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日本旅行業協会、ワクチンパスポート活用で行動制限解除を要望へ、新会長の就任会見を取材した

日本旅行業協会(JATA)は、新会長に就任した菊間潤吾氏(ワールド航空サービス代表取締役会長)の就任記者会見を開催した。菊間氏は、「業界にとって、この1年は大変重要な年になる。この難局を乗り越えて新たな旅行業の時代に進んでいきたい」と述べ、危機的状況にある旅行業界の現状と今後の取り組みを話した。

この中で菊間氏は、日本政府がワクチン接種率の向上を推進していることに対し、「これが旅行業界にとって、唯一の光。海外の例を見ても、ワクチン接種がゲームチェンジャーになることは間違いない」と期待。すでにJATAでは、海外・国内・訪日の旅行再開に向けたロードマップを作成し、日本政府にも国としてのロードマップや行動制限解除の指標を示す要望をしているが、今後はそれに加え、ワクチンパスポートの活用で国際交流の再開や国内の社会経済活動の日常を取り戻すことを要望する考えを示した。

特に、JATAとして半年後をめどに捉えている国際交流(海外旅行・訪日旅行)の再開では、「接種完了者に対する行動制限の段階的な解除は、どの国もしていること。日本ができないことはないと思う。諸外国では専門家の意見をもとに各国がジャッジしており、それをベースに交流が始まろうとしている」と言及。世界での交流再開時に日本だけが取り残されることがないよう、政府に国際的な視点での判断を働きかけていく考えだ。

また、国内旅行でも、旅行会社は国の感染症対策に協力をしたツアー造成を行っている。人流の抑制や管理型ツアーが求められる場合、「ワクチン完全接種者やPCR陰性の人はその限りではないという明確な指針が出れば、人々は動きやすくなると思う。接種率の高まりとともに国が舵を切ってくれるとありがたい」との考えを示した。

起爆剤であるGoToに関しては、昨年の実績を踏まえ、国民に理解される新しい制度設計と長い期間にわたる運営での早期の再開を求めていく方針。海外旅行の回復は「2019年度の5割に戻るにも、かなりの月日がかかる」とみる中で、「それまで旅行会社は国内旅行に依存することになる」とも述べ、GoToを早期に再開する重要性を強調した。

正念場の1年を乗り越えるために徹底サポート、新しい時代のツーリズムで強い姿に

このほか菊間氏は、会員各社の経営を支える活動や、コロナ後の新しい観光への対応などの方針を話した。

旅行業界の現状と企業存続に向けた活動

菊間氏によると、会員各社の経営状態は存続の危機的状況。旅行取扱額は最近の数字でも4月と5月は2019年比85%減、90%減と厳しい状況が続いている。JATAは正会員1135社の7割が従業員20名以下、9割超が100名以下の中小企業が中心で、経営的にはこの1年が正念場。菊間氏は、自身の会社も中小企業の規模であり、「中小企業の経営者と日常的に話をしているし、理解している」とし、雇用調整助成金の特例措置の延長や金融関係のサポートの要請など、「会員に寄り添った形で、JATAができる手伝いはとことんやる」と全力で立ち向かう方針だ。

また菊間氏は、JATAは感染の収束と旅行者・受け入れ地域の安全確保を重視しており、緊急事態宣言の発出の際には「対象地域へのツアーは集客があっても取りやめざるを得ない」と説明。消費者の動きも宣言の発出で予約が止まるため、今回の宣言は夏休み期間のツアーの消滅のみならず、秋の行楽シーズンの予約にも大打撃を与えた。「経営が苦しい中でも懸命に生き残ろうと、安全安心の確保を工夫しながら造成し、集客があったツアーを、宣言が出れば取りやめなければならない。これは本当に悔しい限り」とも述べ、今後も政府に対し、「緊急事態宣言の発出は補償とのセット」を強く訴えていく考えだ。

菊間氏によると、先日の記者会見で緊急事態宣言によって修学旅行3500校のキャンセルが発生し、それに対して旅行会社が生徒に請求できずに負担している実情を説明したところ、それが報道され、周知されたことで、この部分の補償の道筋が立ったという。「これは大変ありがたく、JATAが声を上げた成果」とも話した。

コロナ後の新しい観光の形とチャンス

コロナ禍で観光が1年半近く停止したが、菊間氏は「これは日本だけではなく、世界中の観光事業者が等しく大きな打撃を受けている」と説明。受け入れ地域を含め、「世界各国が立ち止まって観光を考え直す時間だった」と述べ、会員に対して、観光に対する世界的な意識の変化を正しく認識し、コロナ後の観光のあり方に向けた変化を促す。具体的には「サステナブルな観光へのシフト」「セーフティトラベルへの対策強化」「地域活性化の強化」だ。

菊間氏は、「これは旅行会社がしっかりと社会的役割を果たすことで、存在価値を高めていくチャンス」と認識。そのためには従来の代理店的思考からの脱却など、旅行会社自身がビジネスモデルを変化させる重要性を主張した。「(旅行会社の)長年の課題だった低収益構造からの脱却にもつながる」とし、会員企業に対して、新しい観光の理念の構築と商品造成を進められるようなサポートをしていく考えだ。

菊間氏は、「厳しい状況の中、経営者に一番必要なのは先を見通すための情報」であることも強調。「JATAの考えや活動方針をタイムリーに伝えることが、経営判断の何よりの指標になる」とし、会員各社とのコミュニケーションを密にしていく考えも示した。