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次に注目する旅行者層は「デジタルノマド」? 欧州の観光局が着目する最新トレンドを分析した【外電】

滞在期間がより長く、消費額のより多い訪問客へのアピールに予算を投入するのは当然の流れだ。労働力不足の解消につながるケースもあるかもしれない。ただし、観光客のこともお忘れなく。今は、とてもデリケートな時期にある――。

ヨーロッパ各地の観光局の間で、観光目的の一般旅行者向けの活動予算の一部を削り、デジタルノマド対応に充てることを検討する動きが広がっている。

なぜなら、デジタルノマドたちの滞在は長く、可処分所得も多いから。こう説明しているのは、デスティネーション・マーケティング受託事業を手掛けるToposophy社。同社がヨーロピアンシティ・マーケティング(ECM)と共同で作成した最新レポートでは、デジタルノマドを取り上げており、新しい場所への探求心が旺盛なので、より幅広い地域に経済効果が波及するとの期待も示した。

また、デジタルノマドを受け入れることで、世界的に問題になりつつある労働力不足を軽減したり、地域の雇用市場を「リフレッシュする」効果についても指摘している。このほどオンラインで開催されたイベントで、同社のインサイト担当責任者、ピーター・ジョーダン氏は「欧州都市の中には、訪問客だけでなく、グローバル人材の誘致まで視野に入れているところもある」と話した。「フレキシブルでスキルを持った人材が豊富であれば、ビジネス投資先としての魅力もアップするからだ」(同氏)。

とはいえ、こうした人々に「行ってみたい」とまず興味を持ってもらうには、どうしたらよいのか。一番難しいところだ。これから数か月間、パンデミックからの復活を目指しながら、どんなメッセージを発信するかが重要になる。

デジタルノマドを引き寄せるもの

ターゲットに狙いを定めてパッケージ化することが、どれほど重要になるか、誇り高き読者のみなさんなら分かってくれるだろう。前述のレポートでは、無料インターネット、イベントのリスト、地元のコワーキングスペースや宿泊施設との提携、さらに観光局がさまざまな関係事業者のハブ機能を担い、情報提供することなどを挙げている。

「こうした事業者が相互につながることで、パッケージが完成し、デジタルノマドが滞在先を選ぶ際の検討材料になる」と話すのは、Toposophy社のブロガー対応担当であり、The Budget Traveller創業者でもあるカーシュ・バタチャリヤ氏。「私が何よりも強調したいのは、すべてのプロセスを可能な限りシームレスにすること。このマーケットは競争が激しいので、分かりやすいインセンティブも必要だ」と提案した。

またバタチャリヤ氏は、観光局が、様々な協会組織と連携するのも良いと言う。「極端な例だが、例えばデート情報サイトのノマド・ソウルメイト(Nomad Soulmates)が開催しているカンファレンス。インフルエンサーを誘致できる」。

その他、「コワーキング・ウィキ」に掲載してもらったり、「テレグラム」のメッセージング・プラットフォームを活用して地域ファンが集まるコミュニティを作るという方法もある。

同氏は「ローカルコミュニティとの交流は、私のようなノマドが滞在先で楽しみにしていることの一つ」と話す。「観光局が自らイベントを主催する必要はないが、少なくとも、地域のホステルやコワーキングスペースが開催しているアクティビティのリストぐらいはあると嬉しい。要は、散らばっている点と点をつなぎ合わせてほしいということ。(観光局の)ウェブサイトの一か所に関連情報を集めてほしい」。

同レポートでは、良くできたマイクロサイトの模範的な事例として、イタリアのサンタ・フィオナ市を紹介している。

数字のトラッキング

観光局にとって、もう一つの課題は、成否を判断するための指標や数値化をどうするかだ。コロナウイルスによる渡航規制はまだ続いており、国境の急な開閉に伴い、データの動きも乱高下する。こうした不安定な状況下では、施策の効果測定は容易ではない。

例えばクロアチアでは、2021年夏の海外客収入は過去最高を記録した(クロアチア・ナショナル銀行調べ)。この結果、同年第3四半期の収入は77億ドルとなり、前年同期より倍増。クロアチア西部の都市ザダルなどでは、コロナ危機の中で、リモートワーク向けプログラム作りも大きく前進した。

Toposophy社のジョーダン氏は「数字の計測は重要だが、デスティネーション・マーケティング組織として、もっとやり方を改良していく必要はあるだろう」と話す。

欧州旅行委員会(ETC)の「トレンド&予測レポート」によると、クロアチアがいち早く、ワクチン接種済みの観光客を対象に、隔離なしでの受け入れを決めたことも、他の欧州各地より多く訪問客を集めることができた要因としている。

「ある意味、デジタル・ノマディズムは興味深い動きになる。いわゆる観光目的の旅行先としては今一つの地域が、新しい人気デスティネーションとして脚光を浴びる可能性もある。例えば、コネクティビティ、住居や教育環境、税制、ソーシャルライフなどが、こうした旅行者層からは、より重視される」と欧州旅行代理店&ツアーオペレーター協会(ETATOA)の事務局長、エリック・ドレシン氏。

ETATOAでは、旅行再開を促す施策であれば、どのような形のものであれ歓迎するとしている。

一方、ドレシン氏は「いずれマーケティング予算の一部が、デジタルノマド向けに振り分けられるようになるのは間違いない。ただし、この動きはまだ始まったばかり。市場シェアがどこまで伸びるのか、判断するには時期尚早」とも指摘している。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:European Cities Target Digital Nomads With These New Pitches

著者:マシュー・パーソンズ氏