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コロナ禍で追い風、アウトドア「Snow Peak」社が狙う長野県白馬の「関係人口」創出の取り組みを取材した

アウトドアメーカー「Snow Peak」が長野県白馬村で運営する体験型複合施設「Snow Peak LAND STATION HAKUBA」が2020年7月23日に全面開業した。当初は今年4月にオープン予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期。5月23日に県内利用者向け限定オープンを経て、今回のグランドオープンとなった。現地で、コロナ禍での船出となった観光施設の開業と目指す未来を取材した。

白馬の自然へのゲートウェイに

Snow Peak会長の山井太氏はオープニングセレモニーで、「地域の皆さんに愛される施設として白馬の発展に貢献していきたい」と挨拶。また、同社社長の山井梨沙氏は「自然の中で白馬の人たちと外からの人たちをつなげる交流に力を入れていきたい」と意気込みを示した。Snow Peakとしては、この施設を白馬の自然へのゲートウェイと位置づけ、さまざまな体験コンテンツを用意することで、特に夏のグリーンシーズンでの需要喚起を進めていく考えだ。

Snow Peak LAND STATION HAKUBAの意匠設計を手掛けた建築家の隈研吾氏は「白馬の山々が美しく見えるように設計した」とデザインのコンセプトを説明。「アフターコロナで、人間が自然に回帰する象徴としての施設になってほしい」と期待を込めた。さらに、白馬観光開発社長の和田寛氏は、「白馬を世界で10本の指に入るマウンテンリゾートにしていく。この施設は、そのための大きな核になるもの」としたうえで、現在課題となっているオールシーズンでの集客に取り組んでいく考えを示した。

オープニングセレモニーでSnow Peak山井太会長、隈研吾氏、石川秀樹氏らが鏡割り体験コンテンツで地元と観光客との交流の場も

Snow Peak LAND STATION HAKUBAは、白馬三山の景色を望む、白馬村内の交通・商業の中心地にあり、東京からも新宿バスタから高速バスで5時間というロケーション。「スノーピークランドステーション白馬」というバス停まである。

施設は「店舗エリア」「野遊びエリア」「イベントエリア」で構成。屋内の店舗エリアには、Snow Peakの直営店に加えて、地元の物産品なども扱うほか、観光拠点の機能として白馬村観光局のインフォメーションセンターも入る。さらに、飲食関連では、白馬村では初となるスターバックス、ミシュラン三ツ星を獲得した「神楽坂石かわ」の石川秀樹氏が監修する「Restaurant 雪峰(せっぽう)」が入り、地元でも話題を集めている。

Restaurant 雪峰(せっぽう)

野遊びエリアでは、キャンプサイトを設置。キャンプビギナーでも手軽に楽しめる「手ぶらCAMP」プランを用意するほか、隈氏と共同開発したモバイルハウス「住箱」での宿泊プランも提供する。

芝生が広がる開放的なイベントエリアでは、信州の農産物やクラフトワーク、アートなどが集まる「週末マルシェ」を開催するほか、さまざまなイベントを催すことで、地域同士、地域と観光客との交流を生み出す場を創出していく計画だ。

このほか、体験型複合施設として、地元事業者と組んでさまざまなタビナカ体験コンテンツの開発・造成にも力を入れていく。

そのひとつが、行政や地元企業との協業で行うレンタルサイクリングサービス「Snow Peak GO」。電動アシスト自転車のレンタルに加えて、Snow Peak製のカフェセット、Restaurant 雪峰の特製ランチ、温泉入浴などをパッケージ化した。白馬村では、サイクリングを観光アクティビティとして訴求しており、Snow Peakと組むことで、一歩踏み込んだ白馬を発見してもらう機会を提供。白馬ファンを増やしていきたい考えだ。現在は、八方と岩岳の2つのコースを用意。今後も地元しか知らない素材を組み込んだコースを開発していく。

また、今年8月29日と30日には、1泊2日で地元食材と食文化の魅力を味わう「LOCAL FOOD TOURISM in HAKUBA」も開催予定。食体験だけでなく、キャンプ体験、地元生産者との交流の場を設けることで、関係人口の創出を目指す。

「Snow Peak GO」ではランチボックスやSnow Peakのカフェセットなどもパッケージ化コロナ禍でグリーンシーズンの需要開拓に追い風

白馬の観光の課題のひとつは、需要の季節平準化だ。

冬場には近年オーストラリアを中心にインバウンド需要が増加しているものの、日本のスキー人口が減少しているなかで、持続的かつ安定的に観光収入を確保していくためには、グリーンシーズンの誘客を進めていく必要がある。白馬村の下川正剛村長も「グリーンシーズンの観光客をいかに取り込んでいくかが重要」と話し、行政としても、従来の学生の夏合宿や企業の研修だけでなく、新たなマーケットの開拓に注力していく考えを示す。

その課題に対して、コロナ禍で白馬に追い風が吹いているようだ。

背景には、三密を避けられるアウトドア体験への関心の高まり、大自然の中でコロナによるストレスを解消したいという欲求など「新しい旅行様式」のトレンドがあると想像されるが、その傾向は、Snow Peak監修のもと、昨年7月に北尾根高原で開業したグランビング施設「Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA KITAONE KOGEN」で如実に表れている。

このグランピング施設の開発・運営に当たるのは白馬八方尾根スキー場の運営会社八方尾根開発。同施設支配人の山口聡一郎氏によると、オールインクルーシブで1人1泊7万7000円から12万1000円(税込、1室2人で利用の場合)と高価な宿泊料金ながら、7月から9月にかけてほぼ満室だという。その8割が直販。このグランピング施設を直接選んだ旅行者が大部分だ。しかも、キャンプ未経験者がほとんどだという。

山口氏は「コロナ禍での自然への関心の高まりとともに、今年の夏は、海外旅行が不可能なため、その需要がこのグランピングに流れてきた面があるのでは」と見ている。そもそも白馬のグリーンシーズンは国内旅行需要が中心だが、コロナ禍を機に新たにラグジュアリーマーケットとしての価値も高まりつつある。

Snow Peak FIELD SUITE HAKUBA KITAONE KOGENはテントルーム7室と住箱スイート1室「スキー場」から「マウンテンリゾート」へ

このほかにも、白馬では近年グリーンシーズンの需要喚起に向けた開発を進められてきた。

白馬観光開発は、昨年7月に標高1400メートルにある白馬八方尾根のうさぎ平テラス屋上に「HAKUBA MOUNTAIN BEACH(白馬マウンテンビーチ)」をオープン。トランジット・ジェネラル・オフィスの監修で、マウンテンリゾートながらビーチリゾートのような空間を創り出すとともに、サウナやジャグジーも設置することで、リゾート感を演出している。

また、2018年10月には白馬岩岳マウンテンリゾートに「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR(白馬マウンテンハーバー)」をオープン。秋には三段紅葉が楽しめる絶景ポイントとして、若者を中心に人気を集めているほか、森の中にWi-Fi環境を整えた空間を作り「森のオフィス」としてテレワークやワーケーションの需要取り込みにも力を入れている。

さらに、今年7月からは「サステナブル・リゾート」として、持続可能な開発目標(SDGs)の活動も展開。その一環として、徹底した地産地消を進める「Hakuba Deli(白馬デリ)」もオープンした。

白馬岩岳マウンテンリゾートに設置された「森のオフィス」。この隣が「白馬マウンテンハーバー」

地物野菜を使った「白馬デリ」のランチ。ドレッシングは「りんごみそ」。マウンテンリゾート先進国スイスのピークシーズンは夏。夏季にはホテルの供給が逼迫するほど世界中から観光客が訪れる。緑の山々が人のココロを癒やしてくれるグリーンシーズンのマーケットは潜在的に大きいはずだ。「スキー場」から「マウンテンリゾート」へ。Snow Peak LAND STATION HAKUBAは、文字通りその「駅」としての役割になると期待されている。

トラベルジャーナリスト 山田友樹