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HISの旅行事業戦略を聞いてきた、日本では徹底的に国内旅行を強化、海外では95拠点の削減、各国で航空券販売サイトを新設へ

2020年10月期(2019年11月1日~2020年10月31日)の連結決算で、2002年の上場以来、初の最終赤字となったエイチ・アイ・エス(HIS)。代表取締役会長兼社長の澤田秀雄氏は早期の黒字化を目指す方針で、2021年後半にも「黒字にもっていきたい」と意気込みを語った。主力の旅行事業では、大幅な構造改革によるデジタル化と効率化に取り組むと同時に、「シェア拡大の最大のチャンス」(取締役専務執行役員の中森達也氏)と危機時とはいえ、さらなる成長を視野に入れる。

一方、積極的なM&Aで、2019年10月期に旅行事業の25%を占めるようになった海外事業では、「ビジネスがない状況でも乗り切れる経営体制が必要」(取締役常務執行役員の織田正幸氏)と徹底的なコスト削減と同時に、新たな収益源の確保を目指して新規事業にも打ち出した。コロナ禍の現状からアフターコロナの展望まで、決算説明会で話されたHISの旅行事業戦略をまとめた。

日本の旅行事業:国内旅行は4倍成長、海外旅行はスピード感重視

2020年10月期の旅行事業は、売上高が前年比50.2%減の3596億円、営業損失211億円となった。HISでは今後もコロナの影響は続くとするが、英米でスタートしたワクチン接種の効果が発揮されれば、「2021年後半の7月~12月にかけて力強く戻ってくると思う」(中森氏)と展望。2022年に、過去最高の売上高となった2019年水準への回復を目指す方針だ。

これに向けて着手したのが、経営リソースの最適化とコスト構造改革。2019年第4四半期末から2021年第1四半期までの1年余で約100店舗を統廃合し、メインチャネルとしてオンライン化を早いスピードで進める。人員数も、採用の見直しと契約社員の期間終了で2021年には348人の減少を見込む。これにより、月間の経費を50億円から30億円以下に圧縮する。

経費改革と同時に、店舗のデジタル化・接客DXを推進。既存チャネルである店舗や電話、ウェブでのオンライン予約に、ビデオチャットのリモート接客を加えた「HIS選べる窓口」の試行を2021年1月に開始する。中森氏は「店舗を減らすだけではなく、顧客利便性も追求する。少人数で生産性を上げる新しいHISを作り上げる」と、構造改革で目指す姿を説明した。

旅行販売に関しては、海外旅行の需要回復局面までは経営資源を国内旅行に配置し、徹底的に国内旅行を強化する方針。中森氏は、GoToトラベルキャンペーンの東京追加後、国内旅行の受注状況が11月に前年比7%増、12月は45%増、1月は85%増で推移していることを説明。現在、感染拡大に伴ってGoTo停止などの議論がされているが、中森氏は「もしそうなったとしても、需要を確実に捉えて売上の大幅増にもっていく。6月まで延長の可能性もあり、夏の旅行がGoToにかかれば、もっと消費が大きくなる」として、発表内容に応じたキャンペーンを展開していく方針だ。

これに向け、国内旅行の仕入れ強化と商品数、在庫の拡充に着手。国内ダイナミックパッケージのシステムも構築し、本格展開を開始する。その他、鉄道ツアーの強化やチャーター事業の準備など、新たな商品とサービスを拡充。国内旅行の売上高を2021年10月期には2019年10月期(383億円)の3倍に、2023年10月期には4倍の1600億円へ成長させる。これにより、HIS単体の旅行事業で国内旅行が占める割合は、2019年10月期の8.7%から、2023年10月期には28.6%に拡大することになる。

HIS単体の売上シナリオ:HIS決算説明資料より

一方、海外旅行は、他社に先んじた攻勢を重視。中森氏は、リーマンショックや東日本大震災など過去の危機時も、他社より早い取り組みをすることで2~3ポイントのシェアを拡大したとし、その準備を進める。方面別の回復では、欧米の長距離方面は最後になると想定。ハワイ、アジア(台湾、シンガポールなど)、グアムの順で回復していくとみており、この方面だけでHISの海外旅行の65%をカバーできるという。特にハワイに関しては、現地での14日間隔離措置を免除する日本向けの事前検査プログラムが開始された後、1000名以上の予約を受注したという。

海外での旅行事業:航空券販売サイトをグローバル展開、オンラインツアーも事業化

海外事業を担当する取締役常務執行役員の織田正幸氏は、2021年度の海外需要は「ワーストケースを想定」し、徹底した経費削減に取り組んでいることを明かした。年間の販売管理費の半減(100億円~150億円)を目指し、2021年度までの2年間で人員数は2000名強、拠点数は95か所を削減する計画だ。

旅行販売では、各国の国内旅行に注力。また、新たにグローバル展開の航空券販売サイト「flyhub」を開設し、まずは9月にバングラディシュでローンチした。早速、11月は国内線航空券で1億円を売り上げた。今後はインドやマレーシア、トルコなどでの展開に向け、準備を始めている。

さらに、需要創造と新たな収益源の確保を目指す新規事業も、次々に展開。特にコロナ禍で注力するオンラインツアーは、オンラインエクスペリエンス事業として強化する。リアルの旅行が回復した後も「オンラインで体験し、リアルの旅行を選ぶ流れは標準化する。オンラインツアーがパンフレットの代わりになり、タビマエのマネタイズを実現する可能性を模索している」(織田氏)と見込む。現在は商品数750コース、体験人数は3万人超だが、2021年には2000コース、30万人へ拡充させる方針だ。オンラインツアーでの圧倒的な地位確立に向け、テレビCMなどのブランディングにも力を入れていく。

このほか、海外拠点を活かした日系企業の海外進出支援、出張代行なども強化。また、現地スタッフが厳選した現地商品の販売サイト「From the WORLD」や、米国で日本の食文化の紹介とミールキットの販売を行う「Umamikit」なども開始し、EC物販事業として展開する。既存の海外旅行の土産販売サイト「地球旅市場」は、海外旅行予約者だけではなくオープンマーケット向けに商品数を拡充する。「地球旅市場」の流通額は3億円程度だが、今後は2桁億円まで引き上げられると期待している。

なお、HISでは2021年10月期の業績予想について、コロナの影響を合理的に算定するのが困難とし、現時点で入手可能な情報をもとに、第1四半期のみの予想を公表。売上高は前年同期比82%減の360億円、営業損失100億円、経常損失98億円、純損失63億円とした。旅行事業に関しては、売上高が91.7%減の145億円、営業損失94億円と予想している。