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旅行会社の新分野への挑戦、英語保育園から散骨サービスまで、「二刀流」で生まれた変化と事業再生補助金採択のポイントを聞いてきた

外的要因の影響を受けやすい観光産業はこれまでも、テロや自然災害、疫病流行などの危機に見舞われてきた。しかし、国際間の観光移動がままならない状態が2年も続き、今後の見通しも不透明な今回のコロナ禍ほど過酷な危機は近年に例がない。活路を見出すべく、政府の事業再構築補助金の活用を期待する事業者も多い。

分野に特化した専門旅行が組織する「旅の専門店連合会(旅専)」は、2021年12月、セミナーで事業構築補助金の採択を受けて新規事業を開始する加盟旅行会社3社の事例を発表した。各社の事業構想から補助金申請の取り組み、その後の変化をまとめた。

英語教育型保育園、遺骨の粉骨・散骨サービスも

事業再構築補助金は、コロナ禍の経済社会の変化に対応するため新分野など事業再構築に挑む中小企業を支援し、日本経済の構造転換を促すことを目的とする補助金。1社あたり最大1億円の大型な補助金が注目されるが、「新事業を第三者にジャッジをして欲しかった。採択されれば、国に認められた事業としてお墨付きが得られる」(ティーエーエムインターナショナル代表取締役社長の齋藤毅人氏)と、同補助金の採択を得ること自体が、新事業を展開する上で有利に働くと期待して挑戦した事業者もある。

今回のセミナーで発表した旅行会社と、採択事業は次の通り。

1.クルーズのゆたか倶楽部(主要事業:クルーズ専門旅行会社)

2.フィンコーポレーション(主要事業:北欧、アイスランド、バルト3国専門旅行会社)

3.ティーエーエムインターナショナル(主要事業:インドネシア、東ティモール専門旅行会社)

※各社の事業計画の概要は、事業再構築補助金ホームページ内の採択結果より

新たな事業を選んだ理由

各社の新事業は、いずれも旅行業以外への挑戦。それぞれ事業分野は異なるが、その事業計画にあたっては、3社ともSWOT分析で自社の強みや弱みなどの把握に努めた。

例えば、クルーズのゆたか倶楽部では、社員全員にSWOT分析を課題として提出させた。すると自社の強みは、「社員の英語力」「社員全員が旅程管理(添乗員)の有資格者」「自社ビルがある」で一致。その強みをいかせる新規事業として、英語教育型保育園に決めた。

保育園を英語に特化することで、会社の英語力を生かせる。課外授業も、自社の添乗員が同行する安心安全な旅行実施が差別化要因になる。自社ビルは神田駅の近くでアクセスが良い。新規開園に伴う用地取得や園舎の建設が不要で、自社ビルの改装だけで開園できることもプラス要因と判断した。

さらに「保育園は社会インフラ事業。今回のような危機時でも、保育園は止まることはない」(代表取締役社長の松浦賢太郎氏)と、主要事業のレジャーとは相関関係のない対極にある事業であることが、コロナ以前から事業ポートフォリオの見直しを課題としていた松浦氏の決意を後押しした。同社には保育事業のノウハウはないが、フランチャイジーでの運営とすることで新分野への迅速な参入を可能とした。

ティーエーエムインターナショナルも事業選定にあたり、主要事業の対極となる国内展開を大前提とし、2つの条件を課した。1つが、「人が絶対に経験すること」、もう1つが「テロやパンデミックなどの危機時にも必要性があるもの」。これ以外にも、「失敗してもリスクが少ない」、「人の手が必要」も条件に加えた。これらから想定したのが人の「死」。「添乗員が故人の最期の旅をプロデュースする今までにない粉骨・散骨サービス」を設定したという。

また、フィンコーポレーションではSWOT分析で、「北欧が好きなスタッフ」「北欧の現地とのつながり」「全国の北欧ファンの1人1人とつながっている」ことを一番の強みと捉えた。「北欧専門店であることを突き詰めると、リアルでもバーチャルでも、いつでも北欧を感じられる場所でありたい。当たり前のことをもう一度見直すきっかけになった」(代表取締役社長の美甘小竹氏)と、従来の専門分野が横展開する上でも強みとなることに確信を持った。そして、旅行だけではなく、日常でも北欧を感じられるカルチャーコンプレックスとして多目的スペースの運営を決めたという。

左から)クルーズのゆたか倶楽部の松浦氏、フィンコーポレーションの美甘氏、ティーエーエムインターナショナルの齋藤氏

申請時の事業計画のポイント

補助金制度では事業が採択されても、申請書の内容の何が良かったのか、フィードバックはない。そのため、採択事業者の経験は貴重な情報になる。松浦氏はより具体性のある事業計画書の策定をアドバイス。申請時には運営予定の保育園の特徴や独自性とともに「園名やロゴも提出し、『必ず成功できると確信している』ことを訴えた」。

美甘氏は、事業計画の策定にあたり「強みを生かせる」「本業復活時の相乗効果」「集客・収益の見込み」に加え、「社会貢献につながる、将来に向けた目的意識」も重視。申請時は、コロナ禍で世の中のサスティナビリティへの意識が高まっていることを伝え、「北欧は同分野の先進国。世界の幸福度ランキングには毎年、トップ5に北欧の数カ国が入っており、自然との共生も進んでいる。北欧への注目は一過性のものではなく、これからのライフスタイルにもあっていることをアピールした」(美甘氏)と話す。

第1回の公募で挑戦したティーエーエムインターナショナルの場合、申請に関する情報が少なく、「事業計画を練り上げるのに苦労した」(齋藤氏)。そこで参考にしたのが、中小企業庁や中小企業診断士が補助金申請のポイント予測を話すYouTube動画だ。公募概要も何度も読み返し、次の6点(1.誰に、2.何を、3.どうやって、4.いくらでできるか、5.実現できるか、6.市場はどうか、なぜその事業が必要か)に注目。SWOT分析で各6点について検証し、その結果と行政や自治体が公開している資料をもとに、1つ1つ説明した。

その際は審査担当者の目線を考慮し、データはグラフ化して訴求したい内容を可視化するように意識。記載内容はストーリー化し、円滑に読み進めてもらえるように努めた。さらに、同社の社員が「東京都公害防止管理者」「消防設備士」など、新事業の展開に有効な資格を有していることもアピールした。齋藤氏は採択された理由の分析として、有資格者の存在が「説得材料になった」ことに加え、「地域・行政の課題でもある大都市での墓不足にも対応する事業であることも添えた。これも大きく加点されたのでは」と話した。

補助金申請後の変化

申請が採択されたことで、各社は補助金を得て新分野の事業をスタートすることになるが、金銭面以外のメリットもあったという。

多くあげられたのが、「社員の雰囲気が変わった。プラスに捉えられてまとまっている」(松浦氏)というように、社員の変化だ。「専門店として、人材は代えの利かない財産」(美甘氏)である各社にとって、社員の維持は資金確保と同時にコロナ禍の最重要課題の1つだった。SWOT分析などで自社の強みを再認識しながら一緒に前に進もうとする取り組みは、旅行がストップし、仕事のやりがいが失われたなかで「かけがえのない時間だった」(美甘氏)と話す。

また、齋藤氏は「事業計画を計画書にすることが、どれだけ大変かを学べた」とも話す。事業再構築補助金は平均採択率約4割の狭き門で、1度の申請ではかなわないこともある。しかし、3社の事例からは、申請作業の過程そのものが、コロナ禍で自社の強みを生かすための取り組みになったといえそうだ。