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観光の最前線の中小事業者がゼロから始めたデジタル化(DX)、3社の取り組み事例と成功事例を聞いてきた(PR)

長らくデジタル化が課題だった日本の観光産業。特に、最前線で旅行者にサービスを提供する中小の観光事業者には、取り組みが遅れる事業者が多い。一方で、新型コロナウイルス収束後を見据えて、デジタル化による業務改善や商品・販売力の向上に成功している事業者も存在している。

デジタルトランスフォーメーション(DX)に成功した中小観光事業者の具体的な取り組みや成果とは、どんなものか? 北海道の阿寒バス、インバウンド旅行会社の「彩里旅遊」、「True Japan Tour」の3社に成功事例を聞いてきた。

各社がDXで導入したのは、NECソリューションイノベータ(NES)が観光事業者に特化して開発した2つのクラウドサービス。地域観光事業者の紙ベースの日々の業務をゼロからデジタル化する「観光業務支援」サービス(正式名称:NECツアーガイドマッチング支援)と、観光サービス商品の自社サイト販売やOTAと連携した販売を支援する「観光予約・販売支援」サービス(正式名称:NECガイド予約支援)だ。観光サービス商品の予約販売管理を一元化し、販売拡大と業務効率化に繋げる。この2つのサービスを合わせると、ガイドツアーをはじめとする地域観光の販売から運営までの一連の業務フローを、デジタルで運用できるものになる。

事例1:北海道・阿寒バス

紙と鉛筆の作業から脱却、コロナ後はコース拡充も可能に

北海道釧路市を拠点に、阿寒湖や中標津、羅臼方面まで道東の広範囲を運行する阿寒バスが「観光予約・販売支援」を導入したのは、コロナによる需要減少がきっかけだ。

営業本部長の西岡一麻氏によると、「道東は、乗客に占める観光客の割合が多い」。特に北海道はインバウンドの人気が高く、定期観光バスや貸切バス、空港連絡バスから市街地を走る路線バスまで、コロナで大打撃を受けた。そんな時、釧路市と包括協定を結んでいるNESからオンラインバスツアーの提案を受けた。そこで、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」を活用し、「観光予約・販売支援」を導入。オンラインツアー「どこでもバスツアー」を立ち上げ、自社サイトでの販売を開始した。

システム導入開始からオンラインツアー販売の開始まで、要した期間はわずか1か月。それまでは「アナログ業務が現役で、紙と鉛筆での作業も当たり前」(西岡氏)だったにも関わらずだ。これまで、手作業で行ってきた各種の後方業務もデジタル上で可能に。西岡氏は、「業務量は従来の10分の1程度。システムを活用すればオンラインで事前決済ができる仕組みを作れるというのも、メリットが大きかった」と手ごたえを話す。

阿寒バスが自社サイトに設けたオンラインツアーの販売画面。「観光予約・販売支援」で商品内容や旅程、旅行条件等のテキスト入力から、在庫数登録・管理が可能。オンライン決済機能を設けることも可能なので、中小の観光業者に喜ばれている。

同社はこれまで、定期観光バスの予約を同社サイト上でも受けていたが、名簿作成などの裏側は手作業。料金はツアー参加時の支払いのため、ノーショーが多く、予約は満席でも出発時に空席があることも珍しくなかった。しかし、この数年のインバウンドの急増で日々の業務に追われ、改善のための手が回らなかった。この状況に西岡氏は、「今後、訪日客が増えても、このままではこれ以上の成長は望めない」と危機感を抱えていたという。

「コロナ禍での今回の取り組みは、業務を冷静に見直す機会になった」と話す西岡氏。今後、定期観光バスの販売でも、「観光予約・販売支援」の導入を検討している。「今の時代、サイト上で予約して決済までできなければ、利用する側は不安になる。信頼されるサイトであることは大切だ。そしてノーショーをなくして売上を伸ばせば、コースの拡充や品質向上など多面的な展開ができるようになる」と期待している。

業務にデジタルを取り入れることで新たな価値観が芽生え、省力化で生じた時間で業務の改善や新サービスの展開など次の一手に磨きをかける。観光DXで好循環が生まれた好事例だ。

事例2:中華圏インバウンドに強みの「彩里旅遊(あやさとりょゆう)」

小規模事業者ならではの手作り感をデジタルで事業化へ

彩里旅遊は、個人事業主として通訳案内士をしていた水谷浩氏が創業した、第2種旅行会社だ。

水谷氏とアルバイトの2名体制で、中華圏からの訪日客や華僑に、旅行手配と通訳ガイドを結び付けた日本の深い魅力や特別な体験を盛り込んだ国内ツアーを提供する。漢学者の曽祖父から4代にわたって中華圏と関わりが深い家庭で育ち、留学やビジネス経験など常に中華圏が身近にあった水谷氏の知見や感覚で、一人一人の趣向にあわせたツアーを提供するのが、同社の強みだ。巨大グループの総裁など、超富裕層に指名されることも少なくないという。

一方で、中華圏には超富裕層にいかないまでも、企業の社長など裕福な訪日客は多い。「ビジネスでの来日にあわせて観光するのでリピート率が高い。そういう方々をいかに多く掴むか。そのためには、彼らの多様な趣向に対応する様々なノウハウが必要だが、アナログでは対応しきれなかった」。

そんな悩みを抱える中、コロナが発生。訪日客がゼロになって時間に余裕が生じたのを機に、デジタル化を決めた。経済産業省の「IT導入事業補助金」を活用し、「観光予約・販売支援」と「観光業務支援」を契約した。

まずは「観光予約・販売支援」で、同社サイト上にツアー販売と決済機能を搭載。GoTo適用の日本人向け国内ツアーを造成して10月から販売したところ、訪日旅行が止まっているコロナ期の売上確保に貢献した。

使い勝手も、「初めての商品登録が30分でできた。これで、ブログで紹介してきた過去のツアー内容を簡単に商品化できる」と満足。商品数を増やせば、同社と契約する全国約150人の通訳ガイドに、仕事の機会を増やせると期待する。

「観光予約・販売支援」の販売管理画面。これは、彩里旅遊が自社サイトで販売する商品内容の登録画面の一部。各項目が、スタッフが見る「販売管理画面」、消費者が見る「販売サイト」、登録ガイドが見る「ガイド登録画面」のどこに反映されるのか、一目でわかるようになっている

さらに「観光業務支援」をあわせることで、同社の武器である水谷氏の感覚を活かした手配でも、一定の量を扱えるようになるとみている。旅先を案内するガイドのアサインや商品予約と同時に担当ガイドに自動通知するなど、各種の機能で業務が効率化するからだ。今後、ゴルフのレッスンプロ、釣りの名人など、訪日客が好む体験の価値を高める専門家などにも登録を呼びかける。

「大手旅行会社が対応しきれない細かなニーズに対応するのが当社の強み。クチコミで広がるくらいの量の需要が全国で根付けば、事業の規模になるのではないか」と水谷氏。デジタルで、小規模事業者の弱点を克服し、強みを最大化しようとしている。

事例3:インバウンド旅行「True Japan Tour」

導入から2年で売上倍増、品質と生産性の向上を実現するDXに成功

3件目は、コロナ以前の2016年4月にデジタル化に着手した第2種旅行会社True Japan Tourの、DX成功事例。「観光業務支援」の初期導入社である。

同社は、日本最大の通訳案内士団体「NPO日本文化体験交流塾」を母体に、訪日客向けの観光ガイドツアーを提供。料理や茶道、着物などの文化や自然、日本の心を伝えることを重視し、母体団体では通訳ガイド技術はもちろん、文化体験等の研修も実施する。各ツアーには、その内容に合致した知識や経験を有する通訳ガイドを付け、訪日客がより日本への理解を深める体験を提供することを大切にしている。

そのため、ツアー案件に通訳ガイドを割り当てる「アサイン会議」は重要な業務。ツアー担当者とガイド選任責任者が、案件とその業務に応募した通訳ガイドを記載した一覧表を見ながら、業務内容に相応しいガイドを決めていく。

従来、通訳ガイドの案件募集は一斉メールでの配信と、個別のメールのやりとりで行なっており、一覧表の作成には返信内容を一つひとつ表に落とし込む手作業が必要だった。しかし、訪日客数が急増し、同社に登録する通訳ガイド数が1000名を超えるようになった2015年頃には、表作成にスタッフ1人がほぼ1日を要するように。これは社員数10名・旅行部門5名だった当時の同社にとって、大きな負担となった。そこでデジタルを活用して業務の改善に着手することとなった。

一番最後に手作業で作った一覧表。A3の用紙を張り合わせ、畳サイズに

その際、重視したのは「効率化はしたいが、業務の手触り感は変えない」(常務 執行役員・高木健一氏)こと。デジタル化することで、これまでの業務とは違う手間が発生すれば、効率化とは逆の結果になってしまう。何より、人と人が接する観光サービスでは、アナログな業務が付加価値を作りだしているケースも少なくない。

そのため、同社の品質のキモとなるガイドのアサインは従来の業務フローに乗っ取り、多くの情報が一覧できるよう、紙ベースでの一覧表を出力して行うことにこだわった。一方、一覧表の集計や入力はより効率よく対応できるよう、積極的にデジタル化を進めた。クラウド上でデータ管理する「観光業務支援」はウェブ上でツアー案件のガイド募集ができるので、応募したガイドのデータをCSVに書き出して、簡単に表に出力できる。これにより、一覧表の作成はわずか30分~1時間程度に省力化できた。

「観光業務支援」のアサイン業務画面の一部(イメージ)。ウェブ上でツアーのガイドを募集すると、応募したガイドのデータが自動集計され、CSVから紙のシートに出力できる。表示項目はカスタマイズが可能。応募時のコメントを表示するなど、True Japan Tourがガイドのアサインに人の目を重視していることが伝わってくる

さらに、ガイド管理を担う岩崎陽子氏は、デジタル化で「各ガイドの情報をよりきめ細かく把握できるようになった」と、もう一つの成果を話す。ガイドのアサインは、ガイドの経歴や経験を理解した上で行なうのがベストだが、数が多くなると把握しきれない。それを「デジタル化によって、各ガイドの情報が見えるようになり、気づかなかった経歴を知る機会も増えた」。ガイド側も、アピールの場として積極的に自身の情報を入力するようになり、ツアー品質の向上にも役立っているという。

同社では省力化できた時間で、ツアー数の拡充や営業を強化。その結果、登録ガイド数は1800名へとさらに拡大し、売上高は2年で2倍以上の急成長を遂げた。「以前のままでは、いずれ頭打ち。既存の枠組みに固定され、それ以上の成長が望めなかった。組織の成長に繋がるデジタル活用がDXなのだと思う」(高木氏)。

True Japan Tourの収入(棒グラフ)と会員数(折線グラフ)の推移。デジタル化を決めた2015年以降の売り上げの伸びが著しい

同社では2020年4月、「観光予約・販売支援」も導入した。さらなる販売拡充へ、海外OTAに販売チャネルを広げるのが目的だ。予約の間際化に伴い、アサイン会議を通していては対応できない需要が増えており、「リアルタイムに販売できれば、ガイドのチャンスも広がる」(岩崎氏)と期待している。

決め手は人とデジタルを融合する「日本型DX」

NECソリューションイノベータのイノベーション推進本部プロフェッショナルの川村武人氏は、事例3社がデジタル化を推進できたポイントは、「人とデジタルが融合した“日本型DX”にある」と話す。

例えば、ツアーに通訳ガイドを付ける場合、ツアーが指定する日時や言語に対応するガイドを選べばツアーは成立するが、日本の事業者は企画内容や、ガイドを依頼した旅行者の目的に、より合致したガイドを選ぼうとする。このおもてなしの心が日本の観光が評価される部分であるが、デジタルで表現し、サポートするのが難しかった。これが、ガイドツアーや文化体験など、観光の最前線でサービスを提供する事業者のデジタル化が遅れていた理由の1つだ。

しかし、「観光業務支援」では、細かな登録項目を設定。ガイドのプロフィール登録の場合、氏名や顔写真、言語のスキルなどの基本情報のほか、資格や得意分野などの経歴を細かく確認して、各社のこだわりを活かせるように工夫した。川村氏は、「ここまできめ細かい設定ができるのは当社ならでは」と自信を示す。

さらにサービス導入に当たっては、各社の業務実態に応じたサービスサイトの初期設定、従前の課題や業務フローを踏まえたサービス運用のコンサルティングなどにも、初期オプションで対応する。

川村氏は、地域を訪れ、観光事業者の話を聞くたびに、各社が素晴らしい商品サービスを持っていると実感してきた。「システムも、システム以外のサービスにも寄り添ってDXに導く。観光事業者の力を発揮できるよう、全体をデザインし、価値提供サービス会社としてサポートしたい」と力を込める。日本の観光は、さらなる魅力の拡大と成長の可能性を秘めている。そのカギは、最前線の事業者のデジタル化(観光DX)にかかっている。

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記事:トラベルボイス企画部