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日本旅行業協会、「全国旅行支援」延期の可能性を牽制、水際対策の科学的データに基づいた判断を要望

日本旅行業協会(JATA)は2022年7月7日に記者懇談会を開催し、会長の髙橋広行氏(JTB取締役会長)が本格的な観光回復を推進する重要性を強調した。

第7波への警戒感が高まる中、全国旅行支援(全国を対象とした観光需要喚起策)の延期論が浮上している。これに対し髙橋氏は、「全国旅行支援は旅行業への支援施策ではなく、地方経済を復活させるための切り札」と話し、疲弊している地方経済の活性化のためにも早期に開始すべきとの考えを示した。

髙橋氏は全国旅行支援が、「メッセージ性の高い施策」であることも指摘。実施されれば旅行が活性化し、地域活性化を推進する大きな効果につながるが、延期や中止の場合は「旅行そのものが感染拡大に直結しているという印象を与えかねない」と危惧した。

JATAでは昨年、感染拡大防止に配慮した2回のモニターツアーを実施し、感染者の発生がゼロだった。また、コロナ発生以降、初の行動制限のない大型連休となり、観光が大いに賑わった今年のゴールデンウィークも、その後に大きな感染がみられておらず、髙橋氏は「旅行そのものが感染拡大の要因になっていないことが事実として示された」と主張した。

世界水準の国際往来を阻む3つの壁

また髙橋氏は、観光復活を実現するための大きなカギの1つとして、本格的な国際往来の再開に向けた水際対策の緩和を強く訴えた。

日本の水際対策については、岸田総理大臣が今年5月、ロンドンで「G7諸国並みの円滑な入国が可能となるよう水際対策を緩和する」との発言してから2カ月がたった今も、G7レベルに達しておらず、「これほど厳しい入国条件を課している国は世界でも稀」(高橋氏)という状態だ。

髙橋氏は、G7諸国と大きく異なる入国条件として、「3回のワクチン接種」「現地出発72時間以内のPCR等検査」「G7国間の観光目的のビザ取得」の3点を指摘。その上で、G7並みの水際対策を実現するため、(1)入国者数上限(現在は1日2万人)、(2)現地出発72時間前のPCR検査の廃止、(3)ビザ免除措置の再開、を要望した。特に(2)について髙橋氏は、「コストと心理的負担で課題。企業の業務出張や海外旅行を敬遠する大きな理由になっている」と説明した。

ただし、以前に比べれば、日本の水際対策は段階的に緩和されている。現在、感染者数が増加傾向に転じたが、髙橋氏は「感染数に左右されるのではなく、世界の流れに沿った対応をすべき」と述べ、重症者数や病床数など、世界的な指標と科学的なデータに基づいた施策判断することを求めた。

依然厳しい経営実態、復活に向けた業界自身の取り組みも

このほか高橋氏は、観光業者の経営状態が「コロナ禍の2年間、事業を失い、企業体力が限界にきている」とし、依然として厳しい状況にあることも説明。観光は、日本を支える基幹産業としての成長が期待されているが、そのインフラを支えているのは専門性の高い中小企業であるとし、「国内旅行、海外旅行、訪日旅行の各マーケットが正常化するまで、公的支援を止めないことが重要」と訴えた。

全国旅行支援をはじめとする需要喚起策の長期実施のほか、体力が回復するまでは雇用調整助成金などの経営支援策を継続することも、強く国に訴えていく方針だ。

一方で、旅行業の復活・再生に向け、業界自身の取り組みにも力を入れる。「旅行ビジネスを極める」「新たなビジネス領域への進出」を掲げ、旅行の高付加価値化など既存ビジネスの深掘りと、旅行業のノウハウを生かした新領域への進出の両面で推進していく。

また、旅行業界で複数のコンプライアンス事案が発生したことを受け、改めてコンプライアンス強化にも取り組む。経営者や職員向けの研修を実施したほか、JATA役員に対しても、コンプライアンスにかかわる宣誓書の提出を求めたという。

業界横断で海外旅行キャンペーン

2022年7月15日から、海外旅行の本格的な復活に向けた本格的なプロモーション活動「海外旅行再開プロジェクト」を開始。「海外旅行 再開宣言!」と題し、「旅行会社が海外旅行販売を再開している」「海外旅行に行ける安心・安全の環境は整っている」というメッセージを発信。海外旅行の機運醸成につなげる。

旅行会社や航空会社、空港会社、観光局、大使館が参加。東京駅など全国8ヶ所の街頭で、キャンペーン特製うちわなどを配布するほか、主要空港や旅行会社の店頭でポスターやサイネージも掲示。海外旅行や国際線航空券などの賞品を用意したSNSキャンペーンも展開する。これを第1弾とし、第2弾、第3弾の展開も視野に入れている。