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航空会社が旅行会社機能を強化、LCCエアアジアが東南アジアの覇者目指す武器は「データ」、その戦略を整理した【外電】

アジア太平洋地区のオンライン旅行会社(OTA)各社に勝るとも劣らないプラットフォームを目指し、エアアジア・ドットコム(AirAsia.com)を着々と拡充しているLCCエアアジア。「OTAへの挑戦者」を自称し、2024年末までに、自社プラットフォーム売上の50%をエアアジア便以外とするのが目標だ。

同社では提供するトラベル関連サービスを増やしており、例えば他の航空会社のフライト、空港までの交通サービス、ホテル、アクティビティなどがここ数か月で加わった。

2020年夏には、世界の航空各社のバーチャル・インターライン事業を手掛けるキウイ(Kiwi.com)と提携し、インドネシアの旅行者がアクセス可能なデスティネーションを拡大。最近では、トルコ航空との航空座席の流通提携により、国際線ルートや運賃の取扱いも拡充している。

さらに欧州を含む複数地域のフルサービスキャリア(航空会社)との間で「本格的な協議」(同社)に入っており、GDSとの連携もあり得るという。こうした展開によりエアアジアは、東南アジア地域のOTA各社や航空各社よりもずっと優位な立場にあると自負している。

エアアジア・ドットコムの最高経営責任者(CEO)、カレン・チャン氏は、プラットフォームを持っているからこそ、他の航空会社には真似できないようなプロダクトやサービスに手が出せると話す。

歴史を繰り返さない

このほど開催されたオンラインイベント「CAPA Live」で、既存の航空会社との競争におけるエアアジアの勝算を問われると、チャン氏は「エアアジアが2機の航空機で創業した当時、人々は笑ったが、今の姿を見てほしい。マーケット参入時期の早さだけでなく、既存の航空各社の成功と失敗からどれだけ学んでいるかが重要な場合もあるということだ」と回答。

記憶力のよい方は、エアアジアが2011年、エクスペディアと半分ずつ出資して立ち上げた合弁事業を覚えているだろう。日本をはじめ、東アジアや東南アジアで「エクスペディア」ブランドや「AirAsiaGo」「GoRooms」など複数のプラットフォームを展開した。

この協力関係は7年間続き、エアアジアの流通拡大にもつながったものの、エクスペディアが2018年にエアアジア保有株を6000万ドルで買い取る形で終了した。

この時、エアアジアでは「非中核事業への投資」はこれで充分との考えを示した。同グループCEOのトニー・フェルナンデス氏は、多くのことを学ぶことができたとし、事業売却益は「巨大なユニコーン事業」に投入するとコメントしていた。

2020年、同社プラットフォームの最大の特徴として、チャン氏は、航空会社がバックについている強みを挙げた(2000年代初めの欧州にあったOpodoに似ている)。

「OTAは在庫をどうやって確保しているのか? APIで直接サプライヤーとつながるか、仲介事業者から仕入れるかだ。一方、我々は航空会社を持っているので、最低価格の運賃や、販売前の座席などを最大限に活用できる」(同氏)。

さらに2020年6月にローンチしたスナップ(Snap)では、各地域のホテルと組むことで、航空券とホテルのセット販売も手掛けている。

「なぜ、ライバルよりうまくいく自信があるのかって? 当社は唯一、OTAであると同時に、あらゆる航空券の値付けを、いつでもコントロールできる立場にあるからだ。未販売の在庫を、ホテル客室在庫と組み合わせたり、最低価格を保証したりできる」。

さらに、エアアジアのマレーシアおよびインドネシア国内線では、全路線の約25%が“独占”状態にあるため、航空券を購入した顧客に現地のホテルや交通サービスをすすめるのは、当然の流れだと話す。

常に「航空会社以上」を目指してきたエアアジア。ただし、地域内の既存OTAにどこまで対抗できるかは今後次第だ。

どんな武器を用意しているのか?

エアアジアによると、流通の90%は直販が占めている。これを成長の基盤と考えるのは当然だろう。

しかしGDSや仲介業者などパートナー各社についてのチャン氏の言葉から、エアアジアではOTAとしての展開拡大を目指すなかで、流通を広げる戦略にも着手する考えのようだ。

また最近、同社では、エアアジア・ドットコム(AirAsia.com)の顧客ベースが7500万人にのぼることを頻繁にアピールしている。

フェルナンデス氏は2020年12月のCAPA Liveで、eコマース展開について検討する際は、まず顧客ベースとロイヤルティ・プログラムについて考えると話している。またグーグルやフェイスブック上で、他の航空会社との競争に資金を費やすことには否定的な見解を示している。

今年1月のCAPA Liveに登壇したチャン氏も、一人の顧客を獲得するのにかかるコストが最大75ドルに達するとし、こうした「新規顧客の獲得をめぐる競争」には深入りしないと話した。逆に言えば、他のOTAは、膨大なマーケティングコストの負担を強いられているということだ。

エアアジア・ドットコムに必要なのは、既存顧客に対するクロス販売や追加販売であり、それぞれの顧客ニーズに沿った提案の精度を高めること、と同氏は付け加えた。

同社では、ロイヤルティ戦略の強化に取り組む。名称を従来の「ビッグ・ロイヤルティ(BIG Loyalty)」プログラムから「ビッグ・リワード(BIG Rewards)」に変更し、ポイントを使って同社ブランドが提供している食事や食料雑貨品、その他のサービスの支払いができるようにする。

チャン氏は「2021年の戦略方針の一環として、ビッグ・リワードを当社のエコシステム全体に組み込んでいく。エアアジアの強みの一つは、エコシステム全体を活かした取り組みができること。よくあるフリークエントフライヤー・プログラムとは一線を画し、ライフスタイル全般で役に立つものにする」。

目下、ポイントプログラムを「かゆいところに手が届き」「いつも利用する」様々なサービスが揃ったものにするために多額を投じているが、もう一つ、力を入れているのが顧客からのデータ収集だ。

「ポイント制は、パズルを完成するために欠かせない構成要素の一つだが、さらに重要なのがデータ活用。当社では、顧客1人につき10以上のタッチポイントがある。eコマース事業者の中には、名前と住所、クレジットカード情報しか把握していないところもあるが、我々の場合、グループ内のフィンテック会社、ビッグペイ(BigPay)から価値ある独自データも入手できる」。

企業にとって“新しい時代の石油(ブラックゴールド)”はデータだ、とチャン氏。顧客データと自社データを組み合わせることで、パーソナライズの精度アップにつなげていく考えだ。

OTAの頂点に立つ

東南アジア地域におけるOTA覇者を目指す競争において、名前が挙がる企業の一つ、トラベロカ(Traveloka)も、こうした動きを注視しているだろう。

インドネシアが拠点のOTAである同社も、黙って座しているわけではない。6か月前に2億5000万ドルの資金調達を発表しており、「主要マーケット向けに旅行とライフスタイル分野で、より幅広く、確固たるポートフォリオを築く。さらに金融サービス・ソリューションにも参入し、当社エコシステムにおけるパートナー各社をさらにサポートする」と意欲的だ。

インドネシアのスーパーアプリと呼ばれ、ライドシェアからフードデリバリー、決済、各種アクティビティまでこなすゴジェック(Gojek)も立ちはだかる。同社も最近、相当額の資金を獲得している。

エアアジアも、提携するパートナー各社の力を借りながら、OTAとしての成長を目指す。

宿泊関連ではブッキング・ホールディングス傘下のアゴダと提携しているほか、最近ではトリップ・ドットコム(Trip.com)グループと手を組み、アセアン各国を訪れる中国人旅行者や、東南アジア域内から海外への旅行マーケットの取り込み拡大を期待している。

航空会社としてのエアアジアには、オペレーションと財務面での健全化が必要で、これがOTA事業拡大の屋台骨にもなる。

2020年末のCAPAイベントでフェルナンデス氏は、多角化戦略に加え、航空事業でのコスト削減やリストラにより、2021年は力強く復活すると自信を示した。マレーシア政府からは「他社に比べて小さい金額」(同氏)という2億5000万ドルのローンを借り入れた。

世界の大半の地域がパンデミックによる渡航規制下にあるなかで、東南アジアの状況は比較的好調だ。同氏によると、エアアジアでは航空事業の50%を国内旅行需要が占めている。

エアアジアが展開するプラットフォーム事業は、他社も真似できるものだろうか? チャン氏に聞くと、「可能性はある。我々としては、競争も協働も、もっと活発になることは大歓迎だ。その方がうまくいくものだから」と答えた。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:AirAsia calls itself an "OTA challenger" amid big digital travel ambitions

著者: リンダ・フォックス