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旅行を我慢していた人の爆発的需要に備えを、旅館・ホテルの若手経営者の討論を聞いた

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、それ以前から旧来のビジネスモデルの転換や構造改革が迫られていた旅行・観光事業者に、さらなる試練を突き付けた。昨年、GoToの恩恵を受けた宿泊事業者も、感染の小康期と拡大期の需要の波に揺さぶられながら、次の時代への対応を余儀なくされている。日本の旅館やホテルは未曽有のコロナにどう向き合い、どこに光明を見出そうとしているのか。

主に45歳までの経営者や従業員が所属する「全国旅館ホテル生活衛生同業組合(全旅連)青年部」は先ごろ、ワークショップイベント「全国旅館・ホテルサミット2021」を開催。「このコロナ禍をどう生き抜くか」をテーマに、約60人がオンライン上に会し、アイデアを共有した。ホテル・旅館といっても、規模や地域、業態によって直面する課題は異なる。これからの時代を担う若手経営者の取り組みやアイデアを聞いてきた。 ※写真は、宿泊施設の分散型旅行や感染対策の取り組みを紹介する動画(全旅連制作)から。

キーワードは「感染症対策」「食事/レストランの見直し」「地域単位」

「全国旅館・ホテルサミット」が開催されるのは、今回が初めてのこと。GoToの一時停止を、「立ち止まって考えるいいタイミング」(全旅連・青年部部長・鈴木治彦氏/名泉鍵湯奥津荘:岡山県)と捉え、宿泊客のニーズの変化から宿泊事業者が提案すべき旅、利益確保や雇用維持の策などを話し合った。グループワークでは様々な意見が出たなかでも、新たな動きという点では「感染症対策」「食事」「地域」に関する取り組みやアイデアが多く聞こえてきた。

まず、コロナ期の宿泊客のニーズとして多く語られたのが、「感染症対策」だ。グループワーク後の発表では、「安心安全、感染症対策を気にするお客様が多いことを肌で感じる」、「ビジネスホテルでもビュッフェを個食にして客室への持ち込みを可能にしたら喜ばれた」など、多くの施設が宿泊客の実際のニーズを感じながら対応を進めている様子がうかがえた。

あるグループでは、食事会場のテーブル間隔を広げ、パーテーションを設置するなどの感染防止対策をしても、「『これくらいの対策で大丈夫なのか』と心配される声もある」と、宿泊客それぞれの安心安全を満たすことに苦慮する意見もあった。ツアーや団体が訪れる規模の中・大型の施設では「同じ団体旅行でも、食事卓を同室の参加者ごとに2メートル開けるよう要望された」と話し、団体の受け入れで食事会場の収容人数に苦慮している点も明かした。

当日は約60人がオンライン上で意見を交わした

また、「食事」に関しては、調理場を持つ旅館やホテルの強みを生かした収入アップや新規客獲得を画策する意見も。「ホテル併設のレストランを活用したテイクアウトやゴーストキッチン、物販に力を入れている」という話や、ビジネスホテルで「宿泊に出社時のお弁当をつけるプランも考えている」というアイデアも紹介された。

これ以外にも、「ビジネスホテルで朝食利用に限っていたレストランを、夜は居酒屋に提供し、地元客の利用促進を図る」など、これまで使用していなかった時間やスペースを有効活用しようとしているようだ。「厨房のある施設は加工して売る力がある。料理はかなり可能性がある」と話す参加者の語気には、料理が各施設のさらなる差別化や収益拡大を図るカギになるとの自信が感じられた。

「地域」に関しては、さらに大きな可能性を見出しているようだ。「人力車や着物体験など、地域の事業者と組んで体験型旅行を増やすことに努めてきたが、今は町ぐるみで何かできないかと模索している」という東京下町のホテルのほか、「山形県の天童温泉では宿泊客向けに、近郊の銀山温泉に行くツアーをしている」、「コロナ禍でも客足が落ちていない地域のスーパーマーケットと提携し、そのポイントカードを提示すると特典を提供することを始めた」など、多様な形で新たな取り組みが始まっている例が話された。

また、地方では空き家も課題の一つとなっているが、「高齢で廃業する経営者から借り上げて、地域単位で旅館経営をしている」という地方の旅館や、「コンドミニアム型でオーナーを募り、運営は地元など、所有と運営を分離して事業拡大をしていくことを検討している」という話もあった。地域課題の解消を図り、異業種や地域住民を巻き込んだ取り組みが始まれば、当該旅館・ホテルはもちろん、日本の観光そのものの魅力が向上しそうだ。

「分散型旅行」に活路、コロナ後のスタンダードへの備えも

今回のイベントはまず、混雑回避の新しい旅行様式「分散型旅行」に関し、全旅連青年部副部長の田辺大輔氏(くつろぎの宿さぎの湯荘:島根県)と、同副部長の星永重氏(花鳥華やか風月の宿藤龍館:福島県)がクロストークを行った。

星氏は分散型旅行に「明るい未来を感じた」と言及。これまでは週末やピークシーズンに集中することが多く、旅館の稼働率は年平均50%~60%程度が一般的だった。分散型旅行の浸透によって平日の稼働が上がれば、その分収益が上がる可能性が高まるというのが理由だ。

さらに、「従来とは違った季節や時間帯の魅力が深堀りされるようになり、それが多様性を生む」と、日本各地の活性化と魅力向上につながるとの意見だ。田辺氏も「宿泊事業者の規模を問わず、今後進むべき方向だと思う。お客様にもっと喜んでいただこうという思いで、各施設の強みを伸ばしながら取り組むことで、新たな切り口になるのではないか」と期待を話した。

左から)全旅連青年部部長の鈴木氏、副部長の星氏、副部長の田辺氏

グループワークでは分散型旅行以外にも、ワーケーションなど新たな旅行形態を取り入れ、チャンスに変えようと模索する意見もあった。「原点に返って、料理に力を入れる。地域の文化や歴史を伝えつつ食材の無駄をなくす料理を出すため、今、料理人が各地の旅館を泊まり歩いて勉強している」と、非常事態宣言下に休館している施設の決断も印象的だった。

閉会後、記者団の取材に応えた青年部長の鈴木氏は、「ワクチンがある程度行き渡るようになれば、旅行を我慢していた人の需要が爆発的に出てくる。全旅連青年部では、その時に感染対策をはじめ、しっかりした態勢でお客様を迎えるという認識で統一しており、安心して国内旅行を楽しんでいただける状況を我々がリードして作っていく」と、コロナ終息時に向けた期待と覚悟を述べた。

星氏も「その時に向けて、いま我々がしていることが重要。宿泊事業は、クラスターの発生や感染拡大の要因となる事業ではないと自負しており、現場の従業員も非常に努力している。これが今後のスタンダードになるべきなので、備品や設備、人件費の投資が重要」と述べ、長期的に現在の水準の感染症対策を続けるための準備をする重要性を強調した。

なお、今回のイベントは都道府県部長などが参加者の中心だったが、今後は北海道・東北ブロックなど、各地の会員が参加する会の開催も予定しているという。