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スノーピークの観光事業を取材した、47都道府県すべてにキャンプフィールド開設計画、アウトドアMICE、異業種コンソーシアム提案も

スノーピークは、「Snow Peak LIFE EXPO 2022」を新潟県三条市にある同社本社「Snow Peak HEADQUARTERS」で開催した。同社が掲げる「衣・食・住・動・遊」の領域をテーマに、同社が進める事業を紹介。地方創生ブースでは、新たに開業するキャンプフィールドの説明が行われた。

地域コミュニティとの関係性を深めるキャンプフィールド

スノーピークは、アウトドア体験拠点の開発と地域の自然を繋ぐ地方創生の展開を目的として、全国47都道府県すべてにキャンプフィールドを開設することを目標に掲げている。その一環として、新たに4ヶ所での事業展開を発表した。

まず、福島県岩瀬郡にある複合型リゾート「エンゼルフォレスト那須白河」の敷地内に、愛犬と過ごすことができる直営キャンプフィールドを2023年春に開業する。

また、岩手県陸前高田市からは指定管理予定者として選定された。東日本大震災後に仮設住宅が設置され復興後にキャンプ場として現状復帰された場所に、新たにスノーピーク直営のキャンプ場を2023年度末までに開業する。

栃木県鹿沼市では、同市が進める「水源地域振興拠点施設」の指定管理予定者として選定され、関東初の直営キャンプフィールドを2024年春に開業予定。宮崎県都城市では、「関之尾公園」を直営キャンプフィールドとして2024年度中に開業する計画だ。

スノーピーク地方創生コンサルティング・エグゼクティブオペレーターの野崎拓洋氏は「地域コミュニティとのつながりを大切にして、関係人口の創出し、地域活性化を進めていく」と話し、アウトドアアクティビティとしてのキャンプ場を超える役割を目指す考えを示す。各キャンプフィールドとも、直営のストアを併設。地域の生産者と協力し、地元産加工品や生鮮食材の販売も行う予定だ。

現在、日本のキャンプ人口は7%程度。残りの93%へのアプローチがスノーピークの課題のひとつとなっているが、各キャンプフィールドでは、キャンパーだけでなく、一般の観光客や地元コミュニティが集えるような多目的施設やイベントスペースも設ける。また、野崎氏は、キャンプフィールドへのアクセスについて、「一般の観光客も取り込めるように、オンデマンドなどによる二次交通にも取り組んでいきたい」と意気込みを示した。

地方創生の展示テントブース。新潟県三条市の本社に複合型リゾートがオープン

非キャンパー向けには、今年4月15日に本社敷地内に複合型リゾート「FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS」がグランドオープンした。宿泊施設は、四方をガラス窓で囲まれ、広いデッキスペースには専用の外風呂を備えた「ビラ・スイート」が1棟、ひとまわり小さな「ビラ・ジュニア・スイート」が2棟のほか、スノーピークが隈研吾氏と共同開発したモバイルハウス「住箱」が4棟。

温浴施設として、栗ヶ丘の眺望が前面に広がる大浴場、焚き火を囲むような感覚で楽しめるサウナを備える。また、ダイニングは、地元食材を活かした料理を提供する「雪峰」に加えて、食事ができる湯上り処としてカジュアルな「Snow Peak Eat」。本社敷地内では、キャンプフィールドも運営されているが、ハイエンド旅行者向けの宿泊施設として、新たに顧客層の開拓を狙う。

宿泊棟は森の中に。

開放的な「ビラ・スイート」。キッチンやデッキには専用の外風呂も備える。

企業研修を支援する「ローカル・ワーク・ツーリズム」

スノーピークは、2018年からツーリズム事業を展開しており、その土地に根づいた労働と作業着の関係を追体験する「ローカル・ウェア・ツーリズム」、地域の食文化に焦点を当てた「ローカル・フード・ツーリズム」、地域の風土や生活を体験する「ローカル・ライフ・ツーリズム」などを自社オペレーションで催行しているが、子会社の「スノーピーク・ビジネス・ソリューションズ」は、新たに「ローカル・ワーク・ツーリズム」も試験的に始めた。

同社は、企業向けにアウトドア研修やオフィス空間のデザインを手掛け、人材育成や労働環境の向上を支援している。愛知県岡崎市で実施された2泊3日の「ローカル・ワーク・ツーリズム」では、行政との協力のもと、講演、中山間地域や町中でのフイールドワーク、焚き火を囲んでのミーティングなどを組み込んだ。

いわゆる、アウトドアMICE。同社の早川恵里氏は「チームビルディング、共創、ビジョンの共有など企業の課題解決で支援できるのではないか」と話す。また、地域との関係性を高めることで、企業による地域課題解決の機会や地域企業との交流の可能性にも期待を寄せる。

異業種とのコンソーシアムで社会課題の解決を

スノーピークは、「社会人の壁を超えた地球人のつながり」をテーマに、同じ未来志向を持つ異業種との協業を強化し、自社および社会の課題解決に取り組む。2023年春には、その新たな仕組みとして「LIFE BIOTOPE CONSORTIUM」立ち上げ、コンソーシアム参画企業や団体と事例の共有や情報交換を行うコミュニティと、商品、サービス、ソリューションなどの開発を共同で進めるアライアンスの形成を進める。

同社の山井梨沙社長は、LIFE EXPOで「衣・食・住・動・遊」を通じて社会課題の解決に取り組んでいく考えを示したうえで、「仕事をするなかで、社会人としてではなく、地球人としてつながる機会を創出していきたい」と話し、コンソーシアム構想の基本的な考え方を説明した。

LIFE EXPOで「LIFE BIOTOPE CONSORTIUM」のコンセプトを説明する山井社長。

例えば、日本製鉄との協業では、同社がチタン製造のなかで発生する端材を活用して開発した環境配慮型素材「TranTixxii-ECO」を、ウォーターボトルの素材として活用。端材を再資源化するため、二酸化炭素排出の削減にもつながることから、エコ商品として販売することで、カーボンニュートラルという社会課題の解決に一役買う。

また、トヨタ自動車とは、EV車を使った新たなキャンプスタイルを紹介。排気ガスを排出しないEV車から電源を取りつつ、バックドアからタープテントを展開するキャンプを「Slow Drive」というコンセプトで提案している。

トヨタとの協業で新時代のキャンプスタイルを提案。「スノーピークだけで社会課題は解決できるものではない」と山井社長。同社は、コンソーシアムに参画する企業や団体を募集しており、2022年度中に本格始動に向けたさまざまな実証実験も行う予定にしている。キャンプは旅行・観光の一形態。今後、スノーピークとともに、地方創生などの社会課題の解決に取り組む旅行・観光事業者が現れるのか、注目だ。

トラベルジャーナリスト 山田友樹