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これからの出張はコスト以外に「ESG」対応が必須、環境や社会問題への企業姿勢が問われる時代に【外電】

パンデミックによる壊滅状況が続いた後なので、旅行関係者の間では、法人旅行が今後どのぐらいの回復ペースを見せるかという議論が活発だ。一方の法人顧客には、いったん立ち止まり、パンデミック危機が収束した後の業務渡航について再考する動きが目立つ。

これまで業務渡航プログラムにおける最重要課題はコスト管理だった。会社組織の隅々までに渡って消費額がしっかり把握できる体制と、これを効率的に運用管理する仕組みを整え、組織全体の業務渡航コストを抑えるのがプログラムの狙いだった。

例えば、データ解析を用いることで、企業のトラベルマネジャーは、航空券やホテル、地上交通などの交渉で、より有利な契約条件を引き出すことができた。

企業に求められる「ESG」対応、業務渡航責任者の重要課題に

しかしここ数年、ビジネスを取り巻く環境は変化し始めている。顧客や投資家、そして従業員からも、企業や経営幹部に対し、「ESGの課題にもっと真剣に取り組むべきだ」というプレッシャーが強まっている。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとった略語。例えば、二酸化炭素排出による負の影響、雇用における多様性の尊重、従業員の生活に対する姿勢を企業側に問う傾向が強まっているのだ。

こうした問題に対する企業としての意思表明は、コロナ危機が起きる以前から、業務渡航プログラムの中で散見されるようになっていた。すでに注意義務やサステナビリティは、トラベルマネジャーが取り組むべき重要課題になりつつあった。だがコロナ危機が勃発したことで状況は急展開し、経営陣の最上位レベルによる精査が急務となっている。

マッキンゼーが発表した調査結果によると、企業の最高幹部や投資家の83%は、「ESGプログラムが株主からの評価に及ぼす効果は、今後5年でさらに高まる」と予測。ESG問題に積極対応してきた企業への投資には、10%のプレミアを付けてもよいとの考えを示した。言い換えると、株価とESG投資に対する評価はもはや切り離せない関係にある。

企業側には、どのような業務渡航プログラムを目指すべきかが問われている。守るべき利益を確保しつつ、環境や社会問題にも対応した出張規約を作り、責任ある事業者としての役割を果たすには、どのようなバランスが適正なのか。

重要なのは経営トップ層の覚悟、「企業文化を変える」結果にも

次の時代へと進むのをサポートしてくれるテクノロジーなら、すでにある。例えば注意義務に関するものでは、企業が出張中の社員との連絡体制をより強化できる機能がある。トラベルマネジャーは、発出される様々な注意喚起や警報を把握できるようになり、有事にはオンデマンド方式で出張者をサポートできる。

同様にサステナビリティ機能も登場しており、出張者が利用を検討している旅行サービスの環境コストを比較したり、トラベルマネジャーが排出ガスの総量を計算することができる。

より難易度が高いのは、出張規約作りになる。金額だけでなく、カーボン・フットプリント(商品のライフサイクル全体を通じた排出ガス量)や、個人的に必要な福利厚生などを比較した上で、出張者が自由に選べる方法が実用的だ。

他人との接触を最小限に抑えられるように、出張者の判断で、空港からタクシーを利用するのを認めるべきだし、飛行機ではなく環境にやさしい鉄道で移動したいと考えるなら、それも認めるべきだ。逆に言えば、より先進的かつ問題解決につながる旅を目指すことが、必ずしも出張コストの増大を伴う訳ではない。

そして最も重要なカギであり、同時に難しいチャレンジとなるのは、ESGへの対応は間違いなく企業文化を変えるという点だ。社員の行動を変え、旅費と同じぐらいESGも重視するべきだという考え方が実践されるには、まず企業のトップから変わる必要がある。

大切なのは、経営トップ層が方針の見直しに真摯に、長期的に取り組む覚悟だ。世の中が「次のノーマル」へと移り変わるなかで、もうそろそろいいだろうと気持ちが揺れることがあっても、決して手を緩めないことだ。

マッキンゼー調査レポート「The ESG premium: New perspectives on value and performance」


※この記事は、業務渡航専門メディア「BTN Europe(ビジネストラベルニュース・ヨーロッパ)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:"ESG goals must be at heart of 2021 travel programmes?"

著者:トリスタン・スミス氏(エジェンシア 中小事業者担当副社長 / vice president commercial – SMEs)