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忌まわしいテロの悲劇から7ヶ月がたった2017年2月。今年もニースにカーニバルの季節がやってきた。テロ後、最初のカーニバルということで集客が心配されたが、今年も変わらず日本を含め世界中から多くの観光客が賑やかなパレードを楽しんだ。ニースはフランス・リビエラ随一の観光地。カーニバルのほかにも楽しみは多い。世界中の旅行者を惹き付ける魅力はどこにあるのだろうか。
花が飛び交うカーニバル、今年も笑顔があふれる
中世から続くニースのカーニバル。最も古い記録では1294年にプロバンス伯シャルル・ダンジュがカーニバルを楽しんだという記述があることから、その歴史の深さがうかがえる。今年は実に133回目。2月11日から26日の期間、パレードをはじめとするイベントがマセナ広場を中心に繰り広げられた。
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今年のテーマは「エネルギー」。16台のフロートはそれぞれ、そのテーマに沿って花やオブジェでデコレーションされる。「1台のフロートで使われる花は2500から3000束。オランダからのチューリップなど数種類をのぞいてほとんどは南仏産の花です」。ニース市長のアシスタントでパレードを取り仕切るニコラさんが説明してくれた。
フロートは、風力発電、稲妻、コンセントなど多種多様。「テーマのほかに、政治を風刺するフロートも登場します。それをみんなで笑い飛ばそうという趣向です」。今年は夜のイルミネーションパレードで、ドナルド・トランプ米大統領やEUの首脳たちのフロートが観客を賑わせた。
毎年候補者の中からカーニバルの女王が選ばれる。今年選ばれたのは地元ニースの大学生シアムさん。これまでで最も若い18歳の女王だという。「悲しいテロのあと最初の女王に選ばれてとても光栄です。このカーニバルでみんなが喜んでくれたらとてもうれしい」と話してくれた。
カーニバルのハイライトは「花合戦」。フロートから観客席に向かってミモザー、ガーベラ、アイリスなどの花々が投げ込まれる。エンターテイメントのひとつとしてだけでなく、南仏の花の多様さや質の高さをアピールする目的もあるようだ。
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「今年はテロの後ということで、入場の際に手荷物検査を行ったため、各ゲートに長い列ができてしまい、来場者にはご迷惑をかけてしまいました。それでも、みなさんの楽しんでいる姿を見てホッとしています」とはニース観光局のドゥニ・ザノン局長。「観客席には日本からのグループも見かけますね。ニースと鎌倉との姉妹都市が昨年50周年を迎えるなど、日本とはいい関係です。市場の回復、そしてその後の成長に向けて日本でのプロモーションも継続していくつもりです」と続けた。
毎年、その年のカーニバルが終わるとすぐに来年の準備に取り掛かるという。来年のテーマは「宇宙」。2018年2月17日から3月3日にかけて行われる。今からどのようなフロートが登場するか楽しみだ。
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ニーチェも愛したエズ村、中世の街並みと地中海の絶妙コンビネーション
ニースから12キロ、モナコとの中間にあるエズは、海から垂直に切り立つ崖、海抜430mのところにつくられた村で、「鷲の巣村」の代表的な存在として知られている。鷲の巣村とは、鷲が卵や雛を守るために山や崖の頂に巣を作る様子に似ている村という意味で、コート・ダジュールやプロバンス地方に多く点在する。
迷路のような中世の街並みはヨーロッパには多いが、エズ村の価値はそれに地中海の絶景が加わることだ。地政学的な理由から過去さまざまな勢力に支配され、複雑な歴史を辿ってきたが、この村から眺める紺碧の海の景色は変わっていない。村の中心は「聖母被昇天教会」。18世紀からこの村を見守ってきた。入り組んだ路地を歩いていると、唐突にカフェ、レストラン、アートギャラリー、雑貨ショップなどが現れる楽しさもある。
エズ村にはかつて哲学者ニーチェが滞在し、散歩道を往復しながら「ツァラトゥストラかく語りき」の構想を練ったといわれている。この壮大な物語ではツァラトゥストラは山にこもって「神は死んだ」ことを悟る。物語に登場する山がエズ村に触発されたものかどうかは定かではないが、村にはニーチェが歩いたとされる山道が「ニーチェの道」として整備されている。
エズ村を下りたら、麓にある香水ブランド「フラゴナール」の工場に立ち寄るのが定番コース。日本語堪能なフランス人スタッフが工場内を案内してくれ、香水の材料、ブレンドの方法、調香師の仕事などを説明してくれる。併設のショップにはさまざまな香水や石鹸などがあり、お土産として喜ばれている。
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取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹