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旅館の伝統的な「おもてなし」は不要? 消費者3000人調査でわかったコロナ禍による旅行意識の変化 ―トラベルボイスLIVEレポート

上:東海大学小林寛子教授、下:トラベルボイス鶴本

新型コロナウイルス感染の流行に未だ収束の兆しが見えない中、宿泊施設やアクティビティなど、観光に対する消費者のニーズにもかなり大きな変化が生まれている。

2020年7月前半に開催されたオンライントークショー「トラベルボイスLIVE」は、東海大学観光ビジネス学科・教授の小林寛子氏を招き、全国約3000人の消費者に実施した「新型コロナウイルス感染症収束後の旅行・観光に関する意識調査」について語られた。

調査結果からは、消費者が必要不可欠と考える感染症対策、ニューノーマルの生活様式においては不要と思われるおもてなしなど、観光に対する意識の変化が浮き彫りとなった。

「使い捨て」希望が5割以上、求められるコロナ対応マニュアルの情報公開

この調査は、熊本県観光協会連絡会議が全国の一般消費者を対象に、2020年5月31日~6月2日にフェイスブックを通じて行い、小林氏は調査の設計から結果考察の執筆まで関わった。

有効回答数は3041で男性55%、女性45%と男性がやや多く、年代は40代と50代がそれぞれ約3割、60代と30代がそれぞれ約1.5割とミドル層が多い。平時の旅行頻度は「年に数回」の57%が、コロナへの衛生対策実施状況は「ある程度実施している」の67%が最多となっている。

宿泊施設の感染症対策について「ないと嫌だ」と思うものについて、最も回答が多かったのは「個包装・使い捨てのアメニティやスリッパの提供」の52%。続いて「来館者の全員マスク着用必須」「利用者数の制限」がともに48%を占めた。

小林氏は「『個包装・使い捨て』が最も多かったのはやや意外だったが、その次に多い2つの回答も合わせ、宿泊者同士による感染リスクへの懸念が強いと感じる」と話した。

また、「コロナ対策ポリシーおよび感染発生時の対応マニュアルの公開」が40%という点に着目し、感染症対策についてどのタイミングで確認するかという設問では、「訪問前」と「入館時」がともに36%で合わせて7割を超え、「あまり気にしない」の28%を大きく上回ることから「リスクマネジメントに関する関心の高さが伺え、感染症対策についての情報公開が今後の観光には必須と言える」と指摘した。

発表資料より

キャッシュレス決済のニーズは4割、安売りより徹底した感染症対策が優先

このほか飲食店、アクティビティ、イベントについても「ないと嫌だ」と思うものを聞いており、感染者が出た場合に濃厚接触者を特定するための「追跡システム導入」が、飲食店では24%、宿泊施設とアクティビティはともに31%、イベントでは41%で、小林氏は「不特定多数が集まる機会ほど、ニーズが高まっている点が注目される」と話した。

アクティビティで最も回答が多かったのは「利用者数の制限」で62%、2番目は「従業員が大声を出さない工夫」で43%となった。3番目に多いのが「受付の簡略化やキャッシュレス決済」の40%で、小林氏は「三密や接触をなるべく避けたい意向が強いと感じる。アフターコロナの訪日客の再誘致も見据えると、今がキャッシュレスシステムを導入する好機では」と指摘した。

また、旅館や観光施設などでコロナ感染対策が徹底された場合の料金について、最も多かった回答は「通常と同じであるべき」で44%を占めたが、次に多かったのは「多少(100~500円程度)上乗せされていても良い」で31%を占めた。

小林氏は「割引すべきという回答は少なく、安売りよりも徹底した感染症対策が最優先と考える消費者が多いと言える」との見解を示した。

発表資料より

お迎えや見送り、仲居さんのお茶出し、荷物運び「なくていい」が6割以上

この調査で興味深いのが旅館のおもてなしに対する意識についての設問だ。伝統的な旅館のおもてなし対応で、コロナ禍において「なくても良い」と思うものについて聞いたところ、最多が「スタッフ一同でのお迎え&お見送り」で70%、続いて「仲居さんからの部屋でのお茶&おしぼり出しなど」が67%、「客室までの荷物運び」64%と、いずれも6割以上と高い割合を占めた。

「トラベルボイスLIVE」の参加者にも同じ問いを投げかけたところ、「仲居さんからの部屋でのお茶&おしぼり出しなど」77%、「客室までの荷物運び」66%、「スタッフ一同でのお迎え&お見送り」「お車の移動」がともに59%と、順位は異なるが上位の項目はほぼ同じという結果となった。

小林氏が「上位を占めたのはどの老舗旅館でも当たり前に見られ、昭和から続く光景だが、お客様にとって本当の意味でのおもてなしになっているのか。形から入り、作法として行なっていた面もあるのでは。コロナ禍は改めて従来のおもてなしを見直し、新しい観光のあり方を検討する好機となるのでは」と述べ、トラベルボイス代表の鶴本は「コロナ禍においては非接触対応が求められる中、これまで日本の強みと言っていたおもてなしが弱みになっている可能性もある」として、「新しい観光のあり方を検討する好機」というのは重要なキーワードであると強調した。

発表資料より

旅行の希望時期は秋が半数以上、求められるのは現地発信のリアルタイム情報

この調査では今年度の旅行意向も尋ねており、希望する旅行時期については9〜11月が59%と最多で、8月の43%を上回ったが「今年度は行かない」という回答も12%を占めた。

旅行の対象範囲は「日本中どこでも行く」が47%と最多で、次が「自分の住む都道府県の隣県やエリア内」の29%、海外渡航が再開したら「海外まで行きたい」が15% を占め、小林氏は「予想以上に積極的な意向で驚いた」とコメント。

旅行を検討するきっかけについては、「割引クーポンなどキャンペーンの実施」が49%と最多だが、小林氏はその次に「観光地・観光施設からのリアルタイムの情報」が35%、「観光地・観光施設での感染防止策の取り組み情報」が30%と続くことに注目した。

「感染症対策の公開と同様に、求められているのが現地発のリアルタイムの観光情報で、将来の顧客とつながりを持ち続けることが重要。いずれも宿泊施設や観光施設が単独で行うのではなく、地域で連携して「面」で取り組むことが、選ばれるために必要と言える」と締めくくった。

上:東海大学小林寛子教授、下:トラベルボイス代表取締役鶴本(進行役)

※編集部注:この記事は、2020年7月6日の実施回をまとめたものです。