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旅行会社が知っておくべき海外旅行の「変化」を聞いてきた、航空会社とのリスク分担から、旅行会社にとってチャンスとなり得る理由まで

日本旅行業協会(JATA)が開催した第2回オンライン・トラベルマートで「国際往来再開後の仕入の変化」をテーマにパネルディスカッションがおこなわれた。旅行会社のリスクの取り方やアフターコロナでの仕入れでカギとなるトレンドなどについて、マカオ政府観光局の榊原史博日本局長、ターキッシュエアラインズの堀直美旅客営業本部長、ミキ・ツーリストの氏家淳副社長の3氏が考察した。

仕入れでリスクを負うのは誰?

日本の旅行会社の商慣習は見直される時期に来ている。それは、コロナ禍以前から指摘されてきたが、アフターコロナで世界の国際交流が再開されるにあたって、さらに強く求められそうだ。

そのひとつが、ホテルや航空座席などの仕入れにおけるデポジットの問題。ターキッシュエアラインズの堀氏は「航空会社がノーリスクで旅行会社に席を渡せる時代ではない。旅行会社と航空会社が平等のリスクを負う必要がある」と主張する。

コロナ禍以前、世界の航空座席供給量は海外旅行人口の拡大によって右肩上がりで増加し、日本発着路線も増えたが、日本人旅行者向けに販売できる座席の増加は限定的だった。その大きな要因は、インバウンドの拡大による座席の奪い合い。変化する競争環境のなかで、航空会社がリスク回避としてデポジットを払う旅行会社への座席販売を優先するのは至極真っ当なビジネスだ。

昨今の航空会社のレベニューマネージメントはより厳密になり、営業による交渉ではなく、ビッグデータを用いて予測する。そのなかで、日本式の「売れるだろう。売れなければ返す」という曖昧で無責任な慣習は通用しない。堀氏は「デポジットや消化率の問題で、誰がリスクを取るのか。考える必要があるのでは」と指摘する。

そのうえで、航空会社や旅行会社だけでなく、購入者にも多少のリスクを負担してもらい、「コロナ後は、旅行会社はもっと自信を持って旅行代金を見直し、利益率を上げることがあってもいいのではないか」と提案。三方よしのビジネスにするために、旅行業約款の見直しが必要との考えを示した。

ミキツーリストの氏家氏も、欧州の事情として、「ホテルは事前のデポジットを求めてくる。キャンセルチャージも含めて、それは避けられない」と話す。また、マカオ政府観光局の榊原氏は「これまで、日本市場は特別視してもらってきた。コロナ禍でマーケットが一時的に停止しているなか、サプライヤーはもっと優秀なマーケットに目を向けるようになっている」と話し、相対的に日本市場の価値が小さくなっていることから、日本のビジネス手法そのものを見直す必要性を訴えた。

(左から)モデレーターを務めた日本旅行の高橋正浩グローバル戦略推進本部副本部長、マカオ政府観光局の榊原氏、ターキッシュエアラインズの堀氏、ミキ・ツーリストの氏家氏SDGsも仕入れに大きく影響

今後の仕入れの課題として、サステナブルツーリズムの視点も避けられない。

特に、様々な環境規制が課せられている欧州では、従来通りの仕入れは難しくなる可能性がある。氏家氏によると、コロナに関わらず、欧州ではCO2排出の規制が厳しいため、中心部へバスや車で入ることが難し都市があり、オーバーツーリズムの観点から入場を制限する施設もあるという。「そうなると、従来のような大規模グループでの移動は難しくなり、グループ分けが必要になってくるかもしれない。企画の段階でこれまで以上に工夫が求められてくるだろう」と指摘した。

航空から鉄道へ。集中型から分散型へ。欧州では、都市間や国間は大型バスで移動し、都市内は公共交通機関で動くことが当たり前になってくるかもしれない。「そこでカギになってくるのがDX」と氏家氏。特に、個人旅行者にとって、スマホで移動の手続きがスムーズにできるMaaSのような仕組みが求められる。また、グループでは、スマホを活用したガイドのニーズも高まる可能性がある。

旅行会社は存在価値を高めるチャンス

また、コロナ関連でも旅行会社に求められるものは多い。

入国規制は国によって変わり、しかも頻繁に変更されるため、「旅行会社は最新の情報を入手することが必要」(氏家氏)。逆にいうと、最新の情報を掴んでいれば、旅行会社の存在価値は上がる。

さらに、氏家氏は、「安全安心の旅行の観点からも旅行会社の価値が求められる時」と強調。日本帰国時には、出発前に現地でPCR検査を受ける必要があるが、その手配は個人旅行者にはハードルが高い。「出発地で、何が必要で、どれくらい時間が必要か。そのプランニングも求められる。それを支援することで旅行会社の価値は上がる」と続けた。

堀氏は、「航空会社にとっても旅行会社の支援が必要になる」と話す。ターキッシュエアラインズでも、IATAトラベルパスなどデジタル健康パスなどの導入に向けて動いているが、各種証明書の確認などで一人ひとりの搭乗手続きに時間がかかっているのが現状だという。スムーズな手続き・搭乗・出発のためには、「旅行会社の力は欠かせない」と話す。

また、「グループはいらないと言う航空会社はない」と話し、グループを取り込むためには、旅行会社に選んでもらえる航空会社になる必要があるとし、「今後も旅行者の顔を見ている旅行会社からのフィードバックをもとに、新しいビジネスモデルを考えていきたい」と期待を込めた。

一方、榊原氏は旅行会社の発信力の改善を求めた。「現地のサプライヤーからすると、日本の旅行会社は担当者が頻繁に変わってしまうため、日本の情報が取りづらい。サプライヤーへもっと積極的な情報提供が必要」と訴えた。