免税対応からツアー集合の点呼まで、自動認識システムを観光分野で活用する事例 -サトーホールディングス

「ジャパン・インバウンド・エキスポ」でのサトーのブース

近年、各産業のリーディング企業など異業種から観光分野への参入が相次いでいる。観光立国の推進と、それに伴った訪日外国人の増加を見越して稼げるビジネスと判断されるようになった「観光」。異業種からは、どのようなポイントが”稼げるビジネス”となるのかーー?

自動認識システムは、”もてなしの技術”。

そう提案するのは、同分野で世界的な評価を受ける業界大手のサトーホールディングスだ。この影響と可能性を、サトーの取組みから考えてみたい。



▼免税販売制度改正の課題を自動認識技術でサポート

自動認識システムとは、自動的に発行したコードや磁気カード、ICタグ(RFID)のデータを取り込み、内容を認識する技術のこと。身近なところではスーパーマーケットや宅配便、交通機関などで活用されている場面を目にすることも多いだろう。


パスポート情報取得ソリューション。個人情報ページの下2行にある世界共通のコードから専用端末で読み取る

サトーは、この自動認識技術の開発と関連製品の製造販売で、モノや人の動きを一致させるソリューションの提案をコアビジネスとしている。小売や運輸、食品、アパレル、製造、公共事業、医療などをビジネスフィールドに、連結対象子会社は国内外に51社、売上高は約967億円、経常利益は約70億円(2014年3月期連結業績)。2期連続で2ケタ増益を遂げている東証一部上場企業が、次の成長分野として観光にねらいを定め、とともに発展を図ろうとしている。


例えば今年10月の外国人旅行者に対する免税販売制度改正に際しては、パスポートから必要な情報を自動認識技術で取得し、免税手続きに必要な書類を簡易に発行できるようにする「パスポート情報取得ソリューション」を開発した。


はがすとその痕跡が残るセキュリティシール。表面に商品に添付する書面を印刷することで手間を削減

合わせて、義務化されている購入商品の封印に必要な専用シールも、既に販売している「セキュリティシール」を活用して商品化。サトーは焼却時にCO2を削減する「エコナノラベル」など特殊シールの製造も強みとしており、購入商品に同封または添付する書面内容(出国まで開封を厳禁とする注意)を表面に印字したのが特徴だ。

これによって、販売店側で行なうパスポートの情報転記作業などでの時間圧縮やミスを防止し、購入者の待ち時間も短縮。店舗としてのサービスが向上し、「おもてなし」に繋がるとアピールする。

実際、ショッピングツーリズム協会が新制度開始直後に実施した調査でも、「まとめ買いの時の手続きに時間がかかった」「消耗品包装の手間が課題」などの意見が寄せられており、大きなサポートになるといえるだろう。



▼自動認識技術は、“もてなしの技術”

多言語表示からツアー点呼、ハラール対応も

「いわて銀河プラザ」で実施した商品情報の多言語表示。2次元コードを読み取り、詳細情報を表示

サトーがインバウンドに本腰を入れたのは、東京オリンピックの開催決定が契機。2013年には環境や医療、福祉など、オリンピックで期待される事業分野の担当者を横断的に集めた「東京オリンピック・パラリンピックプロジェクト実行委員会」を発足し、社内に専門部署はない観光への取り組みも開始した。


2014年春には、国土交通省と東京都の「ユビキタス(自動認識システム)」を活用した街づくりを目指す実証実験に、観光が関わる街歩きの部分で参加。10月の「ジャパン・インバウンド・エキスポ」にも出展するなど取り組みを加速しており、現在、観光分野では9製品の商品化・開発を行なっている。

同委員会の実行リーダーであり、インバウンド担当も兼務するリテール事業部グループ長の平田和也氏は「自社の技術を観光にあてはめると、コアビジネスのテーマと重なるところが多い。コミュニケーションツールなど、特にインバウンドを中心に貢献できる」と相性の良さをアピール。プロジェクト内でも特に力を入れる分野になっているという。


NFC(近距離無線通信)内蔵の腕時計。情報の受発信が可能で入場管理やスタンプラリー、クーポンサービスなどに応用

ただし、ビジネスとしていくには実践的な製品やサービスをさらに増やす必要があり、観光ビジネスの知見を深める必要性を感じている。一方で、旅行業界の自動認識技術に対する認識も深くないといい、サトー側から見れば顧客満足の向上や効率化に繋がる可能性を感じる部分も多い。「自動認識技術は、“もてなしの技術”になる。自社のビジネスの中から提案することが大切」と、観光産業と一緒に作り上げていくことに意欲的だ。

例えば、ツアーで非接触のICタグを活用することで、参加客の点呼などの効率化が図れるほか、エンターテイメント性を加えれば旅の魅力を高めることができると考える。訪日MICEではICタグを埋め込んだ腕時計を参加者に配布すれば、運営者側のツールとしての活用のみならず、主催者を印象付ける記念品にもなる。

また、すでにQRコードなど2次元コードを活用したスマートフォンなどでの多言語表示も開始しているが、これを東南アジアの訪日客誘致に欠かせないハラール対応にも応用。全世界で数100種類以上あるために、識別に手間や困難が伴うハラールの認証マークそのものをマーカーとし、商品の詳細情報を表示するソリューションを開発した。


▼世界が認める日本の力を観光に結集

ハラール対応ソリューション。認証マークをスマートフォンなどで読み取り、ハラールの食品製造をトレース

こうした技術による可能性を、旅行現場を知る事業者が知ればインスパイアされ、より実際的な商品やサービスの創出に繋がるだろう。平田氏は、「インバウンドはタッチポイントが広いので、同じような視点の企業と連携できれば」と、異業種同士のコラボレーションにも前向きだ。各産業のリーディング企業が世界に誇る技術・サービスの力を観光に注ぐことは、日本の観光レベルを引き上げることにも繋がる。各事業者にとっては、差別化を図るチャンスになるといえそうだ。

以下にサトーが提案する自動認識技術の観光活用の一例を提示する。こうした活用方法を知ることで、旅行・観光ビジネスの中核で、技術を活用するアイディアにつなげたい。


■多言語表示クラウドソリューション

  • QRコードから名産品の内容成分やアレルギーなど食材情報、商品に関わるストーリーやレシピの表示(東京ユビキタス計画実証実験「いわて銀河プラザ」で実施)
  • 店舗入り口での来店検知およびウェルカムメッセージやおすすめ商品の自動表示、外国人客向けの店舗インフォメーションの多言語表示(東京ユビキタス計画実証実験「銀座三越」で実施)

■プッシュ型O2Oソリューション

  • スマートフォンやタブレットに搭載されたWifiやBuletoothを利用し、訪日外国人旅行者に有益な情報をプッシュ配信

■ハラール対応ソリューション

  • 世界で数百以上あるハラール認証マークを、スマートフォンやタブレットで読み取り、賞味期限、アレルギー、原産国からハラール認定者など、ハラールの食品製造をトレース

取材:山田紀子(記者/観光ITレポーター)

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