2012年にプライスラインから18億ドル(日本円で約2200億円)で買収された旅行予約サイト比較サービスを提供するカヤック(KAYAK)。メタサーチと呼ばれる旅行検索サービスを提供する米国発の老舗企業であり、世界最大手のひとつだ。
世界で年間10億件以上の旅行検索、モバイルアプリのダウンロード数3500万回以上を誇る同社が、日本語サイトを半年前にオープンさせた。日本参入を果たした同社のキース・メルニック社長に、その背景と戦略、未来の旅行産業への見解を聞いた。
日本にも本格参戦、32ヶ国20言語までビジネス拡大
カヤックは2004年にアメリカで設立。旅行予約サイトを横断検索するメタサーチとしては老舗であり大手の存在だ。「アメリカでも、ヨーロッパでもビジネスは順調に成長している」。メルニック氏はそう自信を示す。最近では、アジア太平洋と南米でも次々とサイトをオープンし、ビジネスを拡大。日本市場には、半年前に日本語サイトをオープンし、本格参入を果たした。2年前は10カ国6言語だったものが、現在では32カ国20言語までそのサービスは拡大している。
欧米での成功の背景について、メルニック氏は「航空会社、ホテル、OTAなど旅行に携わるプレイヤーが多い」ことを挙げる。逆に言うと、成熟した旅行市場でありながら、日本への参入が遅れた理由は、「JALやJTBなどの大手企業が市場で強く、細分化(フラグメンテーション)された市場環境になかったからだ」という。
しかし、「航空運賃や旅行商品などのプロダクトのフラグメンテーションも進み、だからこそ、消費者による情報ニーズは高くなっている」とマーケットの変化に言及。さらに、インターネットユーザーが多く、海外旅行市場も大きい。最近ではオンライン旅行業も発達していることから、「日本は魅力的な市場だ」と強調する。
日本参入で重視するのはローカライゼーション
メルニック氏は、日本参入にあたって「他マーケットと違うことをする必要はない。」と明快に話す。他市場でもそうだったように、日本市場に合った“正しいプロダクト(旅行商品)”を提供することがユーザー(消費者)に選んでもらうカギになるという考え方だ。
そして、言語化も含めたローカライゼーションの重要性も指摘する。「カヤックにはローカライズのためのエキスパートも多い。日本のサイトを運営していくうえでも日本市場を熟知したエキスパートを雇っている」と明かす。カヤックはテクノロジー企業として、テクノロジーセンターをアメリカとドイツに構えているが、「ビジネスの地域性は重視している」と強調する。
日本に続き、今年になってアラブ首長国連邦(UAE)でもサイトを立ち上げた。中東では初めてとなる。「すべての国に『フラッグ』を立てるのがゴール。アジアにしろ、南米にしろ、世界には成長の伸び代はまだある」と未来を見据える。
強みは多様な企業とのパートナーシップ
「旅行はグローバルビジネス」というのがメルニック氏の考え方。カヤックは、過去11年で世界中の航空会社、ホテル、レンタカー、エクスペディアを含むOTAなどさまざまな企業とパートナーシップを構築してきた。グローバルにビジネスを展開するうえで競合は多いが、「それが最大の強み」と自信を示す。
また、カヤックは、Booking.com、Agoda.com、Rentalcars.com、Opentableとともにプライスライングループの傘下企業。それぞれ独立性を保ってビジネスを展開しているが、ホテル検索では、Hotels.comやエクスペディアと同様にBooking.comとアゴダの商品も比較することができ、より多くの選択肢を提供している。
メルニック氏は「WIT Japan2015」での登壇時にも、プライスライングループに買収されたことについて「マイナスは思いつかない」と語っている。特に、グループの中核的な存在であるブッキングドットコム(Booking.com)とは連携していくことで事業拡大の可能性を展望している。
旅行はパーフェクトなeコマース・プロダクト
メルニック氏はオンライン旅行業の未来について、「現在約35%のブッキングがオンラインで行われているが、まだまだ成長の余地はある」と話す。アマゾンなどと異なり、旅行は物理的なデリバリーの必要がなく、すべてオンラインで完結することから、「旅行はパーフェクトなeコマース・プロダクト」と言い切る。加えて、人の往来がますます活発になると予想されることから、「旅行産業自体の未来も明るい」と展望する。
新しいビジネスモデルとして世界の潮流になりつつあるシェアリングエコノミーが「旅行者にさらに多くのオプションを提供する機会になる。」との考え。これまで以上に旅行のフラグメンテーション(細分化)が進むことを予見し、今後の展開に期待を示した。
取材・記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹