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世界水準に達しない日本の水際対策、訪日観光ツアー解禁も「このままでは選ばれない」、海外旅行手配団体が国際往来再開への課題を指摘

日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA)が、2022年6月8日に記者会見を開催した。世界がウィズコロナに舵を切り、スピード感をもって水際対策の緩和措置を打ち出して国際観光の再開に動いているなかで、日本の観光再開への対応の改善を求めた。

また、コロナ禍を経た環境変化も指摘。各国間でインバウンド誘致の競争が激しくなるなか、旅行業界では従前から指摘している仕入れのグローバルスタンダードが「いよいよ鮮明になった」とし、その対応の必要性を訴えた。

OTOAとは、主に日本人旅行者の海外旅行先の手配サービスや現地オペレーションを専門に扱う旅行会社が集まる組織。訪日インバウンドの増加後は、日本国内の旅行手配にも業務を拡大した事業者もある。海外旅行、訪日インバウンドの両面で国際観光の最前線を知る旅行会社が集まる組織だ。

2022年6月10日から、日本もようやく観光目的の訪日外国人ツアーが再開となり、観光でも少しずつ国際往来の再開に向けて動いている。しかし、OTOA会長の大畑貴彦氏は、日本には世界水準とずれた水際対策が残る現状を指摘。運輸総合研究所が公表した「水際対策の見直しに関する追加提言」を示し、真の国際往来の再開には主要7カ国で日本だけに残っている「1日あたり入国者数制限」の撤廃など、同提言書の4つの提言を実現する必要性を訴えた。

OTOA会長の大畑貴彦氏

また、大畑氏は2022年6月に入ってから自身が経験した日本到着後から入国までの実態を踏まえ、改善を強く訴えた。2カ月前の4月の帰国時の経験と比較すると、唾液を使った抗原定量検査は不要になったものの、それ以外は全く同じ流れで、空港到着後は機中で30分間の待機もあった。検疫手続きの一部を担うアプリMySOSはその効果を発揮しなかったという。一方、大畑氏が訪問したタイではMySOSのような「タイランドパス (Thailand Pass)」システムが機能していて、検疫は10秒程度で済み、入国手続きはスムーズに終えた。

入国手続きの世界との差を踏まえて大畑氏は「こういうシステムをしている国は多いはずで、(国は)勉強すべき。机上で考えるのではなく、実際に現場はどうなっているのか、運用状況を確認しなければ改善しない。そうしなければ、他国に負ける。我々が企業努力をしようにも、出入国の部分で問題があれば何も解決しない」と述べ、世界水準に沿った水際対応がされるよう、迅速な改善を求めた。

大畑氏は、各国が国境を開いてスムーズに出入国できるようにしているなか、日本の評判をSNSなどで伝え聞いた観光客は「日本の観光が人気があるといっても、不便な国には来なくなる」と危惧した。実際、大畑氏が海外に行くと毎回、「日本はどうなっているのか」と聞かれ、恥ずかしい思いをしているという。

このほか大畑氏は、訪日ツアーの受け入れガイドラインの発表が、ツアー実施が可能となる6月10日のわずか3日前(6月7日)だったことに触れ、準備の時間がないことに違和感を示した。また、各国が感染拡大防止を目的とした水際対策から国際観光再開までのロードマップを明確に示したのに対し、日本は国としてのロードマップを出さず、日本旅行業協会(JATA)が作成したものを利用して観光庁が動いていたことを指摘した。

世界は観光客の争奪戦へ、日本の旅行業界に課題

また大畑氏は、本格的な国際往来の再開に向けて、旅行業界が直面する課題も提示した。コロナ後の観光を取り巻く環境変化への対応だ。

その1つが、商取引におけるグローバルスタンダードへの対応。大畑氏はOTOA会長になった12年前からグローバルスタンダードへの対応を訴えてきたが、世界の観光業界がコロナ禍の苦境を経たことで、その必要性が「より鮮明になった。現地はその方向で動いている」と話した。

大畑氏によると、例えばアジアではホテルは半年前や1年前のデポジットが当たり前になり、ブッキング以降はキャンセルチャージを収受する。コロナ禍を凌いだバス会社やレストランは予約後すぐの入金を求めており、日本の旅行会社が多く利用していた後払いはほとんど通用しないようになっている。ツアーオペレーターが以前のように立て替える余裕はなく、旅行会社のデポジットや前払い、精算の早期化が必須になる。また、現地ガイドも日本語のスキルを活かして転職するなどして減少しており、ガイドの確保も課題の1つだ。

一方で、日本の旅行会社はコロナ禍での事業継続のため、人員削減や出向、雇用調整助成金の活用などをおこなっており、海外ツアーが再開されつつあっても、その対応に遅れがあるという。現地とつながっていた海外旅行の担当者が不在だったり、部門が縮小していたりして、連絡が円滑に取れないケースもある。

さらに入国者数の制限とも関係するが、航空座席は満席が多く、パッケージツアーを造成するための座席手配が難航していることや、円安や燃油高騰を含めた価格の上昇など、海外ツアーの販売には逆風もある。

海外の観光局は日本人旅行者を誘致したいという気持ちがあるが、各国がこぞって国際往来を再開しているのに対し、日本がいまだこの状況のままだと、「他国に関心が向く」と警鐘を鳴らす。

観光目的の出入国制限が緩和されつつあっても、すぐに元に戻るわけではない。大畑氏は「これから海外各国が国を開けていくなかで、旅行者の奪いあいになっていく。日本は国が開いたとしても様々な課題が残り、次のステップに行けないのが現状」と述べ、世界の動きを見据えた対応をとる必要性を訴えた。