ニューヨークをベースとする宿泊予約サイト「タブレットホテルズ(Tablet Hotels)」。ホテルステイにこだわりを持つ旅行者をターゲットにするなど競合OTAとは異なるビジネススタイルを持つ。日本での知名度はまだ低いが、欧米では固定客を掴んでいることで知られる。「大切なのはユニークな体験」。そう話す同社CEOのローラン・ヴェルヌ氏に、タブレットホテルズのコンセプトと日本市場での取り組みについて聞いてみた。
高級ではなくユニークな体験をキュレーション
タブレットホテルズは2002年にローンチ。2006年には日本語サイトもオープンし、現在8ヶ国語で展開している。最大の特長は、自社の基準に見合ったホテルをキュレーション(目利き)したうえで、OTAとしての予約機能を持っているところだ。
同社のウェブサイトを訪れてみると、ファッションサイトと見間違えるようなスタイリッシュなデザインに、世界の名だたるホテルのリストが並ぶ。しかし、ヴェルヌ氏は「タブレットは高級ホテルに焦点を当てているわけではない」と強調する。「正直なところ、多くの高級ホテルはみんな同じで退屈。タブレットが基準としているのは、型にはまったホテルではなく、ユニークな体験ができる宿泊施設。伝統的であれ、現代的であれ、その施設独自のスタイル、テイスト、パッションが感じられるところ」と説明し、競合OTAとの差別化を明確にする。そうした要素はデータ化では現れず、価格帯で区切ることもできない。そこでキュレーションという方法がウリになっているというわけだ。
また、単なる予約機能だけではなく、世界中のさまざまなホテルを独自の切り口で紹介する「旅のアイデア」も特色のひとつになっている。たとえば、「キャンプだって、スタイリッシュに贅沢に」「今度訪れてみたい邸宅ホテル」などのテーマ性や、「五輪が終わったらぜひリオへ」「デザインにこだわるNYのホテル5選」などデスティネーションにフォーカスした特集を組んでいる。ストーリーテリングによって旅心を刺激することで予約につなげるアプローチで、リピーターも獲得。「独立系OTAとして成長できたのは、ユーザーの信頼を得てきたからだ」とヴェルヌ氏は自信を示す。
ユーザーの属性を見ると、平均年齢は41歳と年齢層は高め。性別では女性が55%と半数を超えており、「スタイリッシュなウェブデザインも他社との差別化」というヴェルヌ氏の言葉を反映しているようだ。このほか、平均宿泊単価は3万5000円、平均年間海外渡航数は3回以上となっており、成熟した旅行者に好まれている傾向が浮かびあがる。
日本では旅館も取り扱い、日本人の海外利用では知名度向上が課題
日本市場では、大部分を占めているのがインバウンド。海外での日本旅行への関心の高まりとともに、日本の宿泊施設の予約も伸びてきたという。2016年7月現在の日本での取り扱い軒数は68軒。アマン東京、アンダーズ東京、グランドハイアット東京、コンラッド東京、フォーシーズンズホテル丸の内、ホテルニューオータニ、ザ・ペニンシュラ東京など錚々たるホテルが並ぶ一方、「日本独自の宿泊体験」(ヴェルヌ氏)として、旅館も20軒ほど取り扱っている。
取り扱う日本の宿泊施設は都市部やリゾート地が中心。今後の展開について、ヴェルヌ氏は「全国に規模を拡大していくというよりは、地方であれ都市であれ、おもしろい宿泊体験ができる宿泊施設を増やしていきたい。長期的に見れば、それがユーザーの信頼を勝ち取り、末永く利用してもらえることにつながるだろう」と話す。キュレーションの戦略にブレはない。
ただ、課題もある。ひとつは知名度の向上だ。タブレットはこれまでマーケティング活動に大きな投資は行ってこなかった。取り扱うプロダクト自体に知名度があり、それがタブレッドの価値を上げているほか、口コミ効果も大きかったからだ。しかし、ヴェルヌ氏は「(アウトバウンドを増やすためにも)今後は日本でもターゲットを絞ってマーケティングを強めていく必要がある」との認識を示す。
また、宿泊施設サイドでは販売方法に制限があるのも課題。現在は、自社開発のTablet Extranet(無料)を利用するか、GDSあるいは海外チャンネルマネージャーによる接続が可能だが、国内のサイトコントローラーとの提携はない。今後、日本で取り扱い宿泊施設を増やしていくうえでカギとなるポイントになりそうだ。
モバイルも強化、多言語化も計画
このほか、タブレットはモバイル対応にも力を入れている。現在リリースしている初期アプリは英語のみの対応だが、次のバージョンでは日本語を含めて多言語化を進める計画。現在、同社の予約のうち約10%がモバイル経由。ヴェルヌ氏は「将来的には50%近くになるのではないか」と見通す。
モバイルにしろ、PCにしろ、「タブレットは変化を求める旅行者にとって最適なソリューション。日本では、旅行における宿泊施設の価値は低すぎる。タブレットはそれを変えることができる」。日本でもタブレットの独自路線は広がるか。今後に注目だ。
取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹