままの自分を見せることに躊躇していたということだ」(同社広報)。

そこでブッキングドットコムが考案したのがトラベル・プラウドだ。宿泊関連のパートナー企業に、75分間のオンライン研修「プラウド・ホスピタリティ」を受講してもらい、「プラウド認定」を授与する。研修内容は、ホスピタブルミーの協力を得て開発した。

このトレーニングが目指すゴールは、違う視点から物事を考えられるようにすること、そして即、実行できるテクニックや実用スキルを伝授することだ。

研修を修了したパートナー企業には、ブッキングドットコムのサイト掲載時、レインボーカラーのスーツケースをデザインした「プラウド認定バッジ」を付ける。研修は無料。LGBTQ旅行者がもっと居心地よく過ごせるための施策について、さらに詳しくまとめた「トラベル・プラウド・カスタマー・ツールキット」なども含まれている。

トラベル・プラウドのパイロット版は数週間以内に始まる予定で、アムステルダム、ベルリン、マンチェスターなどの宿泊事業者が参加する。

ベスト・プラクティス

ホスピタブルミーのコルバー氏は、従業員研修が、企業ブランドの(マイノリティに対する)受け容れ姿勢を整える上でカギになると確信している。

「自社のことを‘LGBTQフレンドリー’だと言うブランド企業は増えたが、TやQが何かも知らない。どうすればもっと歓迎していることになるのかなど、全く分かっていない」と同氏は話す。

「ホスピタリティ産業に従事している人のほとんどは、LGBTQがどんな人々か、彼らの旅行体験をより良いものにするために何が必要なのか、といった問題について、専門的な知識に触れたことがないと気が付いた」(コルバー氏)。

そこでホスピタブルミーでは、LGBTQファミリーのために、ザ・トラベルコーポレーション(TTC)などの企業と連携し、実際に役立つ事例を紹介するようになった。コルバー氏は、こうした模範的な事例のことを「(新しく始まっている)新興事例」と呼んでいる。世界が複雑な問題を取り上げるようになり、動き出した新しい分野だからだ。例えば、男の子、女の子といった従来の区分に当てはめることが難しい子供たちに、どう接するべきか。

コルバー氏が目指すのは、こうした家族や子供たちが直面している問題について、従業員が理解を深め、「彼らをリスペクトすることに力を入れている。他のすべての接客時と同じ心遣いと優しさをもって、公平なサービス提供のために必要なことがあれば、気持ちよい態度できちんと聞くことだ」。

TTC傘下のユニワールド・ブティック・リバークルーズ社のグローバルセールス担当上級副社長、クリスチャン・アンダーソン氏は、ホスピタブルミーによるLGBTQ感受性に関する研修を受けた一人だが、この経験がリバークルーズ販売において、他社との差別化に役立ったという。

「当社の社員は一人残らず、オペレーション、営業、予約、マーケティングとあらゆる部署で研修を受けており、LGBTQの顧客に接するときは、どんなことに注意し、どのように敬意を示し、相手のニュアンスを読み取るべきかを学んだ」。

旅行各社が抱えている最大の難問は、こうしたトレーニングに投じる予算を捻出できるかだとコルバー氏は話すが、アンダーソン氏は「無駄遣い」の心配はないと断じる。「追加でさらに投資が必要になったり、手間がかかったりすることはない。求められているのは、もっと注意深く、相手の話を聞くこと。すべては会話からだ」と話す。

ファミリー旅行者は、同じ滞在先にリピートする確率が高く、知り合いの家族へのクチコミ効果もあるなど、ロイヤルティが高く、期待できるマーケットだ。しかし、この市場を積極的に開拓しようとするデスティネーションや企業は、全体に占めるシェアで見ると、まだ「非常に少数派だ」とコルバー氏は話す。

「このマーケットにおいて、ブランドへのロイヤルティやクチコミ効果が高い理由は、逆に言えば、それだけ友人知人のおすすめや特定のメディア情報に頼らざるを得ないからだ。」

トラベル系各社に対し、分かってほしいと思うことは「みんなと同じように接することと、みんなを平等に扱うことは同じではない」とコルバー氏は強調する。

「他の人とは少し違った接客をすることが、公平なサービスの実現につながる場合もある」。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:How travel brands can capture - and welcome - the LGBTQ family market

著者:Jill Menze氏