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航空5社が議論した、日本の国際線の現状と今後の見通し、日本発のレジャー回復は道半ば、来年は復便増加も、くすぶる不確定要素

2022年5月に設立25周年を迎えたスターアライアンスの加盟航空会社5社が日本路線の現状および今後の見通しについてパネルディスカッションを行った。現在のところ、日本に就航する加盟航空会社は16社。それぞれ復便を進めているが、運航便数はコロナ前の半分程度にとどまっている。

世界の需要回復から遅れるアジア

日本は10月11日から水際対策を大幅に緩和したが、需要の本格的な回復に向けてはまだ道半ばといったところだ。ANAは、国際線旅客数は2019年比で55%程度まで回復。ANA営業センター法人営業部部長の宇佐美香苗氏は「アジアから北米への接続便需要が旺盛だが、出遅れているのが中国と欧州」と明かし、中国はゼロコロナ政策、欧州はウクライナ情勢に伴うロシア上空通過の制限の影響が大きい現状を説明した。

旅客のうち、出張旅行(業務渡航)については、コロナ禍では往復出張は限定的で、赴任需要で支えられていたが、「今年度から北米で先行して往復需要が回復してきた」と話した。また、レジャーについては回復は一段遅いとしながらも、A380「フライングホヌ」によるホノルル便への期待感を示した。ANAは、成田/ホノルル線でのA380運航を11月の週3便から12月には週5便に増便する。

ロシア上空の飛行制限は、ルフトハンザ航空も大きな影響を受けている。ルフトハンザグループ日本韓国支社長のローレンス・ライアン氏は、日本の国境再開と円安によって、日本へのインバウンド旅行は追い風になっているとしながらも、「(空域の制限で)供給量を減らしており、かつ需要が高まっていることから、高単価のフライトになっている」と説明。航空機のデリバリーが遅れているうえ、好調な大西洋路線に人材や機材が回されているため、アジア路線への資源投入は限定的と付け加えた。

日米路線について、ユナイテッド航空日本ミクロネア地区営業担当支社長の高橋亨氏は「レジャーよりもビジネスの需要が先行している」と説明。大西洋路線や中南米路線がすでにコロナ前を上回っているのに対して、アジア路線の供給座席量は、中国の国境が開いていないことから、コロナまえの60%程度にとどまっているという。

アジアの航空会社では、同じく日本へのレジャー需要の高まりが見え始めた一方、日本発の需要にはまだ大きな動きは見られていないようだ。エバー航空日本支社長の陳啓偉氏は、10月中旬に台湾と日本でほぼ同時に国境が再開されたが、「日本発レジャー需要はなかなか戻らない。海外旅行への意識はまだ低い。円安、インフレ、海外のコロナ感染状況が影響しているのではないか」との見方を示した。

また、シンガポール航空日本支社長のケニー・テオ氏は、日本路線について、コロナ前との比較で62%まで座席供給量を戻していると説明。需要については「シンガポールからのペントアップ需要は高い」と明かした一方、日本人需要については「これから動き出すだろう」との見通しを示した。

(左から)モデレーターを務めたANA福岡氏、エバー航空の陳氏、ルフトハンザのライアン氏、ANAの宇佐美氏、シンガホール航空のテオ氏、ユナイテッド航空の高橋氏

2023年は復便を計画も、くすぶる不確定リスク

各社は2023年の見通しについても説明。ユナイテッド航空の高橋氏は、予約動向について「米国から日本行きの需要が非常に強い」と説明した一方、日本から米国行きのアウトバウンド需要については、「まだまだV字回復とまではいかない」としながらも、成田、名古屋、大阪、福岡発のグアム路線の需要回復に期待。太平洋路線については、機材の大型化を進めているほか、来年1月7日からは関西/サンフランシスコ線を週3便で再開することを紹介したうえで、「2023年前半で、ハワイ路線を含めて、もう少し増便できることを期待している」と話した。

また、高橋氏は、今後の課題として環境への関心が高まっていることから、「SAFの活用などエコやサステナブルへの取り組みもさらに重要になる」と指摘。さらに、入国手続きについて、日本では依然として各種証明の提示が求められていることから、主要国と足並みを揃えていく必要性を訴えた。

ANAの宇佐美氏は、不確定要素は依然として大きいとしながらも、「国際線需要の回復は見込まれる」とコメント。業務渡航では「対面の需要性が再認識されている」ことから、今後の出張需要の回復に期待をかけた。また、レジャーについては、旅行者の購買行動が変化していることから、「旅行会社の販売方法も踏まえて、柔軟に対応していく」と説明した。

ルフトハンザのライアン氏は、同じ課題が2023年も続くと見られるなかでも、「来春には関西路線、2023年中には名古屋路線を再開させたい」と意欲を示した。また、サステナビリティへの取り組みにも言及。「旅客を含めたすべてのステークホルダーの責任として、取り組んでいきたい」と強調した。

シンガポール航空のテオ氏は、「依然としてリスクは存在するが、日本発のペントアップ需要も高い。急激に戻るのではないか」と話したうえで、海外旅行の復活については「業界が一体となって需要喚起をしていく必要がある」と提言した。

エバー航空の陳氏は、「日本はファーストプライオリティの市場」と位置付けたうえで、2023年は札幌、仙台、小松などの路線を再開させていく考えを示した。また、コロナ前には重要なマーケットだった日本発の修学旅行の獲得にも取り組んでいく意欲を示した。