訪日外国人に「旅行体験」を売る
ボヤジン(Voyagin)CEO高橋氏
全国の自治体や観光関係者の期待が高まる着地型ツアー。その反面、「現地の生情報が少ない。情報があっても具体的なアプローチが難しいーー」。そう話すのは現地体験ツアーの予約サイトを運営するボヤジン(Voyagin)CEOの高橋理志氏だ。
同社は、観光地の「体験」を現地でサポートする“ホスト”と旅行者のマッチングを主とするサイトを運営。これまで旅行商品市場では、提案されてこなかった個性的な着地型ツアーを旅行者に紹介してきた。サイトのトップページを飾るコンセプトは「ユニークな現地ツアーを探せる 旅行体験のフリーマーケット」。高橋氏が起業して約3年、現在のビジネスと今後の事業拡大について話を聞いた。
▼世界の旅行者がターゲット、競合は海外プレイヤー
「アジアの旅行では必ずボヤジンを使う」を目標にビジネス拡大
高橋氏は、「競合相手は、アメリカのViatorなど海外のプレイヤー。日本を含めたアジアの局地戦では充分に勝負できる」と自信を示す。当面の目標は、「2、3年のうちに、『アジアの旅行では必ずボヤジンを使う』と言われるまでビジネスを伸ばすこと」。そして、それを基盤に世界に打って出る青写真を描いている。
同社は、2014年6月現在、日本、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、台湾、香港、シンガポールの現地ツアーを取り扱っている。ツアーの数は日本で700、全体で1300ほど。日本市場では訪日外国人旅行者、東南アジア市場では日本からのアウトバウンド旅行者に限らず、世界中からアジアを訪れる旅行者をターゲットとしている。
現在の成約数は1日30〜50件、ひと月で1000〜2000のペース。その大部分を日本国内の商品が占め、ユーザーのほとんどが外国人旅行者だ。客層は30代前後、ファミリーやカップルが多いという。
「日本では、国籍にかかわらず、やはり築地やアキバ(秋葉原)が人気ですね。ファーストタイマーが多いのでしょう」と高橋氏(写真右)。一度の訪日旅行で、違うツアーを複数回予約する旅行者もいるという。訪日外国人の増加に呼応するように、今年の春から急激に予約数が増えてきた。「今後は、TVチャンピオンが築地を案内するツアーやロリータグループがアキバを案内するツアーなどエッジの効いたものを提供していきたい」と意欲的だ。
▼発想の原点は自身の経験
「異文化体験」の楽しさを求める旅行者にオンラインで現地ツアー
このビジネスの発想の原点となったのは、高橋氏自身のインド旅行。旅行中、暇を持て余していた高橋氏は、たまたま街頭に貼ってあった現地でのアクティビティ・プログラムを見つけ、思い切って参加してみた。すると、ガイドブックには載っていない体験ばかり。他の参加者とも仲良くなり、異文化体験の楽しさを知った。
帰国後は、その体験を活かして自分のアパートに外国人をホームステイさせ、そこでも異文化交流を楽しんだ。受け入れた人数は3〜4年の間で数百人。「彼らは必ず日本での楽しみ方を聞いてくるんです。これは自分がインドで経験したことと同じこと」。
この経験をもとに、2011年6月にまずは訪日外国人旅行者向けにオンラインで現地ツアーを予約できる「FindJPN」を仲間と立ち上げた。国が成長戦略のひとつとしてインバウンド市場に力を入れていることは後から知ったという。最初は貯金を切り崩し、若い起業家を支援するETICの助成金を受け、ビジネスを回した。その後、東南アジアにも事業を拡大。2012年12月にはサービスを「ボヤジン」に変更した。
▼こだわりは「ツアーの質」、ホスト面接の合格率は約50%
髙橋氏はボヤジンのこだわりについて、「紹介するツアーの質」と即答する。実際に旅行者を案内するホストの選定は、まず書類審査。その後、直接ホストと面接して審査基準を通ったツアーだけをサイトで紹介している。「ホストの語学能力はもちろん重要なのですが、大切なのは自分が企画したツアーにどれだけ思い入れがあるかですね」と高橋氏は話す。東南アジアのツアーはシンガポールで審査。手順は日本の場合と同じ。全体の合格率は約50%という厳しさだ。
現在、70%ほどはボヤジンからホスト側に提案をもちかけた商品。「有望なジャンルにはこちらから乗り出していきたいんですが、ホストを獲得するのにも手間がかかる」と課題も口にする。現在のスタッフは15名。事業拡大に合わせて人員も増やしていく考えだ。
サイトのビジネスモデルは、旅行者とホストとが直接契約し、成約に応じてホストからコミッションを受け取るというもの。ホストの掲載料は無料。基本的には購入者とホストとの契約関係だが、クレームが発生した場合には積極的に介在し、購入者からバッドレビューがつくと、ホストに状況を確認する。すべてはクオリティー確保のためだ。
▼事業拡大でB to Bコラボにも積極的、世界を視野に
日本ではB to Cに加えて、B to Bによるビジネス展開にも積極的だ。たとえば、ホテルのサイト上で、ボヤジンが提供しているホテル周辺のツアーを紹介。アフィリエイトとしてビジネスを広げている。また、5つ星ホテルのコンシェルジュとのネットワークをつくり、宿泊者からの問い合わせを受けることもある。
両者間で金銭のやりとりは発生しないが、ホテルにとってはカスタマーサービスとなり、ボヤジンにとってはビジネスチャンスとなることから、利害が一致する。「ホテルとの連携は深めていきたい」と今後への期待も大きい。
また、メディアとも協業。地球の歩き方の訪日版「Good Luck Trip」サイト上でも、掲載された情報の取材先と関係のあるツアーを紹介している。「メディアとコマースのwin-winの関係をつくることで、この分野も伸ばしていきたい」と高橋氏。将来的には企業と記事広告的なツアーを造成し、マーケティングの役割を演じることも可能ではないかと夢は広がる。
このほか、着地型ツアーを取り扱っているため、地方自治体との関係構築にも意欲を示す。さらに、既存の旅行会社とのパートナーシップも視野に入れるほか、旅行系オンライン・サプライヤーとのコラボやチケット販売などにもビジネスを広げていきたい考えだ。
- 取材、文/トラベル・ジャーナリスト 山田友樹
- 取材、編集/トラベルボイス編集部 山岡薫
【若手経営者インタビュー記事】