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世界の「持続可能な観光」の最前線、飛行機を利用しない「スロートラベル」から宿泊施設の「サステナブル認証」まで ―フォーカスライト欧州2022

持続可能な観光の実現を目指して、グローバルOTAからスタートアップ、さらにグーグルや受け入れ地域側でも、様々な取り組みが始まっている。サステナブルな未来に向けて、観光産業が今、やるべきこととは何か? フォーカスライト・ヨーロッパでおこなわれたパネルディスカッション「Executive Roundtable: Making Sustainability Sustainable(サステナビリティをサステナブルにするために)」の議論を紹介する。

パネリスト:

グローバルOTAや大手プラットフォームが、持続可能な観光がメインストリームになる未来を目指して、競争を越えて連携している。フライトやホテルほか、旅行サービスの排出ガスや環境負荷などに関する各種指標の統一化に取り組む非営利団体「トラバリスト」には現在、ブッキング・ドットコム、スカイスキャナー、トリップアドバイザー、トリップドットコム、エクスペディア、そしてグーグルが参画している。

トラバリストのデイビー氏は「観光産業において初めての試み」と話し、「サステナツーリズムに20年前から取り組んできたが、旅行関係の主力企業が顔を揃え、真剣に議論することはこれまでなかった。しかも、これは一時的なキャンペーンではなく、長期的なコミットメント。参加しているプラットフォーム各社だけでなく、その取引先やパートナーのサプライヤーも、議論に加わっている」と話す。

だが、一筋縄ではいかない。「データ収集は共通指標作りの要になると思うが、フライトや排出ガスに関する一部データの共有について、IATA(国際航空運送協会)が難色を示していると聞くが?」(モデレーター、ソレル氏)と問われると、「もちろん、すでに計画が動き出しているロードマップやイニシアティブもあり、IATAもその一つ。進行中のものとは、足並みを揃えられるよう、前向きに話し合っているところだ」とデイビー氏は説明。「関係各社がそれぞれ、別々にデータ収集や測定値の計算をし、情報が乱立することは、結局、事業者にとっても、消費者にとってもマイナスでしかないという合意形成はある」と強調した。

トラバリストCEO サリー・デイビー氏(左)とブッキングドットコム サステナビリティ責任者 ダニエル・ダシルバ氏

グーグルのエルシャン氏は「大前提として、サステナブルとは、誰かが単独で成し遂げられるものではない。だからこそ、グーグルもトラバリストの枠組みに参画した」。すでに個別の企業や団体組織によるアプローチはたくさんあるが、「我々が情報を充実させて、消費者を啓蒙しようとすればするほど、ユーザーはむしろ混乱する」。

現在、グーグルでは、トラバリストのフライト排出ガス算出フレームワーク「トラベル・インパクト・モデル」を旅行事業者に無料提供し、どの企業でも利用できるようにしている。「ユーザーがどこで情報をチェックしても、同じ数値が表示されていれば、矛盾がなくなり、信頼性も高くなる。データの一貫性は何よりも重要」とエルシャン氏は力を込める。同時に、こうした数字が何を意味するのか、ユーザーにとって、もっと分かりやすいデータの表示方法を試行錯誤しているところだ。

ブッキング・ドットコムでは2021年秋から、宿泊施設に「トラベル・サステナブル・バッジ」を付与する制度をスタート、これまでに12万軒が認定を受け、80万軒が何らかの取り組みを始めている。この取り組みも、トラバリストの協力によって実現したとダシルバ氏は話す。「実際にスタートするまで、ホテル側も我々も、最もインパクトを与える要素が何か分からなかった。そこでロケーションやデスティネーションごとの違いや、最もインパクトの大きい施策を調べ、パートナー施設のサポートに役立てている。宿泊施設にとって競争力アップにつながること、信頼できる情報を目指し、すばらしい取り組みをしているパートナーホテルが、相応の注目を集められることに留意している」(同氏)。

パンデミックからの回復途上にある旅行マーケットでは、財務やリソース面での困難、特に従業員不足が深刻だが、同社がパートナー事業者から集めているフォードバックによると、コロナ禍でサステナビリティを後回しにしていたホテルでも、昨年の時点で、再び強化する動きに転じているという。

サステナブル旅行のポジティブな魅力

一方、飛行機ではなく、電車やバス、バイク、船などを使ったスローな旅を提案するスタートアップ、バイトラベルのジョーンズ氏は「観光産業全体で、カーボン・メトリクスなどを分かりやすく伝えることには大賛成だが、同時に、カーボン以外のことも忘れてはいけない。サステナブルな旅行にはどんな魅力があるのか、もっとポジティブな側面を大々的に伝えていく必要がある」と訴える。

例えば、サステナブル認証を受けている、という情報だけでなく、地元産の美味しい食材が味わえる、他にはない豊かな体験ができる、など。特別に気候変動問題に関心は高くなくても、こうした旅を求めている人は多く、結果的に、地域社会のサステナビリティに貢献する旅行の実践者になっていると同氏は説明する。

セッションの様子。 グーグル トラベル・サステナビリティ&グローバルパートナーシップ責任者 シェブナム・エルシャン(左)とバイウェイ・トラベル創業者兼CEO キャット・ジョーンズ氏

パンデミックを経て、飛行機を利用しないスロートラベルへの関心が高まっている今は、まさに絶好の機会だとジョーンズ氏。「近距離の旅で、飛行機の利用を減らしたいという消費者は多く、当社の話は、毎月のようにどこかで紹介されているほど。今、旬な話題なのだと思う。マルチモーダルな旅(複数の交通機関を乗り継ぐ旅)を計画し、あの体験をして、このボートに乗って、とプランするのは手間がかかる。そこで当社のようなテック会社が、あちこちシステムをつなげて、手配しているのだが、サステナブルな旅をメインストリームに拡大するためには、巨大プラットフォーム上でも、その魅力を消費者にどう伝えていく手法を試行錯誤してみてほしい」。

ちなみに、バイトラベル利用客の62%は、通常は飛行機を利用している人たち。「つまり、ニッチ層ではなく、ごく一般的な旅行者たち」(ジョーンズ氏)という。同社では今後、より多くの人にスロートラベルの魅力を知ってもらうために、B2Cに加え、これまで構築してきたスロートラベル手配のテクノロジーを他社にも提供するパートナーシップ事業の拡大を目標にしている。

ダシルバ氏は「サステナブルな旅のどこにフォーカスするべきか、どう見せるか、という視点は重要だと思う。何かを犠牲にしなければならない、という見方ではなく、リッチな体験、満足度が高いツアー、といった特徴を取り上げる方法もある。実際、サステナブルな旅行商品には、最高だったと利用客から高く評価されるものが少なくない」。

エルシャン氏は、グーグルのユーザーからの声を紹介し、「シームレスでエフォートレスであること、という要望が高いのだが、旅行のプランニングは、今でもストレスが多く、ぴったりのフライトやホテルを選び出すだけでも大変。これに加えて、さらに考えることが増えて、ストレスが高まることがないように工夫する必要がある」と指摘する。

地域事情に通じたDMOは欠かせないパートナー

最後に、サステナブルな旅行作りに欠かせないパートナーとして挙ったのが、地域事情に通じたDMOからのインサイトだ。「サステナビリティの具体的な内容は、デスティネーションによって変わる。例えば、アムステルダムでは混雑などの社会問題解消になるが、ウガンダでは、地元の人々の生計が成り立つ手段や、マウンテンゴリラ保護活動となる。これを把握する上で、重要なガイド役がDMO。その地域にとってサステナビリティが意味すること、地域やステークホルダーの要望を知る上で、欠かせないパートナーだ」とデイビー氏。

ブッキング・ドットコムでも「DMOからは、その地域が目指しているサステナビリティの在り方を聞き、パートナー事業者にも、同じ方向を目指してもらう。もっと増やすべきプラスの影響と、減らしてほしいマイナス面について知る上で、DMOからのフィードバックが役立っている」(ダシルバ氏)と話した。

なお、当初は3年間の実験プロジェクトとして始まったトラバリストだが、今年9月以降、恒久的な組織へとパワーアップして、活動は第二フェーズへと進む。「テック企業だけでなく、旅行オペレーターなど、あらゆる観光関係事業者に、我々のフレームワークにぜひ参画してもらいたい。旅行は、レジリエントな地球の未来を実現する上で重要な産業だ。消費者のより良い選択をサポートできるように、旅行産業が完全に一つになったアプローチを実現していく」とデイビー氏は話した。