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旅館業法の見直し検討会、宿泊事業者団体が「宿泊拒否」「宿泊者名簿」の改正を訴え

厚生労働省は2021年9月2日、「第2回旅館業法の見直しにかかる検討会」を開催した。第1回の意見整理と宿泊3団体(日本旅館協会、日本ホテル協会、全日本ホテル連盟)からのヒアリングを実施。同検討会は、2018年の法改正後の施行状況や新型コロナウイルスの感染対策に伴う法制面の課題に対応するもので、コロナ禍での対応では、宿泊拒否の制限(旅館業法5条)と宿泊名簿の扱い(6条)が焦点となっている。

旅館業法の第五条では事業者に対して宿泊を拒んではならないこと、第六条では宿泊者名簿を備え、宿泊者の氏名、住所、職業などを記載することが定められている。新型コロナウイルスによるパンデミックが長期化する中、宿泊事業者はこの対応に苦慮をしてきた。

宿泊3団体は、考え方が異なる部分はあるものの、5条と6条の改正を要望する方向で意見を述べた。特に5条では、コロナ禍で同法を遵守しながら宿泊客や従業員の安全を担保する難しさや、それによって生じる事業者の不利益などを説明。宿泊拒否制限の除外を示す条文「宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき」などの判断基準を明確にしたり、新たに「感染防止を目的とする指示・要請に従わないとき」「他の利用者及び従業員の公衆衛生上の安全を妨げる虞があるとき」など、現実に即した内容を加えることなどが要望された。

さらに、災害時や悪意のある宿泊者への対応など、コロナ以外の観点でも改正の要望が説明された。例えば災害時、宿泊予約者と連絡が取れない場合、宿泊施設は来館に備える必要があるが、過去にはそうした状況で従業員が出勤する途中に被災して死亡した事例があり、従業員の安全確保で課題があったという。

このほか、諸外国では事業者がサービス提供を拒否する権利が認められている例が多いことも紹介。日本でも、航空会社がマスク着用を拒否した人の搭乗を拒否するなど、サービス拒否が可能な産業があることも主張した。宿泊産業は消費者の権利が守られている一方、事業者側の制約が大きいことを訴え、時代にあった法改正やルール作りを求める意見が述べられた。

また、宿泊拒否が必要な場合の対処については、宿泊施設だけではなく、医療機関など社会全体での課題として対応を求める意見や、同法5条の撤廃(不備はガイドラインで補足)を求める意見も上がった。

ヒアリング後、ある構成員は、同法5条の表現は宿泊拒否を禁止した上で例外を記しており、事業者側の制約としてかなりきついものであるとの所感を述べた。別の構成員は、道路運送法13条で乗車拒否が禁止されているタクシーが、コロナ禍ではマスク着用を拒否した人の乗車を断れるよう、約款の変更で対応した例を紹介。他業界での法律と約款の使い分けを調査することを提案した。

同会を開催する厚生労働省生活衛生課も、他業界の法律と約款、サービスの事例を整理し、資料を提出する意向を示した。

次回は、疾病、障害者団体などからのヒアリングを実施。特に、5条の見直しについて、留意すべき点を中心に意見を収集する。