トラベルボイストラベルボイス | 観光産業ニュース 読者数 No.1

多層の観光情報を「メタ観光マップ」で見える化、「観光の再定義」を語る会議を取材した - メタ観光推進機構

メタ観光推進機構は、メタ観光マップの完成と今後の墨田区のメタ観光について考える「観光会議『メタ観光マップで考えるこれからのすみだ』」を開催した。同機構は2021年9月から、墨田区や墨田区観光協会、アートプロジェクト「隅田川 森羅万象 墨に夢」と連携して「すみだメタ観光祭」を展開。今回開催された観光会議は、その集大成となる。

メタ観光とは、地域の文化資源・魅力の多様な見えない価値(アニメ聖地やインスタ映え、微地形など)を多層レイヤーのオンライン地図に可視化して楽しむ新しい観光のこと。それを実践するツールとして「メタ観光マップ」を作成した。

同機構代表理事の牧野友衛氏は、会議の開催にあたって、「観光の価値観が変わってきている。アニメの聖地、ロケ地、歴史、文化などすべて観光という枠組みにまとめて、街を楽しんでもらうことがメタ観光の目的。今まで通り過ぎていたところに、新しい価値を発見してほしい」と挨拶した。

メタ観光を説明する牧野氏メタ観光マップの作成にあたっては、既存の情報に加えて、新たな観光資源の発掘を目的に、専門家やアーティストも参加した。暗渠専門家の暗渠マニアックス、電線愛好家の石山蓮華さん、ドンツキ協会会長の齋藤佳さん、町の今昔ストーリーをつなげる活動している日本ユニシス株式会社ソーシャルインパクトプロジェクトディレクターの森隆大朗さんが、それぞれワークショップを開催。地元の人たちとそれぞれの専門的な視点で新しい墨田区の魅力を発掘した。

また、アーティストではミニチュア世界を表現する写真家の本城直季さん、女学生を主体とした情景ポートレートを創作する写真家の架空荘さん、丸シール絵画の丸シール絵画の大村雪乃さん、見立て風景作家の鈴木康広さんに墨田区を背景とした作品の制作を依頼し、新たなアートのレイヤーとして地図に加えた。その作品は2021年12月12日まで「すみだ新景観」として「すみだ北斎美術館」で展示される。

60個以上のレイヤーに1700以上のタグ

メタ観光マップは、専門家がワークショップで発見した場所やアーティストの作品制作に選んだ場所に加えて、食事・買い物、文化・アート、街歩き、ロケ地、歴史、ビュースポット、ネットで話題に分類し、その中で60個のレイヤーで構成。タグは1700以上になった。

同じ場所で多層レイヤーのタグが付けられるのがこのマップの特徴で、例えば、「三囲神社」では、「北斎ゆかりの地」「落語『野ざらし』の舞台」「狛犬巡り」「歌川広重『隅田川両川岸一目の月』」「鬼平犯科帳」などのタグがある。

浅草・雷門付近のメタ観光マップデータ内容は検索(フィルタリング)することも可能。街歩きの利便性を高めるために位置情報の確認もできるようにした。さらに、写真だけでなく、関連するYouTubeの動画、SoundCloudの音楽、インスタグラムも表示するなどの工夫を加えた。

11月には、メタ観光マップを活用して、モニターツアーも実施。日本人だけでなく、都内在住の外国人も参加した。12月12日には東京スリバチ学会会長の皆川典久さんをガイドに公式ガイドツアーを実施する。

プレゼテーションより一極集中の打破へメタ観光マップに期待

観光会議では、今後のメタ観光を考えるパネルディスカッションも行われた。墨田区観光協会理事長の森山育子氏は、墨田区の観光の課題として、「東京スカイツリーの一極集中から脱することができていない。観光コンテンツはいっぱいあるが、それを生かしきれていない。客層も修学旅行やシニア層などと限定的」と説明した。

同協会では、コンテンツの磨き上げを進めており、地域一帯とした取り組みとして、ものづくりの町である墨田区の産業を巡る着地型ツアーを造成しているところだという。また、葛飾北斎ゆかりの地であることから、町中に公共アートを展開し、来訪のきっかけづくりを行うほか、区内に170店舗ほどある「喫茶店」を観光資源として活用する計画も進めている。

同協会では、独自に情報と予約のフラットフォームを2021年度中に立ち上げる予定だが、森山氏は「こうした情報もメタ観光マップに落とし込めれば、新しいレイヤーでの街歩きが楽しめるのではないか」と提案した。

また、墨田区産業観光部部長の鹿島田和宏氏は「墨田区に来ること自体が観光になる。観光客誘客のために何か作るのではなく、あるものを楽しむことが観光になる」と指摘した。

(左から)皆川氏、橋本氏、牧野氏、鹿島田氏、森山氏すみだメタ観光祭でキュレーターを務める日本美術のライターでエディターの橋本麻里氏は、観光の再定義の必要性に触れたうえで、「電線や暗渠など自分で考えることで楽しむ人は、東京スカイツリーを訪れる層とは違う。同じ場所でも別々に存在しているものに入り込む楽しさを伝えていくことが大切ではないか」と指摘し、今後のメタ観光の発展に期待を寄せた。

東京スリバチ学会の皆川氏は、墨田区の運河に注目。「墨田区を東京の水の都と捉えて、運河と街歩きをセットにすれば、回遊性の促進でアドバンテージになる」と提案。そのうえで、新しい住民だけでなく、昔からの住民も知らないことが多いことから、「地元にそれをどのように伝えていくかも課題」と指摘した。

それを受けて、橋本氏は「地元が楽しことをやっていると、街自体が楽しくなり、それが人を呼ぶことにつながる」と話し、メタ観光の目的のひとつである地元の人たちが地元を好きなる「シビックプライド」醸成の大切さを強調した。