2016年の世界の宿泊産業で予測される動きとは?ユーロモニターインターナショナルのトラベルアナリストが、2016年に注目すべき宿泊産業の動き・トレンドについて解説します。
ホテル産業は引き続き成長
2015年、世界のホテル産業はこれまでの数年同様、安定した成長を遂げました。アジア・太平洋、ラテンアメリカ、北米においては大きく伸長した反面、ヨーロッパにおいてはウクライナ情勢や、EUによるロシアへの経済制裁、ギリシャ危機、パリでのテロ襲撃事件などを受け、ホテル業界はかなり苦戦を強いられました。
2016年もGDPの伸びや中国を始めとする大国の所得増加を受け、より多くの人が旅行をすることが予想されるため、ホテル産業は引き続き堅調に推移する見込みです。しかし、一部地域ではまだ不安定な状況であることや、プライベートレンタル(民泊)との競合などが懸念材料となるでしょう。
業界内の統合(M&A)はまだ終わらない
2015年後半から立て続けに起こった、マリオットによるスターウッド買収や、アコーによるFRHIホールディングス(ラッフルズホテルやスイスホテルなど)の買収を考えると、業界再編はまだ落ち着く状況にはないと言えるでしょう。むしろ、各社はブランド吸収により、精力的に事業ポートフォリオの拡大に目を向けている状況です。
Booking.comやExpediaを始めとするOTA(オンライン旅行会社)やAirbnb(エアビーアンドビー)などの個人間シェアプラットフォームに対抗していくために、いかに大きなホテルグループであろうとも事業規模の拡大を重要視しています。
ハイアットに関してはマリオット以前からスターウッドとの交渉をしていたという噂もあり、2016年は引き続き買収相手を検討している状況では、と考えます。インターコンチネンタルグループも、2014年にKipmtonを買収して以来大きな動きを見せておらず、近い将来また拡大の動きに乗り出す可能性は否定できません。
ホテル業界のM&Aは中国市場に注目
欧米のホテルチェーンは、中国への足がかりを作ろうと中国国内に数多くのホテルを開業してきましたが、この数年、中国国内では中国系ホテルの方が大きな成功を収めています。この状況は、ある意味では外資系のホテルチェーンが中国国内シェア拡大のために中国系ホテルの買収を検討する機会を作り出しており、また一方では、中国系ホテルが海外市場での事業拡大を狙うきっかけになるとも考えられ、今後注目すべき市場であると言えます。
スターウッド傘下ブランドの今後
2016年の夏までには、マリオットによるスターウッド買収が承認され、両社の統合が開始されます。これにより、スターウッド側、特に本社機能での人員整理が見込まれるだけでなく、マリオットが新たに抱えることになる30のホテルブランドのいくつかは、既存のマリオットグループのホテルブランドの完全な競合となってしまう事態が生じます。
これを受けたマリオット側の対応として、(1)苦戦する旧シェラトン(スターウッド)傘下のホテルブランドを活性化させるために巨額の投資を行う、(2)マリオットグループブランドの拡大のため、旧シェラトン傘下のブランドを塗り替える、(3)資本獲得のためにいくつかのホテルブランドを売りに出す、などが考えられます。(3)の可能性に関しては、数多くのプレーヤーが旧シェラトン傘下のブランドを手に入れたいと名乗りを上げることは間違いないでしょう。
【編集部注】 その後、この買収劇は中国の保険会社が名乗りを上げるなど加熱が続いている。
ホームアウェイにとって2016年は重要な年
エクスペディアによるホームアウェイの買収は、Airbnbの存在感の大きさを象徴していると言えるでしょう。エクスペディア、ホームアウェイ両社とも、Airbnbにいかに対抗していくかをかなり意識しており、2社の統合によりエクスペディアサイトにおける宿泊施設数は120万件までに増え、世界で2番目の規模となりました。
ホームアウェイにとってはエクスペディアの持つオンライン予約の専門性を活用するメリットが生まれただけでなく、2015年にAirbnbに奪われた宿泊施設数第一位の座を取り戻すことができました。エクスペディアのもつシステムをホームアウェイに導入することができれば、ホームアウェイにおける宿泊予約がより便利になり、データ管理の強化だけでなくオンラインからの収益確保に繋げることができるでしょう。
Airbnbはさらにその先へ
Amazonが書籍だけでなく消費者が必要とするあらゆるものを販売し始めたように、Airbnbのビジネスのその先に注目が集まっています。過去数年のうちにAirbnbは素晴らしいプラットフォームを確立し、その名は世界中が知るところとなりました。
今後はそのプラットフォームを活かし、民間の宿泊レンタルという既存の事業の枠を超え、様々なサービスや製品の提供を開始するでしょう。競合のホームアウェイは依然民間の宿泊レンタルを主力のビジネスとしていますが、Airbnbはヴァージン・アメリカなどと提携し、旅行先での様々な体験プランの販売も始めています。2016年はさらにこの動きが拡大するだけでなく、ホテルがAirbnbに部屋を提供するといった新たな分野での展開も見込まれます。
グーグルやトリップアドバイザーがOTAの競合に
トリップアドバイザーは2014年にアメリカのウェブサイトに簡易予約システム「インスタント・ブッキング」を導入し、さらにこの数年は同社自体が宿泊予約における基幹サイトになろうとしているように見受けられます。イギリスでも同様の仕組みを導入し始めただけでなく、プライスライングループと提携をおこない、トリップアドバイザーを介して同グループの各サービス(Booking.comやPricelineなど)での直接予約が可能になりました。グーグルも “Book on Google”のサービス拡大に力を入れ始めています。
これはトリップアドバイザーもグーグルなどオンラインテクノロジーに特化してきたプレーヤー達がOTA(オンラインの旅行代理店)と競合するようになってきたことを意味しており、今後の動向に注目したいところです。小規模なホテルにとっては、独自のオンライン予約システム導入の手間が省け、また代理店に支払うコミッションの削減に繋がるため、好ましい傾向と言えるでしょう。
※本記事は、国際市場調査大手の「ユーロモニター」社が2016年1月に発表した記事「Casting an Eye on 2016: Expectations for the Lodging Industry in the Coming Year」を和訳したものです。同社の協力で日本語に翻訳し、それをトラベルボイスが編集しました。