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WiT Japan バーチャルを取材した、コロナ禍の旅行トレンドを国内OTAらが討論、模索が続く新しい旅のカタチも

今年7月に開催予定だった「WiT Japan & North Asia 2020」が新型コロナウイルスの影響で11月に延期された。これを受けて、オンラインで「WiT Japan & North Asia バーチャル」が7月3日に開催された。モデレーターはWiT創設者のイェオ・シュウ・フーン氏が務め、パネリストとして楽天トラベル執行役員・トラベル&モビリティ事業長の高野芳行氏、ベルトラ最高技術責任者の坂水健一郎氏、ベンチャーリパブリックCEOの柴田啓氏、サヴィーコレクティブCEOの浅生亜也氏が登場。コロナ禍の日本の旅行市場の現状と今後の見通しについて議論した。

新しい傾向で動き出す国内旅行

まず、柴田氏は運営するLINEトラベル.jpと旅行情報サイト trip101の直近データから、マイクロツーリズムとドライブ旅行の傾向を指摘したほか、「世界的にバケーションレンタルの予約が増加傾向にある。日本での予約もアメリカに次いで多くなっており、非常に興味深い」とし、その理由としてリモートワークの拡大を挙げた。

楽天・高野氏は国内旅行予約の状況について、緊急事態宣言発出後は落ちものの、解除後から緩やかに回復していると説明。レンタカー予約も、国内旅行予約の回復スピードと合わせるように伸びているという。楽天トラベルでは、提携宿泊施設に対して感染防止対策の徹底を呼びかけており、同社が提供する対策チェックリストには7月1日現在で1万5000以上の施設が参加していることも紹介した。

同社では、今年5月にユーザーに対して意識調査を実施。新型コロナウイルスによって宿泊施設の選択基準が変わるかどうか尋ねたところ、25%以上が「変わる」と答えた。最も重視する点は「消毒・衛生対応」。一方で、高野氏は「『割引』と答えた人は非常に少なかった」ことを特徴として挙げたが、まもなく開始のGoToキャンペーンへの期待を寄せた。

2019年の日本人国内旅行消費額は約21兆9000億円で、旅行市場全体の78.5%を占め、訪日外国人旅行4.8兆円の約4.5倍にもなる。近年インバウンド市場が急速に成長したことは事実だが、国内旅行市場が日本の旅行産業の屋台骨を支えているのに変わりはない。

WiTバーチャルではライブアンケートも実施。視聴者に「国内旅行ビジネスだけで今年乗り切れるか」と質問したところ、全体の52%が「はい。しかし、もっと早く市場が動き出す必要がある」と回答。「いいえ。競争が激しい」が23%。「いいえ。自国の国内旅行規模は小さすぎる」が27%。視聴者は日本からだけではないが、「はい」と答えた人は日本人視聴者が多いと思われ、「もっと早い市場の動きが必要」にはGoTo キャンペーンへの期待が含まれていると推察される。

参加者5人が日本市場の現状と未来を議論模索が続く新しい旅のカタチ

将来の旅行市場への不透明性と不確実性は依然として強い。誰もが、晴れない靄の中で、その先にある光を見つけようとしている。そのために今できることとは。

タビナカ体験予約のベルトラの坂水氏は「アウトバウンドが戻るのは相当時間がかる。今は新しい国内商品の開発を積極的に進めている」と説明。また、現地のツアーガイドや旅行のプロフェッショナルからの情報を配信する「ベルトラKite」を挙げ、コンテンツビジネスを強化していく考えも示す。

宿泊施設のプロデュース事業を展開するサヴィーコレクティブの浅生氏は「コロナ以前から、ホテルのあり方をずっと考えてきた。ライフスタイルの一部として、宿泊以上のものを提供できるのではないか」と発言。バケーションの滞在だけでなく、コロナ禍では、あるいはアフターコロナでも、「法人のサテライトオフィスとしての役割もありえる」との考えを示した。また、ウエディングでは、オンラインとリアルとのハイブリッド型ソリューションも検討しているという。

柴田氏は、コロナ禍でもLINEの利用回数やテキスト・スタンプ・画像送信数が伸びていることに着目。接触機会を避けるウィズコロナでは、重要なツールになっていることから、将来の旅に向けてターゲットを絞ったメッセージを送る必要性を指摘した。たとえば、LINEトラベルjpでは、箱根「一の湯別館」の期間限定割引を関東、静岡、山梨在住ユーザーのみに送ったところ、48時間で780人泊が売れたという。

コロナ禍の宿泊先として旅館の注目度は上がっており、2回目のライブアンケート「どの宿泊施設の回復が早いか」でも、最も多かった回答が「旅館」だった。この結果について、浅生氏は「部屋食など、パーソナルで伝統的なオペレーションがこの時代に合っているのではないか。旅館はインバウンドを受け入れるためにオペレーションを変えてきたが、国内旅行者受け入れるために、従来の方法に回帰していくだろう」とコメントした。

高野氏も「楽天トラベルは国内で素晴らしいコンテンツを持っている。新しい生活様式でも強みを持っていると思う」と発言。豊富な旅館在庫を抱えていることから、国内市場での大手外資OTAとの競合に優位性があると自信を示した。

若者の需要喚起がカギに

今後、国内から旅行市場が回復していくのは間違い。そのなかで、モデレーターのシュウ・フーン氏は、「若者の需要刺激が必要ではないか」と問題提起。それに対して、高野氏は楽天トラベルが今年4月に実施した旅の思い出の写真をシェアするSNSイベントを紹介し、「5000枚以上の写真が投稿された。将来の需要喚起の方法のひとつだろう」と発言した。

また、柴田氏は、オンラインコンテンツの重要性を指摘。LINEトラベルjpの「旅行ナビゲーター」によるストーリーや体験をシェアすることが需要につながるとの考えを示し、坂水氏は「スマホによる日帰り旅行予約がカギ」と指摘。そのうえで、若者でも今後はよりパーソナライズされた旅が求められると付け加えた。