国際会議「WIT Japan 2016」で、世界のオンライン旅行業界のリーダーが「恐れていること」と口にしたのが、「ディスラプション」。デジタルテクノロジーの進化によって、既存のビジネスの秩序や概念が覆ることだ。例えば、エアビーアンドビー(Airbnb)などシェアリングエコノミーもその一つ。
同会議で講演したフェイスブック(Facebook)APACヴァイスプレジデントのダン・ニアリィ氏は、ディスラプションが旅行だけではなくあらゆる業界で起こっていることを指摘。その上で、もっとも重要なインパクトを与えるものが「モバイル」として、モバイルに取り組むべき理由を様々な調査機関のデータをもとに語った。
モバイル化が意味するもの
ニアリィ氏は、「よく“モバイル移行”といわれるが、もはや“モバイルそのもの”だ」とその重要性を強調。アジアにおける旅行予約の30%がモバイル経由で、その成長率は65%と倍増しており、Facebookでは16億人のユーザーの90%以上がモバイルで利用している。全世界のアクティブなSIMの数は、世界人口73億人を上回る75億に達しているという。
モバイル化は何を意味しているか。ニアリィ氏は「これまでのマーケティングアプローチが取れない。デスクトップのコンセプトは使えず、もはやクッキー(cookie)を使ったサーチは機能しない」と主張。
デバイスの利用時間を見ると、デスクトップウェブやモバイルウェブがこの2年間でほとんど変わらないのに対し、モバイルアプリは90%増加。最も利用時間の多いものに台頭した。しかし、世の中の310万のアプリ(GooglePlay)のうち、1人が1カ月に利用するアプリは27個のみ。また、アプリの利用時間の半分を最も利用するアプリが占め、上位3つのアプリで80%を占めており、「アプリ間のサーチも機能しない」とする。
さらに60%の人が2台以上、25%の人が3台以上のモバイルを利用しており、クロスデバイスも浸透。一つの家庭が有するデバイスは7.5台となり、41%の人が1つのデバイスで行なった行為を別のデバイスで完了させているという。
ニアリィ氏は、こうした状況で重要なのは「ユーザーの行動を把握できる個別のIDを把握すること」といい、「Facebookは実在のIDで人を紐づけられるのが強み。匿名性から始まったインターネットの世界で考えると画期的なこと」と強調。「デモグラフィックを特定し、カスタムデータをとって、彼らが時間を使っているところに投資できる」とアピールする。
見せる“ビジュアル”も変化
さらにニアリィ氏は「コミュニケーションで関心を引かなくてはならない」と、ビジュアルの重要性も強調。スクリーン上のビジュアルは、テキストから写真、動画と変化しており、Facebookでの動画の視聴数は1日80億ビュー、動画のシェア数は3倍に増加した。FacebookではVRヘッドセット開発の「オキュラス」を買収しており、ニアリィ氏は「今後はVR(仮想現実)が大きなプラットフォームになると確信している」と断言した。
最後に、インターネットの時間の25%がFacebookで使用されており、その40%が旅行であることを紹介。旅行はFacebookの投稿で最も多いテーマだという。ユーザーの70%が1つの地域から別の地域に移動した際の投稿でステータスを変え、52%の人がそこで発見したことを発信するなど、旅行との親和性の高いことも強調。「計画から予約、体験、事後を共有する。あらゆる旅行のプロセスにFacebookがありたい」と述べ、講演を終了した。
取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)