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関係人口から「週末プチ移住」、移住実践者に聞いてきた、フランス人視点でみた日本観光のポテンシャル

関係人口から移住・定住につながるケースは人それぞれだ。趣味や興味である地域との関係ができる場合もあれば、全くの偶然でつながることもある。ガンバリーニ・ピエール・杏子夫妻が山形県酒田市に移住したのは2018年のこと。フランス人であるピエールさんの酒田市との関係が、杏子さんを巻き込んだ移住につながった。

「一緒に酒田まつりを見に行こう」

杏子さんは、スイス留学中にフランスのニースでピエールさんと出会った。スイスの学校を卒業後、フランスに留学。ピエールさんとの付き合いも続き、帰国後に結婚。ピエールさんは日本への移住を決めた。最初の住まいは東京の品川だった。

酒田市とのつながりはピエールさん。フランスで国際青年会議所(JCI)に入所していたピエールさんは、2014年に山形市で開催されたアジア会議に参加した。そこで酒田市の青年会議所と出会い、その後、酒田市で開かれた「JCI東北青年フォーラム」にも加わることで、酒田市とのコネクションが深まることになる。

酒田市では当時、国際会議の通訳を探していたこともあり、ピエールさんは「日本の文化を学ぶ良い機会になる」と酒田市の投資会社での仕事も始め、東京との二拠点生活を始めた。

一方、杏子さんは、帰国後、東京のゲーム会社で働いていたが、朝から晩まで働いて、眠るためだけに家に帰ってくるような生活が続き、「東京の生活が幸せなのだろうか」とストレスを溜めていったという。

そんな様子を見ていたピエールさんは2017年、杏子さんに「一緒に酒田まつりを見に行こう」と誘い、それがきっかけで今度は杏子さんと酒田市との関係が生まれた。その後、ピエールさんが酒田で仕事をしているタイミングで何度か酒田に遊びに来るという「週末プチ移住」をしばらく続ける。

「酒田に少し住んでみて思ったのは、居住環境の良さと食べ物の美味しさですね」と杏子さん。東京での仕事では、業務委託契約でテレワークも可能だったことから、ピエールさんと移住を決断した。ピエールさんは「大きな一軒家に住めるのがメリットでした」と当時を振り返る。2018年3月に酒田市に住民票を移し、現在はドミノとポンポンの2匹の猫と一緒に暮らしている。

ピエールさんは「日本はソフトパワーの国。もっと地域の魅力を世界に」と話す。念願のボードゲームカフェを開業

移住後、杏子さんはピエールさんが紹介してくれる人以外の地元の友達が欲しいと思い、酒田市にあるインキュベーション施設「LIGHTHOUSE」でWebライティング講座に参加。その先生や受講者とのつながりを深め、酒田市民としての生活に広がりと深みが増していった。

杏子さんは、ライティングの技術を磨くともに、起業家講座にも参加した。ピエールさんともにボードゲームカフェを開業する夢を叶えるためだ。その夢は2022年6月に実現。中通り商店街にフランス語で「ピエールの家」を意味する「Chez Pierre (シェ・ピエール)」をオーブンした。ウリは国内外1200種類以上のボードゲームが揃っているところだ。

ガンバリーニ夫妻は、「遊び場やカフェだけでなく、民間の観光案内所として、国際交流の場所としても、さまざまなイベントを仕掛けていきたい」と夢を話す。

クルーズ船の寄港をきっかけに観光の仕事にも

酒田市に移住した二人は観光にも関わっていくことになる。きっかけは外国クルーズ船の酒田への寄港。2017年8月のコスタクルーズ「コスタ・ネオロマンチカ」を皮切りに、2018年には「ダイヤモンド・プリンセス」、2019年には5隻が次々に酒田に立ち寄った。

英語が使える仕事を探していた杏子さんは、埠頭の観光案内所で通訳ボランティアとしてクルーズ客をサポート。ピエールさんも街中を案内するガイドを務めた。北前船で栄えた酒田は商人の町。「だから、平気で外国人に話しかけるんです。そのフレンドリーさと開放的な雰囲気が酒田の魅力のひとつだと思います」と杏子さん。酒田に寄港した「MSCスプレンディダ」クルーズ船乗客アンケートで、酒田市は「感動した日本の港」の1位に選ばれた。

杏子さんは「北庄内地域通訳案内士」も取得した。今後のインバウンドやクルーズ再開に向けて、「酒田市、遊佐町、庄内町の魅力を伝えていきたい」と意欲的だ。

ピエールさんは、フランス人視点から「日本の観光のポテンシャルは高いと思います。酒田では本当の日本を知ることができる。シンプルな日本の生活に触れてみたいと思っている外国人旅行者は多いんです」と話す。

「観光というよりも、酒田では暮らすようなスローライフの旅がふさわしい気がします。酒田に一週間ほど滞在して、そこから東北を巡る旅もいいと思います」。杏子さんの願いは、できるだけ多くの人に酒田ファンになってもらうことだ。

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫

記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹