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新しい「関係人口」のカタチ、リモートワーク普及が生み出す変化の本質とは? ― トラベルボイスLIVEレポート

「観光以上、移住・定住未満」。特定の地域と何らかの関わりを持ち、その地域にリピートする関係人口は、新たな人流を生む仕掛けとして注目が高まっている。課題解決やファンづくりのために、そしてその先の移住・定住に向けて、関係人口の創出に取り組む地域も増えてきた。旅行者にとっては「第2、第3のふるさと」を見つける新しい旅のカタチ。観光事業者は、そこに新たなビジネス機会を見出している。

先ごろ実施した「トラベルボイスLIVE」では、総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官の箕浦龍一氏が出演。関係人口創出のカギやリモートワークの普及が生み出す未来について語った。

関係人口創出に必要なのは地域コンシェルジュ

国土交通省の「地域との関わりについてのアンケート」(2020年2月発表)によると、三大都市圏の訪問系関係人口は約1080万人と推計。地縁・血縁的な訪問、特定の地域と関わりのない訪問などを加えた全体のうち、23.2%ほどを占めている。

そのなかで、地域の活動に参加する「直接寄与型」は約141万人(3.0%)、テレワークや副業などに従事する「就労型」は約181万人(3.9%)、イベントや体験プログラムに参加する「参加・交流型」は約272万人(5.8%)、地縁・血縁先以外で趣味などの活動を実施する「趣味・消費型」は約489万人(10.5%)。

地域との関わりのなかでは、関係性が薄い「交流人口」があるが、箕浦氏は「地域と人との関係性が多様化するなかで、関係人口と交流人口をあえて分類する必要性はない」と話す。

そのうえで、関係人口創出のカギは、「地域の優良なコンテンツ」「現地訪問による直接体験」「地域との様々な人たちの交流(ネットワークング)」の掛け算だと指摘。さらに、地域に必要なこととして、コワーキングスペースやWi-Fi、電源などのハード面の整備よりも「ネットワークの形成を手助けするコミュニティ・マネージャーやコンシェルジュ的な機能の方が重要」と提言した。

総務省の箕浦氏

DXで拠点性や可動性が大きく変容

また、箕浦氏はコロナ禍で「地域との関係性の多様化が進んだ」と話す。対面からオンラインへ、参集からリモートへ。「サイバー空間でもつながることができると多くの人が実感した」とコロナ禍での変化に言及した。

一方で、今求められているのはIT技術を活用する「デジタル化」ではなく、IT技術を前提とした社会生活様式、行動様式、業務フローを変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」だとし、そのなかで「できることではなく、やりたいこと、夢、理想から行動を考える発想の転換が求められている」と指摘。そのうえで、ビジネストレンドを追いかけるのはアプローチとして間違っており、「変化しているのはトレンドではなく、ビジネスのベース」と説明した。

その象徴がテレワーク。ワークプレイスの多様化が顕著になり、「拠点性」が大きく変容。「これからは、個人一人ひとりが機動的な拠点として『可動性』をもって社会とか変わっていく時代」と見通す。「職住近接」から「職住分離」へのパラダイムシフトが起こり、「誰もが自分の望む場所で働きながら暮らせる社会になっている」とし、DXによって関係人口の素地が拡大している背景に触れた。

人生観や価値観も変容、地域がこれからのフロンティアに

コロナ以前から、DXによる変化に加えて、社会像や人生観も変わりつつある。「人生百年時代」と言われるなかで、箕浦氏は「従来の職業人生+余生という人生観ではなく、自分のやりたいことや生きがいが感じられる活動に長く関わり、ひとつの組織への帰属ではなく、複数のキャリアを踏む生き方も現実的になってきた」と話す。

また、価値観の変化では、報酬や居住に対する考え方も多様化していると指摘。報酬では、「給与」だけでなく、「もっと大きな価値に気づき始めた」とし、その例として「家族との時間」「快適な住環境」「仕事の社会的価値」「他社からの感謝」などを挙げた。また、モノの所有から必要に応じて料金を払う「サブスクリプション」や遊休資産を共有する「シェアリング」の興隆もその価値観の変容の表れだとした。

居住では、ライフステージに応じて、着替える感覚で居住地を選ぶ価値観が顕在化。教育や医療などまだ課題はあるものの、「二拠点居住」や「地方移住」が選択肢に入ってきたとする。

そのなかで、地域の存在意義も変化。インターネットによって「情報の民主化」が進んだことで、これまでは「過疎」や「消滅の可能性」などネガティブな印象が強かった辺地にこそ、豊かな資源があるとの認知が広がっているとしたうえで、その地域の課題を解決することで「地域がこれからのフロンティアになる」と強調した。

変化する働き方、模索が続くワーケーションの可能性

箕浦氏は、リモートが進むなか、地域の可能性を高める取り組みとしてワーケーションを挙げる。ワーケーションはコロナ前からさまざまな動きが出ていたが、コロナ禍でさらにクローズアップされてきた。国やさまざまな自治体もテレワークを主体としたワーケーションの誘致に力を入れている。

そのなかで、箕浦氏は長崎県五島市の実証実験について触れ、「この取り組みのキモは参加費が自己負担であるところ。自費で行こうと思わないところはワーケーションでも行かない」と指摘。主催側が費用を負担する方法では、実証だけで終わってしまう恐れがあるとした。

また、人材不足という全国共通の課題でも解決に向けた新しい取り組みが出てきている。北見市では、北見工業大学と連携し、地元志向の強い理系学生を首都圏のIT企業に斡旋し、首都圏で働いた後、数年後には地元の北見に戻り、テレワークで働く「鮭モデル(稚魚が、大海で成長した数年後に故郷の川に戻ってくる)」を展開。首都圏と地域の人材不足の解決を目指している。箕浦氏は「企業の誘致ではなく、個人をターゲットにした取り組み。各地で専門人材が求められているが、今後はリモートで人材をシェアすることがカギになってくるのではないか」との考えを示した。

トラベルボイスの鶴本(左)と箕浦氏がワーケーションの可能性についてクロストークトラベルボイスの鶴本CEOは、ワーケーションの文脈のなかで、勤務場所を柔軟に選択できる「フレックスプレイス」という考え方を紹介。デジタルサービスの充実と拡大によって、自宅やオフィスの場所に制限されず、様々な可能性が広がるワーキングスタイルが一般化する可能性について触れた。

箕浦氏は、やりがいの変化について触れ、「企業という組織の中だけで、自己価値を上げられなくなってきた。副業・兼業が増加し、パラレルで関わり、コミュニティでつながる人脈に価値を見出す考え方が出てきている」と話し、社会貢献につながるプロボノなどの働き方と地域との関係性構築の可能性に期待を表した。