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ハワイ現地で感じた「観光を推進する覚悟」、旅行ブームで起きた課題から、回復期に向けてすべきことを考えた【コラム】

マウイ島Kaanapaliのビーチの様子(筆者撮影)

こんにちは。ベンチャーリパブリックで「トラベルjp」を運営している柴田啓です。

コロナ禍の真っただ中、僕自身の渡航体験を通じ、世界でいま起きている状況をお届けしている本コラム。ロサンゼルスでの体験をお伝えした前回に続き、他国に先駆けてワクチン接種が進んだアメリカ人がこぞって出かけている観光地・ハワイでの体験をもとに、日本が進むべき方向性を探ります。

残念ながら、2021年8月24日段階でハワイ州知事は、デルタ株の感染拡大を抑え込むために不要不急の旅行の自粛を求めました。このコラムを執筆したのは、8月中旬。状況は急速に一変してしまったものの、いち早く観光が復活した地域が抱えた課題から、次の観光復活時の示唆になればと願っています。

ハワイ、チェックインに長蛇の列

ウィズコロナ社会におけるアメリカの経済は力強く、旅行はその象徴です。当社ベンチャーリパブリックがシンガポールで運営するグローバル旅行サイト「Trip101」は全ユーザーの約7割がアメリカからのアクセスですが、2021年4~6月の旅行予約金額は前年比1.9倍。2019年比で4.2倍と、コロナ禍でアメリカの復活力に支えられています。

「Trip101」トラフィックと旅行予約金額の推移

こうしたアメリカの旅行消費のほとんどはアメリカ国内で発生しているもの。なかでも旅行ブームに沸いているのがハワイです。では、実態はどうなのか。世界の動きを肌で触れたくて、僕も、2021年7月29日にロサンゼルスからハワイに移動しました。

ハワイでは、空港はロサンゼルスもホノルルもかなり混雑。8月に入って、改善しているようですが、オアフ島ではレンタカーの在庫が全くなく、必要な日だけカーシェアを利用しました。UberやLyftといったライドシェア(相乗り)も利用しましたが、ドライバー不足による価格高騰でいわゆるサージ・プライシング(ダイナミック・プライシングの原理を活用した、ウーバーの料金設定)が頻繁に適用されていました。レストランや現地のアクティビティも予約を取るのがかなり難しい状態。オアフ島で有名なハナウマビーチは完全予約制で、予約さえできませんでした。

ホテルも宿泊客がとにかく多く、スタッフが足りていません。チェックイン・アウトのための長蛇の列が頻繁に発生。朝、コーヒーショップでコーヒーを買うだけでもひと苦労です。もちろん、ホテル内の施設やレストランは基本すべて営業しています。

では、どんな人がハワイを訪れているのか。僕の感触では、アメリカ本土からの旅行者がほぼ100%で、西海岸などアクセスしやすいエリアだけでなく、全米各地から訪れているようでした。航空各社がハワイへの割安運賃キャンペーンを実施していたのも一因でしょうか。一方で、日本人を含むアジア、他地域からの旅行者はほぼ見かけませんでした。

巨大観光地・ハワイが決めた覚悟

いち早く復活したハワイの観光産業。実際に滞在し、ローカルニュースにも日々触れながら実感したのは、ハワイは州全体としてコロナとの共生を前提として経済を回していくための強い意志と戦略があり、そのもとで旅行・観光業を推進する覚悟があることです。

ロサンゼルス同様に、「デルタ株」の感染拡大はハワイでも深刻化しており、レストランの入場数を50%に制限したり、大人数での集まりを規制したりする一部行動制限は課せられています。8月中旬の段階では、ハワイ州知事のデービッド・ユタカ・イゲ氏が、「ロードマップにのっとり、旅行・観光への規制は当面行わない」と宣言していました。この背景には、「現状発生している州内での感染は、旅行者ではなく、主にローカル社会がもたらしているもの」との見解があります。アメリカ国営NPRラジオ放送でも下院議員による同趣旨のコメントを聞きました。

ハワイでもアメリカの他州と同様、ワクチン接種は誰でも簡単にできるものの、2回の完全接種した住民の割合は全米平均とほぼ同じの6割程度にとどまっており、感染の多くはワクチン未摂取者によるものになっているのが実態のようです。アメリカ人も含め、州外からハワイへ旅行する場合にはワクチン証明かPCR検査の陰性証明の事前登録が必須。それができないと10日間の隔離義務が発生する仕組みが導入されているため、旅行者による感染が相当程度抑え込められていたとみられます。

ですから、今回、ハワイ州が不要不急の旅行自粛を呼びかけることを決めたのは、相当に苦渋の選択だったことでしょう。

コロナと共存するために

アメリカも夏休みを経て、9月から学校が始まります。子どもによる感染、子どもから大人への感染連鎖への不安も表面化しています。日本も含め、今後の大きな課題となるでしょう。

さらに、ハワイに滞在して感じたのは、市民によるコロナ感染が広がり、自己検疫・隔離場所が数多く必要になってきているにもかかわらず、アメリカ人を中心とした旅行ブームによって、感染者を受け入れる担い手となるべき宿泊施設の空きが不足してしまっていること。

この現象は、今後のウィズコロナ時代において旅行市場が回復して時に、とりわけ日本の沖縄、タイのリゾート地などでも発生する可能性があります。日本でも、自治体による一定規模での宿泊施設の事前確保、民泊のフル活用などが待ったなしとなるのではないでしょうか次回、3回目のコラムは民泊の活用によって世界の観光業は変わるのか?について考えてみます。

※編集部注:本コラムは、2021年7月下旬~8月中旬までの筆者の体験を執筆したものです。日本からハワイへの渡航者や日本人に対する入国条件、行動制限措置は、公的機関の最新情報をご確認ください。

柴田啓(しばた けい)

柴田啓(しばた けい)

ベンチャーリパブリック グループ代表。シンガポール、東京を拠点として、旅行比較・メディア「トラベルjp」、チャットによる出張手配サービス「トラベルjp for Business」、グローバル旅行メディア「Trip101」を運営。デジタルxトラベルがテーマの国際会議「WIT Japan & North Asia」実行委員長、ベンチャー三田会会長なども務める。アジア太平洋地域にてトラベルスタートアップへのエンジェル投資も手がける。