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Trip.comグループ(旧シートリップ)の日本トップに聞いてきた、訪日中国人客の地方送客から日本人の海外旅行の展開まで

年間800万人を超えるようになった訪日中国人市場。2018年には訪日中国人旅行者の半数以上がTrip.comグループ(旧シートリップ・ドットコム・インターナショナル)で、航空券や宿泊などの訪日旅行関連商品を予約。過去4年間でみても、40%以上の伸びを続けているという。

訪日旅行の圧倒的な送客力を持つ同社は先ごろ、設立20周年を機に名称を変更。今後は中国国内の「シートリップ(Ctrip)」会員3億人と、グローバルブランド「Trip.com」など中国以外の市場の1億人をあわせた世界4億人の会員を持つグローバルOTAの展開を強化し、各市場での活動を強めていく方針だ。

東京オリンピック開催で日本への注目が高まる2020年、Trip.comグループは日本市場でどのような展開をしていくのか。ちょうど同年が設立5周年の節目となる日本法人代表の蘇俊達氏に、これまでの取り組みと今後のビジョンを聞いてきた。

訪日中国人旅行者とともに拡大

日本政府観光局(JNTO)の統計によると、訪日中国人旅行者数は2019年1月~10月までの累計で前年比13.5%増の813万人となり、訪日市場の3割を占めるまでに拡大している。特に中国の夏休み期間の7月と8月は各月で100万人を超えた。蘇氏は「今年の国慶節は中国人の海外旅行予約で、日本はタイを抜いて初めて1位になった」と、中国での日本の人気ぶりを同社の予約データを踏まえて説明する。

訪日中国人市場の拡大は、シートリップの他のデータにも表れている。2019年の日本のホテル予約数は前年の50%増。シートリップではビザ取得の代行サービスも提供しているが、日本へのビザ取得サービス利用は一次ビザで20%増、数次ビザでは実に80%増となった。日本政府が2020年4月から導入する中国向け電子ビザ申請も、「市場拡大の追い風になる」と歓迎。これまで訪日旅行では沿岸部からの送客が中心だったのが課題でもあったとし、西安など日本領事館のない内陸部からの送客拡大に期待を寄せる。

加えて、来年は東京オリンピック・パラリンピックの年。中国人もスポーツ観戦を好み、開催時期は夏休みなので、「多くの中国人観戦者が来日するだろう」と蘇氏。期間中の宿泊検索数は昨年と比べて510%の伸びとなっており、予約や問い合わせ状況から「東京以外に行く観光も伸びる」とみる。

すでに、中国人旅行者のFIT化とリピーター化に伴い、日本国内の旅行先は多様化が進んでいる。「昨年は青森が人気だったが、今年は『瀬戸内国際芸術祭』の認知度が上がったことで、四国や周辺地域の旅行が増えた」と蘇氏。上海から岡山、広島、高松、松山に直行便が飛んでいることも大きな要因となった。日中間の地方就航便が増加傾向にあるなか、2020年はさらに地方への送客に注力する戦略を描く。

Trip.comグループ日本代表の蘇俊達氏

地方送客はコンテンツの質と量の拡大から不安除去まで

その施策としてTrip.comグループでは、自治体や観光協会との提携を強化。2017年の大阪観光局を皮切りに、北海道と北海道観光振興機構、横浜市と連携してきたが、今年は高知県、愛知県、大分県との提携先を地方へシフト。2020年もその流れを加速させる。

さらに今年からは企業との連携も深めており、JR東日本、東京海上日動、オークラ ニッコー ホテルマネジメント、JR九州などへと拡大。先ごろにはJTBや電通との訪日旅行分野での協業も発表した。「中国人のユーザーは日本の地方への関心が高いが、知られていない地域は多く、情報が足りない」と蘇氏。地方に行くための交通手段の利便性や地域の観光、宿泊先などのバラエティも増やし、「より良い情報と魅力ある商品の提供をすることを第一に取り組んでいく」考えだ。

東京海上日動との連携では、日本滞在中のユーザーに対する災害対策や防災ガイド情報の提供に取り組んでいる。Trip.comグループでは安心して旅行ができる仕組み作りにも力を入れており、同社アプリ上に「SOS」ボタンを設け、方面別の治安情報の提供やユーザーの困りごとに対応。人の対応が必要な時にはボタン1つでコールセンターに通話できる機能も有している。

これに加え、蘇氏は「災害発生時だけでなく、旅行前の事前情報の充実も必要」と考えている。特に日本では近年、自然災害が多く、昨年の北海道での地震のような停電発生時は情報収集ができずに、外国人旅行者はパニックになるだろう。観光庁の災害時情報提供アプリもあるが、蘇氏は「最も使われているアプリで発信するのが効果的」と話し、将来的にはこうした分野でも観光庁や自治体と連携して、タビマエからタビナカの旅行者に適した情報配信対応にも取り組みたい考えだ。

アプリの「SOS」ページ。「医療支援」「翻訳」などのサポートサービスや目的地の治安情報などを掲載。各ボタンをタップすれば、詳細案内やサポート要請窓口のリンクなどが表示される。

日本の魅力とユーザーのニーズをマッチさせる

インバウンド送客ではサプライヤーとの関係も強化していく。その一つが、日本独自の宿泊施設である旅館。日本旅館協会や全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)との定期的な会議をはじめ、各地域の組合や経営者とのコミュニケーションを深めている。

そこで改善したのは、旅館の掲載写真。イメージ画像への感度の高い中国人旅行者にあわせ、外観、温泉、料理などの写真を刷新した。特に料理はメニューも掲載。「中国人旅行者はもともと料理への関心が非常に高い」とし、旅行者の満足度を上げる取り組みも行なっている。

具体的には、スタンダードプランに追加用の肉料理や海鮮料理を用意して選択肢を拡充。多くの写真や説明を添えて、中国人旅行者が分かりやすく選べるように工夫した。まずは箱根の一部の旅館から開始している。素泊まり(泊食分離)やスタンダードプランのみの掲載が多いグローバルOTAでは、珍しい対応だという。

これについて蘇氏は「旅館側にとって、事前予約で準備ができるだけでなく、客単価も上がる」と宿側のメリットに触れつつ、「料理は旅館の魅力の一つ。それをしっかり伝えることがユーザーに本来の魅力を体験してもらうことになる」と強調する。

シートリップでは今年6月から、日本の温泉旅館を紹介するキャンペーンを展開。「和牛のおいしい温泉地」「雪が見える温泉地」など2か月に1回の頻度でテーマを変え、最新版では「散策が楽しい温泉地」として温泉街を特集した。「日本の温泉旅館を訪れたことのない中国人はまだまだ多く、大きなチャンスがある」と蘇氏。「地方を訪れ、滞在日数を増やすには、連泊する理由を伝えないといけない」とも語り、自治体などと協力して、新しい周遊コースの開発や紹介も行なっていく考えだ。

料理写真を刷新した予約画面。このプランで食べられる食事内容例も記載。

日本人のアウトバウンド市場にも本格展開

日本法人は2020年に設立5周年の節目を迎える。もともと、日本国内の仕入れと商品販売、および日本でのtrip.com商品の販売を目的にしているが、今後は世界に向けた訪日旅行の販売と日本市場向け販売をより強化する。とりわけ日本人の海外旅行に注力する方針で、すでに昨年11月、東京にオープンした日本人向けカスタマーサポートセンターは、設立1年で人員を75名体制に拡大。24時間対応をすべて国内で運営している。

蘇氏は「航空券、ホテル、鉄道、送迎、現地ツアーなどをワンストップで購入できるサービスは日本人旅行者とっても便利なもの」と、シートリップのサービスを日本で本格展開していくことに自信を示す。常にユーザーに向き合い、ニーズにあわせてサービス開発を行なうTrip.comグループ本来の強みを、日本で発揮させる方針だ。

例えば、新サービスの「旅撮影」は、中国人が好む写真撮影とSNS等でシェアをする習慣にあわせ制作したもの。シートリップのプラットフォーム上に設けた口コミサイトのようなサービスで、検索結果からそのホテルや飲食店、そこへ行くためのタクシー予約などができる。これで、タビマエのユーザーへのリーチを強め、タビナカの利便性やタビアトの満足度向上に繋がった。Trip.comでは現在、一部機能のみの提供であるが、こうしたアプリの楽しさと利便性を訴求し、利用促進を図っていく。

Trip.comグループの2018年の流通総額(GMV: Gross Merchandise Value)は、7250億元(約11兆2600億円)に拡大した。そのビジネスモデルは、自社商品だけでなくパートナーの商品も取り扱うOTP(オンライン・トラベル・プラットフォーム)。蘇氏は「今後も公平なプラットフォームとして旅行会社を含むパートナーと連携し、市場での認知を広めながらウィンウィンの関係で共存していく」と話す。膨大なユーザー層を抱える巨大OTPが日本の旅行市場でどのように進化していくのか、今後も注目だ。

ユーザーの写真と投稿を集めた「旅撮影」ページ。プロの作品かと思うような写真が並ぶ。投稿内容のページから、該当ホテル等の予約も可能。

聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫