ホテルコンサルタントの堀口です。
少子高齢化社会の影響もあって、様々な業種で人手不足となっているようですが、訪日外国人客の増加により業績が上向いてきている(ところも多い)ホテル業界でもその傾向は同じです。
下記リンクのニュースは沖縄県の八重山のものですが、同じような状況の地域も多いでしょう。
もともと利益が出にくい構図の日本のホテル業界、人手不足になる以前から少しでも利益を残すためには生産性を上げるべきだという議論が続いています。星野リゾートの星野佳路氏もこの問題を指摘する方の一人で、「経済の好循環実現に向けた政労使会議(第3回)」の中で提出された資料にもそのことが記載されています。
星野氏は生産性の問題を、マルチタスク(一人のスタッフがフロント・客室清掃・レストランサービス・調理と複数の業務を受け持つこと)と休暇の分散によって解決しようと提案していらっしゃいます。
では一般的なホテルの取り組みはどうかといえば、部門ごとに生産性向上を考えるに留まるケースが多いようで、宿泊部門でよくお聞きするのは、「チェックインにかかる時間を短縮したい」というものです。
具体的な取り組みの例としてはこんな感じでしょうか。
初めて利用するお客様には細かな説明をするが、勝手を知っているリピーターには説明を省略する
チェックイン時の説明を印刷してお客様に渡す
ところがこれ、残念ながら「生産性の向上」には必ずしもつながりません。
生産性と一口に言ってもどんな意味があるかというと、公益財団法人日本生産性本部の定義によれば
「生産性(Productivity)」とは、投入量と産出量の比率をいいます。投入量に対して産出量の割合が大きいほど生産性が高いことになります。 投入量としては、労働、資本、土地、原料、燃料、機械設備、などの生産諸要素が挙げられます。産出量としては、生産量、生産額、売上高、付加価値、GDPなどがあります。
となっています。
このコラムで取り上げているのは「労働生産性」なので、さらに労働生産性の定義を見てみると
労働生産性は、労働を投入量として産出量との比率を算出したもので、労働者1人あたり、あるいは労働者1人1時間あたりの生産量や付加価値で測るのが一般的です。
となっています。
簡単に言うと、「売上を総労働時間で割ったもの」と考えて差し支えないようです。
少ない労働時間で多くの売上を上げることができれば生産性は上がることになります。(売上ではなく利益で考えることもあります)
計算式から考えると、労働生産性を上げるには以下の方法に大別されることがわかります。
- 売上(または利益)を増やす
- 総労働時間を減らす
※ 売上を増やすことができても、その割合以上に労働時間が増えれば労働生産性は上がりませんのでご注意ください。労働時間を増やさずに売上を上げるには、販売単価を引き上げるのが効果的です。
ここで考えてほしいのが、「チェックインの時間を短縮する」ことが総労働時間の短縮につながるかどうか、です。
総労働時間は以下の計算式で考えることができます。
従業員数 × ( 所定勤務時間 + 残業時間 )
つまり、総労働時間を減らすには以下の2点に絞られることになります。
- 1日に出勤している従業員数を減らす
- 残業時間を減らす
一人のお客様に必要なチェックインの時間を短縮することで上記の2点は解消されるでしょうか?
もしこれまでスタッフが3人同時に担当していたチェックイン業務が、効率化により2人にできたとすれば、1日に出勤している従業員数を減らせそうですから生産性は向上します。
しかし効率が上がったとしても、お客様をお待たせしないという利便性を優先して3人体制のままだと、生産性という意味では改善していません。
例として挙げた「リピーターには説明を省略」「説明を印刷して渡す」ことでは、同時にフロントを担当する人数を減らすまでの効果は期待しにくいのです。
つまり、チェックインの効率化により改善するのは、労働生産性ではなくて顧客満足度であることが多いようなのです。
確かにチェックインは単なる手続きですし、疲れて到着しているお客様は早くお部屋でのんびりしたい・・・という方も多いでしょう。地元のおいしい料理店の情報などスタッフに細かく質問したいというお客様ももちろんいらっしゃいますが、全体的なチェックイン時間の短縮により、このようなお客様にも余裕を持って対応することができるようになりますね。
このようにチェックインの効率化そのものは否定されるわけではないのですが、目的とあっているのかどうかはちょっと考えてみたほうがよいようです。
皆さんのホテル・旅館ではどうやって生産性を上げていきますか?
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