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アジア大手のOTAアゴダが日本市場で大型予算を投下する理由とは? その戦略から、インバウンド動向予測まで日本トップに聞いてきた

シンガポール拠点でアジア市場に強みを持つOTAアゴダ(agoda)が、日本での存在感を増している。今年7月からは、人気タレントのバナナマンを起用したテレビCM放映を開始し、半年間に及ぶブランドキャンペーンに打って出た。コロナ以降の大型キャンペーンは、日本市場が初めてだという。

なぜ、アゴダは日本市場に注力するのか。2020年3月に就任した、代表取締役アソシエイト・バイスプレジデント北アジア地区統括の大尾嘉宏人氏に、その背景と施策を聞いた。

大尾嘉氏が管轄する北アジア地域とは、日本と韓国、台湾。日本市場では、パンデミック当初に予約数の減少に苦戦したが、GoToトラベルキャンペーン以降は盛り返し、GoTo停止後も成長が継続。2021年秋以降の日本での予約数は、コロナ以前の2019年を上回るようになったという。

アゴダの強みを日本で発揮するために

アゴダはシンガポールに本社を置く、ブッキング・ホールディングス傘下の外資系OTAだ。「ホテル予約のアゴダ」の印象が強いが、2019年には航空券関連商品を開発。グループ会社のKAYAK経由での航空券販売から脱却したのを皮切りに、日本では2020年1月に「航空券+ホテル」のパッケージ商品、2021年11月にアクティビティ予約を開始している。

また、JTBやANA Xと客室在庫の販売や販売サイトの技術協力などの包括的業務提携契約を結ぶ。レガシーの旅行会社とパートナーシップを組んでいることもアゴダの特徴で、これが同社の直接仕入れでも、認知や信頼を得る機会になっているという。現在、アゴダが扱う日本の宿泊施設は、JTBやグループ会社のブッキング・ドットコム(Booking.com)とのAPI連携を含め、約5万軒に及ぶ。

同社がコロナ禍にも成長を続けた理由について、大尾嘉氏は重視してきたポイントを2つあげた。1つは、ユーザーにとって魅力的な客室やプラン、販売価格で商品を揃え、提供すること。もう1つはテクノロジーを駆使し、その商品に合致したユーザーに、的確に届けることだ。

インバウンドが消滅したコロナ禍において、日本の宿泊施設は訪日個人旅行者の集客で頼ってきた外資系OTAへの商品提供を優先しないケースも見られた。その間、アゴダは食い下がり、宿泊施設に対する決め細やかなコンサルティングとローカライズに注力したという。

「当社は国内6都市に拠点を置き、約150人が宿泊施設を担当。施設の強みやペインポイント、地域のトレンドなどを把握し、施設のベネフィットを踏まえた料金やプランなど提案内容に力を入れている。それを理解してもらうためには、施設側のITリテラシーも必要。社員には宿泊施設のDXも大切だと伝えている」(大尾嘉氏)。

そしてアゴダ側でも、旅館など日本の宿泊施設の商習慣や日本人ユーザー、エリア特性など、日本マーケットに寄り添う上で、「開発に値する改善と判断されれば、日本向けのプログラム等も作り、運用している」(大尾嘉氏)という。

代表取締役アソシエイト・バイスプレジデント北アジア地区統括の大尾嘉宏人氏

日本の良さを生かす開発

その1つが、昨年開始した「カスタマイズプラン」だ。日本の宿泊施設を、日本のOTAのようにリッチコンテンツで掲出する。大尾嘉氏は「グローバルOTAのシステムと、日本の施設やユーザーに好まれるサービスのギャップを埋めない限り、受け入れてもられない」と話し、「この対応はグローバルOTAでは初めてではないか」と自信を示す。

また、コロナ禍において、柔軟性ある予約の変更やキャンセルを求めるニーズが増加したことを踏まえ、宿泊前日までキャンセルを無料とする「イージーキャンセル」も、「コロナの時期は対応したほうがいい」と宿泊施設に説明し、導入した。

魅力的な商品を揃えるために尽力し、それを求めるユーザーに的確に届けるマーケティングを実施する。この2つの相乗効果で、コロナ禍にアゴダは日本で過去最多の予約数を獲得したという。

日本に寄り添う変化は、アゴダのサイトに表れていた。一部の宿泊施設では、日本的な販売手法である「宿泊プラン」や子ども料金の設定(食事や寝具の有無による選択)ができるようになっている。日本のOTAでは一般的な「宿泊プラン」は、客室単位での販売が主となる外資系OTAでは対応してこなかったが、アゴダはそこに踏み込み、対応を始めているようだ。 子供の食事あり/なし、寝具あり/なしの組みあわせをユーザーが選べるような改善も

「泊食分離」にどう対応する?

ローカライズで、成長の勢いに乗ったアゴダ。では、日本の宿泊施設と外資系OTAで、最大の議論のテーマとなる「泊食分離」には、どのように考えているのだろうか。

アゴダの答えは「外国人には、彼らが慣れ親しんだ『泊食分離』。日本向け(長く旅館文化に親しんでいる人)には、従来通りの『プラン販売』」(大尾嘉氏)。あくまで、ユーザーが求める商品を提供することにこだわる。外資系OTAでは珍しい“宿泊プランの子ども料金設定”も、この考えの一環なのだろう。

「私がアゴダへの参画を決めたのは、コロナ以前の2019年。その際、『当社は、ローカルのニーズに柔軟に対応しようと、真剣に考えている。テクノロジーは、そのままでは宿泊施設やユーザーのニーズに全くマッチしない。どこまで適合させるかを、ローカルのチームで考えてほしい』といわれたことが面白いと思った。カスタマイズプランの開発など、コロナ禍に始まっている取り組みで、アゴダの本気度が伝わるだろう」(大尾嘉氏)。

「インバウンドの準備は大丈夫か?」

コロナ以降、グローバルで初の大型キャンペーンを打ち出し、日本重視の姿勢を鮮明にしたアゴダ。なぜここまで日本市場に注力するのか。

大尾嘉氏は「日本のマーケットは大きい。日本ではインバウンドが注目されるが、国内旅行も活発だ。全国各地に旅行のできる多様な魅力がある国は、そう多くない。もちろん、インバウンドも様々な調査が示す通り、日本は世界にとって魅力的な目的地。国内と訪日と双方の需要が強いからこそ、期待が大きい」と話す。

今回の有名タレントを起用した大型キャンペーンも、以前から「マーケット投資をするなら日本」という考えがあった。その時機として、コロナ禍での成長を踏まえ「サプライヤーや供給客室、レート、ベネフィットが揃ってきている。やるなら今」(大尾嘉氏)と判断。さらなる飛躍の足掛かりとする。

では、アゴダを通じて世界の動きを知る大尾嘉氏は、今後の旅行需要の回復をどのように見ているか。

大尾嘉氏は、完全開国している国やアゴダのサイト上の動きから、「オープンしたら、一気に予約が入る。じわじわではないと思う。日本での旅行を希望する人は、もう準備をしているはず」と、急激な回復を予測する。

ただし、訪日旅行者にとっての“開国”は、「個人旅行での入国が認められること」(大尾嘉氏)。個人旅行での入国者に入国時の隔離などが条件付けされなければ、それ以外の陰性証明やワクチン接種、マスク着用などは、訪日意欲の阻害要因にはならないとみる。

ブッキング・ホールディングスの2022年第1四半期は、2019年同期を上回る好業績で、特に2022年3月の予約数は過去最高を記録した。この世界の勢いを体感しているアゴダ本社から、大尾嘉氏は「インバウンドの準備は大丈夫か?」とせっつかれているという。

世界と異なる歩調で水際を守る日本では世界の観光ブームが伝わりにくいが、その温度感を知っているグローバルOTAは、いつその時が来てもいいように、虎視眈々と準備を進めている。「日本政府が“開国”を宣言した瞬間に、予約が入り始めると思う。かつての人気アーティストのライブチケットのように」と話す大尾嘉氏。その爆発的な需要を取り込むべく、1日も早い“開国”を待ち望んでいる。