ホテルコンサルタントの堀口です。
年々インターネット予約に流れ重要度が減っていると考えられている法人契約。よく言われている問題は「WEBと比較されてお客様だけに都合がいいように予約されてしまう」「減少が著しく重要度が低くなってきている」というものです。
コンサルタントの目から見た法人契約の問題点は以下の2点に集約されます。
- 法人契約の内容がお客様の条件とあっていない
- 法人契約の料金体系がレベニュー・マネジメント(RM)と矛盾している
法人契約の内容はお客様の条件とあっているか
法人契約を利用するお客様の目的はほとんどの場合お仕事、つまり「出張」でしょう。出張費用は会社持ちですから、「出張旅費規程」というルールを基に出張旅費が支払われています。
では、皆さんは次の質問に答えられるでしょうか?
- 出張旅費で決められている宿泊費の金額の相場はいくらでしょうか
- 実際に使われている金額の相場はいくらでしょうか
- 実費精算(領収書の金額分支払われる)と定額精算(実際の利用金額にかかわらず一定の金額が支払われる)の割合はどの程度でしょうか
ホテル側で「法人契約料金は1万2000円でお願いします!」と決めたとしても、その企業の出張旅費規程の上限が1万円であれば、そのホテルが選ばれることはないでしょう。誰でも、自腹を切ってまでそのホテルに宿泊したいわけではないのです。法人契約の減少は、単純に「金額が合わない」ことが理由のひとつかもしれません。
では、一般的な出張旅費の傾向はどのように調べれば良いでしょうか。
顧客企業に対して出張旅費規定をヒアリングしながら、最適な提案ができるのが一番です。さらに、統計情報を活用するのもひとつの手です。
誰でも入手でき信頼できる情報として私がおすすめするのは、独立系ホテルを横断的に利用できる会員制度を提供する「株式会社Aカードホテルシステム」が毎年発表してくださっている、出張動向調査です。
法人契約を考えている相手先ごとに適切な提案をしたいところですね。
法人契約の料金体系がRMと矛盾している
もう一つの問題点は、法人契約の料金体系がRMと矛盾していることです。
出張利用のお客様の利用のピークは概ね水〜木曜日、ここに人気が集中します。人気が集中する結果、お断りすることが増えるのであれば「料金を上げる」などして販売を制限するのがRMの基本的な考え方です。
ところが多くの国内ホテルは、法人契約料金を「正規料金から●●%引き」と決めて固定化しています。その結果、下図のような問題が生じているのです。
つまり「お客様がお得な料金を比べて法人契約とWEBを使い分けてしまう」のです。
お客様にとっては喜ばしい状況なのでしょうが、ホテルにとっては「WEBの方が安いじゃないか!」とクレームを受けてしまったり、単価を上げようとしている水・木曜日に法人契約が入ると邪魔に感じてしまったり、あまり良い状況とは言えません。
法人契約とは本来、「将来も継続して入ってくるお客様を安定的に確保するために、一般のお客様よりも有利な条件で予約できるようにする」ものですから、上記のような状況では困ってしまいます。
そこでRMの普及とともに変わってきた法人契約料金の考え方が次の図です。
一般に提供する料金の中で、最も安価なものをBAR(Best Available Rate)と言いますので、このタイプの法人契約料金をBAR-●●%と表現します。
さらにこの料金では、最も需要が高い時期は一般販売を停止し法人契約料金を一般販売料金の上限まで引き上げる、ということも行われます。これにより、前述の問題である「法人契約料金が一般販売料金より高くなる」「法人契約が入ると単価が落ちる」といった問題を防ぐことができます。
しかし、需要に応じて料金をどんどん上げていくと、一般料金と比べると安価になるとはいえ、出張旅費の上限をかなり上回った料金になってしまうこともあり得ます。
特に現時点では、訪日外国人の大幅な増加により客室が不足し、料金を高めに設定するホテルが増えています。そこにコンサートなどのイベントが加わると客室不足に拍車がかかり、一般には手が出ないような料金を提供することもあり得ます。
お客様の中にはこの状況を不満に思う方もいらっしゃり、ブログやツイッターなどでそのようなコメントを拝見する機会も増えてきています。
「需要と供給のバランスから適切な料金」と言えばそうなのですが、一方で長期的なビジネスのリスクとして、「そんなに高いなら出張はもう割に合わないので、電話会議にしよう」といった反作用が出てこないとも限りません。
今は海外からのお客様で賑わっているから良いとしても、海外からのお客様は何かしらの政治的トラブル(尖閣諸島問題など)や環境変化(地震災害など)により減少するリスクを織り込んでおくべきです。その結果、「今取れるだけ高くとる」のか「将来の顧客の為に、今、ある程度の枠を用意する」のかは、ホテルの経営戦略だと言えるでしょう。
また、国内のお客様と海外のお客様のリードタイムを比べると、海外のお客様の方がリードタイムは長い(早めに予約してくる)傾向があります。
海外のお客様の増加に合わせて料金を上げていくと、海外のお客様からの予約が止まった時点では満室にはなっていないけれど料金がかなり釣りあがっており、国内のお客様の料金としては高すぎて予約が伸びず十分な予約数を確保できなかったり、十分な予約数を確保するために値下げすると海外のお客様の予約の取り直しが起きたり・・・といった状況に陥ることもあるようです。
将来のビジネスのリスクを考慮するにせよ、実務的なコントロールの問題からクローズドマーケット(一般に公表しない料金を提供するマーケット)を重視するにせよ、どう法人契約を活用するかを考えるべき時期に来ているのかもしれません。
その意味で、できれば実践していただきたいのが「3タイプの法人契約料金からお客様に選んでいただく」(下図)という方法です。
b. の法人契約料金が先に触れた「RMとともに普及している法人契約料金」です。
c. は安価である代わりに需要予測や予約状況によってブロックアウト(販売停止)することがあります。
a. は、ある意味従来の法人契約料金のように見えますが、相手先に一定の利用保証を求めます。利用実績が保証の範囲を下回る場合は、次年度の契約料金が値上げされるというペナルティを設定しますが、その反面「確実に部屋を確保する」ことをホテル側も保証します。
【3
タイプの法人契約料金の特徴比較
】
| a. 高単価固定型 | b. 変動型 | c. 低単価固定型 |
ブロックアウト | なし | なし a. と併用時はありも可 | あり |
販売する需要 | 全需要 | 全需要 | 低需要のみ |
適したお客様 | お部屋の確保を優先するお客様 | お部屋の確保を優先するお客様 | 価格を優先するお客様 |
今のように客室が確保しにくい状況、あるいは災害が起きた際など客室が必要となる状況であれば、
a. のタイプの法人契約料金も検討してもらえる余地があるのではないでしょうか。
3つのタイプの料金を提示してお客様に選んでいただくことで、
a. や
b. の料金の長所を理解していただき、お客様にもホテルにもメリットがある契約につながっていくでしょう。
a. の料金があれば、「海外のお客様の予約が止まった時点で一般からの予約が伸びないが、かといって値下げもしにくい」という状況には対応しやすくなります。
これらの料金は考え方を示すものですので、細かな点は各ホテルで調整していただいても結構です。
海外からのお客様が増えてくると、国内需要のみを考えればよかったこれまでとは異なるコントロールが必要になってきます。その意味でも法人契約料金を見直すことをお薦めします。