外資系ホテルが日本で「中間クラス」のホテルを開業する狙いとは? 高級ホテルだけでない、拡大戦略【コラム】

外資系ホテルといえば「ラグジュアリー(高級)ホテル」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。コンラッドやザ・リッツ・カールトン、セントレジスなど、世界的に名の知れた高級ホテルが次々と日本に進出しています。

しかし、実際には、外資系ホテルグループは幅広い価格帯とサービス内容のブランドポートフォリオを有しており、いわゆる「中間クラス」にあたるホテルも積極的に展開しています。

ホテルの多様なカテゴリ:高級からエコノミーまで

世界のホテルの分類は、ホテル分析会社STRなど定義によると、大まかに5つのクラスに分けられます。

  1. ラグジュアリーミシュラン星付きレストランなど最高峰のサービス・設備を備える超高級ホテル
  2. アッパーアップスケール:高いレベルのサービスを提供するが、ラグジュアリーほどではないホテル
  3. アップスケール:レストランやルームサービスなどフルサービスを提供し、上質である一方でより幅広い客層をターゲットにしているホテル
  4. アッパーミッドスケール/ミッドスケール:基本的な宿泊サービスを提供し、ビジネスや短期滞在でも利用しやすい価格帯・サービスのホテル
  5. エコノミー:最低限の設備に特化したリーズナブルな価格帯のホテル

日本では「外資系=ラグジュアリー」というイメージを持たれがちですが、実際には世界大手ホテルチェーンは、複数の価格帯・カテゴリのブランドを展開しています。そして、海外ではすでにホテル数の爆発的な拡充のため、各社は中間クラスの開業に力を入れています。やや遅ればせながら、日本にも中間クラスのブランドが続々と進出しはじめているというのが現状です。

主な外資系ホテルの「中間ブランド」

3つの世界大手ホテルチェーンで、中間クラスのブランドを例にあげましょう。

マリオット・インターナショナルは、「コートヤード・バイ・マリオット(Courtyard by Marriott)」や「フォー・ポイント・バイ・シェラトン(Four Points by Sheraton)」といったアップスケール・ミッドスケール帯のブランドを擁しています。また、若い世代向けの「アロフト」や、ヨーロッパ発のスタイリッシュブランド「ACホテル・バイ・マリオット(AC Hotels by Marriott)」など、デザインやライフスタイルを意識したブランドも日本に進出しています。

また、IHGホテルグループは、「クラウンプラザ(Crowne Plaza Hotels)」「ホテル インディゴ(Hotel Indigo)」などアップスケールからアッパーミッドスケール帯のブランドを積極的に拡大。ANAとの協業による「ANAクラウンプラザ」など、アッパーアップスケールの独自展開も際立っています。

ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングスは、「ダブルツリー(DoubleTree by Hilton)」、「ヒルトン ガーデン・イン(Hilton Garden Inn)」「ハンプトン(Hampton by Hilton)」など、アップスケールやミッドスケールのブランドも複数展開しています。同社は、外資系でも老舗となったおなじみ「ヒルトン」(ヒルトン・ホテルズ&リゾーツ)、コンラッドが定着するなど高級路線のイメージが強いですが、最近は、日本各地でブランドのバリエーションを増やす方針を強めています。

「ダブルツリーbyヒルトン」の特徴とは

その中でも、今回はヒルトン系の「ダブルツリーbyヒルトン」に注目してみましょう。

アップスケールのフルサービスを備えつつ、高級ホテルほど敷居が高くないため、ビジネスからレジャーまで幅広い層に利用されています。到着時に温かいチョコチップクッキーを配る“おもてなし”で知られ、気取らずに快適でありながらスタイリッシュさも兼ね備えた印象が海外でも支持されているようです。

2024年12月20日に日本にオープンした「ダブルツリーbyヒルトン東京有明」は、東京ビッグサイトの最寄り駅である有明駅と国際展示場駅から至近で、ビジネス利用はもちろん、イベント・観光の長期滞在にも適した立地が強みです。ビッグサイトのイベントに連日参加するゲストなどを想定し、コインランドリーや24時間のフィットネスセンターなど長期滞在に便利な設備を充実させています。

ホテル右の別棟に24時間フィットネスセンターがある。左手に国際展示場駅、右奥に有明駅が隣接している

「日本国内で100軒」の目標達成のために

ヒルトンの日本・韓国・ミクロネシア地区代表を務めるジョセフ・カイララ氏は、「昨年、ヒルトンCEOが来日して『日本国内で100軒のホテルを展開したい』と目標を掲げた。現在は7ブランド30軒ほどだが、ブランド数も含めてさらに拡大していく」と語っています。

外資系ホテルといえば高級ブランドでの進出が目立っていましたが、カイララ氏は「首都圏だけでなく地方も含め、アップスケールやミッドスケールといった中間価格帯にも積極的に参入して、多様な顧客ニーズに応えていく」と強調しました。特に、東京地域ではコンラッドやヒルトンのような高級ホテルだけに頼らず、多様な価格帯のホテルを増やすことで国内外のゲストに選択肢を提供する狙いがあります。

「1963年に外資系の先駆けとして進出して以来、日本では多くの関係者と良好な関係を築いてきた。ビジネスに困難を感じることはまったくない」(カイララ氏)「ダブルツリーbyヒルトン東京有明」では、フロントデスクの意匠に東京ビッグサイトをモチーフにしたデザインを施し、地域とのつながりを演出。到着時に提供されるチョコチップクッキーはもちろん、レストランでのメニューを工夫して飽きが来ないよう配慮するなど、“長期滞在でも心地よく”過ごせる仕掛けが随所に取り入れられています。

長期滞在の宿泊客向けに「朝食メニューも飽きないようにローテーションしている。同じ料理を頼んでも味に変化を加えられるよう、調味料のバリエーションを充実させている」と島宗広明総支配人は語る

日本人客も利用しやすい価格帯がポイント

これまで外資系ホテルの進出といえば、超高級〜ラグジュアリー領域が注目されがちでした。しかし、インバウンド客だけでなく国内旅行者も利用しやすいように、幅広い価格帯とサービスレベルへのニーズは高まっています。

東京や大阪のような大都市圏では、ビジネス需要と観光需要が混在し、イベントなどでの長期滞在も少なくありません。外資系大手が培ってきたブランド力と運営ノウハウを“アップスケール”レベルで楽しめるなら、手の届きやすさや使い勝手の良さからリピーターを獲得する可能性も高いでしょう。

外資系グローバルチェーンの「中間クラス」ブランド展開は、今後もさらに加速しそうです。高級ホテルだけに留まらない多彩な選択肢が増えることで、ホテル市場がより活性化していくことが期待されます。

山川清弘(やまかわ きよひろ)

山川清弘(やまかわ きよひろ)

東洋経済新報社編集委員。早稲田大学政治経済学部卒業。東洋経済で記者としてエンタテインメント、放送、銀行、旅行・ホテルなどを担当。「会社四季報」副編集長などを経て、現在は「会社四季報オンライン」編集部。著書に「1泊10万円でも泊まりたい ラグジュアリーホテル 至高の非日常」(東洋経済)、「ホテル御三家」(幻冬舎新書)など。

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