社員の給与アップで会社が減税を受けられる制度とは

旅行・観光ビジネスで役立つ税知識:第8回

こんにちは。税理士の菊池美菜です。

個人の所得水準を底上げして景気回復につなげるための施策として、社員の給与を上げると会社が減税を受けられるという制度があります。

制度には、以下のふたつがあります。

  1. 平成23年税制改正で創設された雇用者の数が増加した場合の特別税額控除制度(以下「雇用促進税制」)
  2. 平成25年税制改正で創設された雇用者給与等支給額が増加した場合の特別税額控除制度(以下「所得拡大促進税制」)

雇用促進税制1、は、厚生労働省が担当するもので、適用事業年度中に雇用者(雇用保険一般被保険者)数を5人以上(中小企業は2人以上)かつ10%以上増加させるなど一定の要件を満たした場合に税額控除が受けられるものです。詳細は国税庁、厚生労働省のホームページ等をご参照ください。
今回は2の所得拡大促進税制についてご説明いたします。所得拡大促進税制は、青色申告書を提出する法人が、平成25年4月1日~平成30年3月31日までに開始する事業年度に下記の要件を満たした場合には、国内雇用者(国内に勤務する使用人。役員や役員の特殊関係者を除く)に対する給与等支給増加額について、10%の税額控除が受けられる制度です。ただし税額控除額は、法人税額の10%(中小企業は20%)を限度とします。

それでは、適用を受けられる要件について見て行きます。用語がわかりにくいので、注を参考にしてください。

  • 要件1:給与等支給額(注1)が基準事業年度(注2)の給与等支給額と比較して2%以上増加していること。(段階的に5%)

(注1)国内雇用者に対する給料・賃金・賞与等。アルバイト・パートの給料も含み、役員や役員の特殊関係者への給料は含みません。

(注2)平成25年度4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の前事業年度。適用事業年度が平成25年10月1日からならば、基準事業年度は平成24年10月1日~25年9月30日となります。

  • 要件2:給与等支給額が前事業年度の給与等支給額を下回らないこと
  • 要件3:平均給与等支給額(注4)が前事業年度の平均給与等支給額を下回らないこと

 (注4)平均給与等支給額とは、適用年度及びその前年度において給与等の支給を受けた国内雇用者の給与等支給額と、適用事業年度の給与等の月別支給対象者の数を合計した数で除して計算した金額をいいます。(適用年度に新規で採用したものや、前年度で退職したものに対して支払った給与については、平均給与等支給額を比較する上で計算には入れないことになります。)

具体例を当てはめてみましょう。例えば、青色申告の中小企業で9月決算、社員2名・アルバイト1名合計3名の会社があったとします。基準事業年度である平成24年10月1日~25年9月30日の3名の給与等支給額は700万円だったとします。

翌事業年度、平成25年10月1日~26年9月30日が適用1年目となりますが、社員2名・アルバイト1名で人数は変わりませんが、基本給をアップして年間の給与等支給額が800万円になったとします。上記の要件に当てはめてみます。

  • 要件1:給料増加率 700万円 → 800万円 100万円/700万円=14.3%
  • 要件2:給料増加額 700万円 ≦ 800万円
  • 要件3:平均給与 700万円/3人 ≦ 800万円/3人

3つの要件を満たすので、平成25年10月1日~26年9月30日事業年度は適用を受けることができます。適用事業年度の「雇用者給与等支給額」-基準事業年度の「雇用者給与等支給額」 の10%が減税額となります。この事例で言えば、100万円の10%なので10万円です。

その事業年度の納めるべき法人税が60万円だとしたら、10万円が減税されて納税額は50万円になります。ただし、その事業年度に納めるべき法人税が30万円だとしたら、減税額は法人税の20%が限度なので6万円となります。

1年目は要件を満たしたので、減税の適用を受けられました。さて2年目となりました。平成26年10月1日~27年9月30日の事業年度は、社員2名は変わりませんが、アルバイトがやめてしまいました。社員2名の給与等支給額は750万円になりました。これを要件にあてはめてみます。

  • 要件1:給料増加率 700万円 → 750万円  50万円/750万円=6.66%
  • 要件2:給料増加額 800万円 > 750万円
  • 要件3:平均給与 800万円/3人 ≦ 750万円/2

2年目は要件2に該当しないので適用を受けられません。ここで注意していただきたいのは、要件1は基準事業年度との比較になるので、平成24年10月~25年9月の給与等支給額700万円と今期の750万円を比べて判定します。要件2は前事業年度との比較になるので、平成25年10月~26年9月の給与等支給額800万円と比べて下回っていると判定します。

平成25年4月1日以後に新規開業した場合の所得拡大促進税制の基準事業年給与等支給額の計算方法は、事業を開始した事業年度の雇用者給与等支給額の70%に相当する金額となります。この場合に、事業を開始した事業年度の月数が適用事業年度の月数と異なる場合、事業を開始した事業年度の雇用者給与等支給額に当該適用事業年度の月数を乗じて、これを事業を開始した事業年度の月数で除して計算した金額を基準雇用者給与等支給額とします。

そこで、平成25年10月に、3月末決算の会社を設立した場合で、適用1年目(平成26年4月~27年3月)の基準雇用者給与等支給額の計算は次です。

  •  基準雇用者給与等支給額=(平成25年10月~平成26年3月の雇用者給与等支給額) × 12 ÷ 6 × 0.7

設立時に月給30万円で社員1名雇用して、平成25年10月~26年3月まで給与を180万円支給した時、「基準雇用者給与等支給額」は、180万円×12÷6×0.7=252万円になります。

そして第2期目(平成26年4月~27年3月)の給与等支給額が360万円だった場合には、252万円 →360万円(給与増加率42.8%)と、基準事業年度の給与等支給額より5%以上増加していることになり、要件1を満たすことになります。基準事業年度の給与等支給額は適用2年目以降も比較対象として使いますので、適用を受ける上で有利になる可能性があります。

所得拡大促進税制は雇用促進税制、復興産業集積区域において被災雇用者等を雇用した場合の法人税額の特別控除制度、避難解除区域等において避難対象雇用者等を雇用した場合の法人税額の特別控除制度、又は立地促進区域において避難対象雇用者等を雇用した場合の法人税額の特別控除制度とは選択適用(所得拡大促進税制を利用する場合、上記の税制は利用できない)となります。


菊池美菜(きくち みな)

菊池美菜(きくち みな)

税理士。大手百貨店勤務を経て2001年税理士登録。 得意分野は所得税、法人税でメディア各社(「女性自身」光文社、「女性セブン」小学館、「モーニングバード」テレビ朝日など)で確定申告などの特集を監修。税金のプロフェッショナルとして、誰にでもわかりやすい説明と臨機応変な対応に定評がある。 URL:http://www2.ttcn.ne.jp/mkikuchi/

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