注目された観光まちづくり、既存の資源を活かした賑わいで観光振興へ

妻籠宿とともに重伝建の第一号となった京都の産寧坂。多くの観光客で賑わう

千葉千枝子の観光ビジネス解説(11)

これからが期待される文化観光
もとある資源を観光で磨く


 

*右画像は重要伝統的建造物群保存地区の手本といわれる南木曽町(長野県)の妻籠宿。昭和51年に選定された。

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▼観光と親和性の高い文化芸術、スポーツ

文化芸術の魅力発信で賑わいを創出

文化や芸術、スポーツは、わが国において“教育”の範疇に置かれて久しい。文化財の保護や保全、学び、そして体育の概念から、いずれも文部科学省や文化庁が、その頂点にある。

しかし、文化芸術・スポーツは、観光との親和性が極めて高いことが知られている。そこで他国では、観光と文化芸術、スポーツを一つの省庁に括り、大臣級のもと奨励されることが珍しくない。そうした潮流は、近年、国内の自治体担当部課における組織の改編、呼称にも表れ始めている(表-1)。

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スポーツの祭典といえば五輪だが、古代オリンピアではスポーツ以外で芸術も、競技種目の一つであった。そのため、2004年アテネ大会から芸術イベントを復活させている。
記憶に新しい2012年ロンドン大会では、あわせて行われた文化芸術の祭典「カルチュアル・オリンピアード」が、大きな賑わいを創出した。古城でのクラッシックコンサートや野外でのロックコンサート、各種パフォーマーによるアートイベントなどが、英国全土で多発的に行われたのである。

五輪の閉会で、反動減が懸念された訪英外国人観光客数も、開催翌年の2013年は、前年増を記録した。われわれも2020年の東京五輪を、スポーツ以外の自国の文化芸術を発信する絶好のチャンスと捉えたい。


▼もとある資源、文化財を観光で磨く

重要伝統的建造物群保存地区の財政課題を克服するのが観光振興

文化財保護法によると「文化財」とは、歴史上、芸術上価値が高いものであり、有形・無形、民俗的なもの、さらには文化的景観までもが含まれる。なかでも歴史的風致の「重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建)」は、観光資源としても近年、期待が寄せられる。


重伝建には、商家町や城下町、武家町、宿場町、門前町など自社町、港町、産業の町やお茶屋の町、農漁村といった集落もあり、2014年6月1日現在、全国41道府県86市町村106地区が選定されている。

文化庁の一覧表


地域住宅モデル普及推進事業の展示住宅として公開された佐賀・有田の「心月庵」2階前の間と和室の様子

昔ながらの街並みは、時代映画やドラマのロケにもよくつかわれるため、地域発のフィルムコミッションが組織されるなど、地方の活性化にも一役買っている。マスツーリズムが影をひそめる一方で、注目されたのが観光まちづくりだ。その成功事例が近年、いくつも紹介されてきた。

しかし、重伝建における観光まちづくりには、課題も多い。町並みを持続的に保存、伝承するためには、建物の維持管理や空き家の利活用、世代の継承など、深刻な問題が少なくないからだ。なにより、財政的な課題が大きいとされる。


欧州では、豪農の屋敷や城をレストランやホテルに転用して、国境越えの観光客を多く取り込む事例が多い。また、スイス・アルプスのシャレー(山小屋)のように、繁忙期には大家が2階へ移り住み、1階を観光客に貸し出すといったシステムが確立されている。

ところが日本の場合、地域住宅モデル普及推進事業(国土交通省)等により改修された歴史的建造物においては、生活体験や内部見学は行えても、賃貸収益や簡易宿所としての営業に規制がかかる。どこに接点を見出すかが、問われている。

妻籠宿とともに重伝建の第一号となった京都の産寧坂。多くの観光客で賑わう

財政課題の克服には、何より観光振興策が求められる。賑わいがもたらされることで、商売も成り立てば、若い人たちの移住促進にもつながる。若い人たちが商店主となるような、創業支援も欠かせない。

観光と商工労働は、多くの自治体が一括りにした歴史がある。文化と観光、そして商工労働が循環する仕組みをつくる必要がある。


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