文化庁が推進する「文化観光」とは? 「地方創生パッケージ」から、DMOと推進する「拠点計画」まで取り組みを聞いてきた

文化庁はこのほど、2024年8月に「文化観光が目指す未来」と題するセミナーを開催した。2020年4月に、文化観光拠点施設への国内外からの観光客の来訪を推進し、豊かな国民生活の実現と国民経済の発展に寄与することを目的とした「文化観光推進法」が施行。文化庁では、国・地域の宝である文化財について、官民連携で新しい価値を創造し、持続可能な活用を推進している。セミナーでは、未来志向の「文化観光」をさまざまな観点から探った。

冒頭挨拶に立った文化庁審議官の今泉柔剛氏は、「日本の地域には多様な文化が存在するが、その地域に足りないのは、生業、便利さ、人を引き留める力。各地域の有形無形の文化、魅力などを磨き上げ、そこに観光を掛け合わせて、人に来てもらう取り組みが必要となる」と話した。そのうえで、「文化の力によって、日本全体の魅力の向上につなげていきたい」とし、文化庁が「文化観光」に取り組む意義を強調した。

「地方創生パッケージ」とは

文化庁は、2023年5月27日に中央省庁としては初めて霞ヶ関から京都に移転し、業務を開始した。同時に、「文化観光推進本部」を立ち上げ、各課連携して「文化観光」を推進していく体制を整えた。今年2月には、地域の宝である文化財の新しい価値を官民連携で創造し、その持続可能な活用を推進する目的で「文化財を活用した文化観光の推進による地方創生パッケージ」がまとめられた。歴史・文化の豊かな京都の地から、文化庁ならではの地方創生を実現しようとしている。

そのなかで、文化財を高付加価値化する事業として実施している3つの取り組みがある。

1つ目が全国各地の魅力的な文化財活用推進事業。国宝・特別史跡などの国指定等文化財について、特別な歴史体験、夜間の活用、ユニークべニューなど上質で思い切った活用をおこない、インバウンドの知的好奇心を満たす高付加価値なコンテンツ造成を実施し、活用から保存への再投資を進めようとしている。

ここでポイントとなるのは、文化庁や専門家が伴走支援をおこなうこと。文化財所有者などの意識改革を進めるセミナーなどを実施するなどパッケージで取り組みを進める。文化庁文化資源活用課専門官の横田悠人氏は、「文化財の本質的価値を損ねないための配慮をしながら、どのように変えたらいいのかなどを実際にアドバイスをしながら進めていく」と説明した。

2つ目は、高付加価値化された文化財への改修・整備促進事業。活用のために必要な文化財建造物の改修や、美観向上のための整備、活用環境の強化を支援していく。この取り組みでは、活用に必要な付属施設の整備の新築も可能としている。

3つ目が文化財多言語解説整備事業。映像や音声等を組み合わせた先進的・高次元な多言語解説コンテンツの整備を支援する。

横田氏は、「このパッケージの大きな思想として、この予算事業と予算枠ではない事業の二つを両輪で回しながら、文化観光の大きなうねりを作り出していく」と説明。また補助金については、「採択してから最終事業の金額などを詰めていくまでの間に、事業計画について専門家からのコーチングなどを交えながら再度検討する」として、伴走しながら支援していく方向性を示した。

文化庁は、伴走支援の一環として、文化財の活用に関する相談窓口も設置している。

文化財の保存・活用を通じて、その魅力を向上

また、セミナーでは、文化庁参事官(文化拠点担当)文化観光推進コーディネーターの丸岡直樹氏が、 「文化観光推進法」について説明した。この法律のもとで、文化財の保存・活用を通じて、その魅力を向上させることで、今後10年間で来訪者を現在の2倍に。さらに地域経済の活性化を実現するとともに、その利益を文化に再投資する好循環を生み出す。

具体的には、拠点計画と地域計画を認定し、計画に基づく事業に対する特別な措置を実施する。拠点計画では、美術館、博物館、社寺、城郭などの文化資源保存活用施設について、文化観光推進事業者が地域のDMO、観光協会と共同して計画を作成申請し、それを認定するもの。2024年8月6日時点で36拠点が認定されている。

一方、地域計画は、文化資源保存活用施設と文化観光推進事業者が立地する自治体と協議会を組織し、その協議会が作成した計画を認定するという仕組み。8月6日時点で17地域が認定されている。

計画に基づいて実施される補助金は、事業費の3分の2、最大7500万円。財政支援のほか、国や地方公共団体、国立博物館などによる計画推進に向けての助言や日本政府観光局(JNTO)による海外での宣伝などの支援を受けることができる。計画期間は原則5年間。

丸岡氏は、文化観光について、「行政の視点だけでは足りない。地域の方々の思いだけでも足りない。いろんな人たちの心を取り入れることがとても大切」と強調。観光の文脈からは、文化に触れる旅行者に価値を届けるために経営の視点に立つことが必要としたうえで、「事業性がなければ未来へはつながっていかない」と続けた。

会場では文化観光を推進するための課題や方策を探るパネルディスカッションも開催された

文化観光には地元住民の理解も必要

このほか、セミナーでは城西大学現代政策学部の土屋正臣准教授が「文化観光が目指す社会」と題する講演を実施。

土屋氏は、文化を商品化することに疑問を抱く人もいるが、「文化と観光は対立しない」との考えを示した。これまでも、教育的な枠組みの中で、文化財の価値や魅力は発信され、それを社会に還元してきたとして、「文化観光は、社会教育でおこなわれてきたレクレーションを通じて文化を理解することと重なる」と指摘。そのうえで、自治体や博物館などの施設に向けて、「社会教育活動で蓄積されたノウハウを、文化観光でも存分に活かして欲しい」と訴えた。

また、土屋氏は、文化観光の理想形の一つとして、60年以上にわたって続いている長野県野尻湖でのナウマンゾウ発掘調査を挙げた。この調査活動では、全国各地に「野尻湖友の会」が組織され、世代を超えて、また世代を受け継ぎ、発掘調査が続けられている。土屋氏は「研究だけでなく、ファンのコミュニティが形成されており、これが文化財の保護にも大きな役割を果たしている」と紹介した。こうした取り組みを継続していくためには、自治体のバックアップに加えて、「地元住民の理解が欠かせない」と強調。「長年にわたって、発掘に参加する人と地元の人たちとの交流があり、信頼関係が築かれてきた。今では、その住民のバックアップが自動化されている」と説明した。

土屋氏は、文化観光推進法にも言及。「観光は、その目的の一つである『国民経済の発展に寄与』に目が行きがちだが、その前段である『豊かな国民生活の実現』も重要」と話した。

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