国内の公共交通機関のなかで、最も乗降地点が多い乗り物といえば路線バス。市区町村の細部にアクセスができる路線バスは、使いこなせば生活の足としてはもちろん、ビジネスや観光での移動利便が上がるが、日ごろ馴染みのないエリアの路線バスは運行経路や停留所の場所、発車時刻が分かりにくく、活用が難しい。
そんな路線バスの利便性向上へ、経路探索サービスのナビタイムジャパンが全社をあげて取り組んだ。経路探索サービスで、全国の路線バス会社が運行するすべての路線バスのデータ(一部除く)の扱いを実現したのだ。その規模は、バス会社数515社、停留所の標柱の数は35万本超に及ぶ。企業理念「経路探索エンジンの技術で世界の産業に奉仕する」「世界の人々が安心して移動できるために」の実現に向け、日本全国「バスデータ100%」への挑戦を聞いてきた。
「バスデータ100%」とは?
ナビタイムジャパンでは、2006年からバスデータの導入を開始。徐々にその数を広げ、226社になった2015年4月、日本全国の路線バスを網羅する「バスデータ100%」の目標を立てた。
対象は、国土交通省が取りまとめた「全国乗合バス事業者の移動円滑化基準適合車両導入状況」に記載のバス会社のうち、5台以上の路線バスを保有するバス会社(コミュニティバスと高速バス、観光バス、一部臨時バス等を除く)の計515社。当時の掲載社数の倍以上を追加することになる。
それを2017年12月にコンプリート。3年間で、約300社分を積み上げた。515社のバスデータに対応しているのは、ナビタイムジャパンだけだ。
▼対応路線バス会社の推移
経路検索サービスで提供するのは、対象のバス会社が運行する全ての路線バスの、「停留所の時刻表」と「バス停間の乗換検索」「トータルナビ検索」、「停留所の位置」など。
ナビタイムのサービスで「長崎駅」から「長崎温泉やすらぎ伊王島」をトータルナビ検索すると、検索結果に「長崎バス」の路線バスを利用する経路が出てくる(下画像は2018年1月16日時点の『PC-NAVITIME』の経路検索結果画面)。好みのルートを選択すると、交通手段と各地点の到着・出発時間や所要時間、料金の詳細情報とともに、乗車バス停である長崎駅前南口の時刻表や、出発地に設定した長崎駅から乗車バス停までの徒歩ルートを案内する地図ナビが表示される。
こうした内容が、目的地を入力して検索を実行するだけで即座に表示され、土地勘のない場所でも簡単に路線バスで行くルートと発車時刻、乗車場所が確認できる。至極当然のことのように思えるが、路線バスならではの特殊な事情も影響し、これを515社すべてで実現させるのは一筋縄ではいかなかった。加えて、ナビタイムの品質基準に適するための作業も発生したという。
515通りの情報のデータ化からスタート
まず、路線バスの情報を掲載するには、各バス会社と契約を締結し、データの提供を受ける必要がある。「515社分のデータなので、その形式も515通りあります」と作業の複雑さを説明するのは、社内チームの管理を担当した開発部バスデータエンジニアの前原氏。
バス会社からもらい受ける主なデータは、各停留所の時刻表と停留所の位置、運賃に関する各データ。それが各社によって、システムから抽出したままのCsv形式だったり、ExcelやWord、PDF、紙などさまざまだ。データ内容も異なり、例えば時刻表では、経路と各バス停の出発時刻が一目でわかる「通過時刻表」であれば次の作業が少ないが、出発時刻のみが書かれている停留所貼りの時刻表の場合は時間がかかってしまう。
しかし、「できるだけバス会社のお手間をかけずに、弊社で行なうようにしています」というのは、バス会社との交渉担当とデータ開発を担当する開発部バスデータエンジニアの仲摩氏。「必要なデータを確認し、手作業で打ち込むことは少なくありません。場合によっては時刻表と位置を確認するために、実際にバス停に行くこともあります」。
こうして集めたデータを、「弊社の独自フォーマットに入れ込むため、バス会社ごとに変換ツールを作る必要がありました」と前原氏は続ける。データ変換が1つのデータに対して数回必要なケースがあるため、制作した変換ツールは1000件以上に及ぶ。当然、運用のためのマニュアルも、515社通り作る必要があったという。
バス会社には仲摩氏など社内の渉外担当者らが連絡を取って訪問し、交渉の上、契約する。すぐに了解を得られるケースばかりではなく、交渉を開始から2年以上が経って、やっと契約できた会社もあった。それは、「契約を拒むというよりも、他所へ提供する前提でデータを整備していないという理由が大きいと思います」と仲摩氏はバス会社の事情を説明する。
「弊社では各公共交通機関の経路探索サービスを提供していますが、路線バスは経路探索のために時刻表を用意していないので、サービス化に時間がかかりました」と、開発部部長の村川貴則氏は続ける。「時刻表が販売されている鉄道などは、正確なデータが提供できる形で整備されており、弊社もデータを手に入れることができます。しかし、バス会社の場合は商用のデータがなく、提供されるのは情報になります。それを1つ1つ確認しながら、弊社でデータ化しているのです」。
受け取った時刻表や運賃のデータ化を済ませたら、それで作業が終わるわけではない。そのデータが現行のサービス通りになっているか、再度確認をする。具体的には、バス会社のホームページの掲載内容と比較したり、同一区間で異なる運賃が記載されていないかなど、照らし合わせの作業だ。これを独自開発のツールで自動化し、ツールが弾き出した矛盾点を、人が再確認をして修正する。システムと人で入念に、かつ効率的にチェックできる体制であるからこそ、「品質には絶対の自信があります」と胸を張る。
バス停の標柱35万本の1つ1つの位置も正確に
品質へのこだわりを示す分かりやすい例が、バス停の乗降場である標柱の位置の表示だ。路線バスは上り・下りの運行がある場合、1つのバス停に同一名の標柱が2か所(2本)ある。複数のバス会社が走っていたり、路線が複数あって交差点に停留所がある場合は、1つのバス停に4、5か所、大きな鉄道駅にはバスロータリーに数10か所の標柱がある場合もある。
初めての土地でバスを利用する際、複数の標柱があると迷ってしまうところだが、ナビタイムでは発車する標柱までのルート案内を提供。標柱の緯度・経度を入力し、正確な位置を示す。「まずは迷わずに、安心安全で移動していただくために。そして正確な乗り継ぎルートの提案と表示のためにも重要なのです」と仲摩氏。全国35万本超の標柱を案内しながら路線バスと路線バスの乗り継ぎを出せるのは、ナビタイムだけだという。
また、一度、経路検索サービスを開始したバス会社については、継続的に運行状況をチェックし、最新のデータに対応。例えば、春のダイヤ改正を受けた時刻表変更をはじめ、夏と年末年始の臨時運行といった定期的な時刻表の変更はもちろん、新規・路線廃止などの対応がある。
ナビタイムジャパンではバス会社ごとに担当者をつけ、定期的な変更が予想される前には一斉メールで変更内容を確認。これ以外にも、バス会社のホームページの変更を自動で抽出する仕組みを作るなど、常に最新の運行状況を反映する体制を整えている。
さらに、サービスの使用感も重要な要素。「バスデータ100%」ということは、経路探索に関わるデータが増えるため、検索のスピードに影響する。そこでナビタイムではコア技術である経路探索エンジンに、専門の研究開発チームを用意。データが増加してもパフォーマンスが下がらないよう、アルゴリズムの変化や最適化で、常に経路探索の高速化にも努めている。
路線バスの乗り継ぎで、表示できる経路が豊富に
「バスデータ100%」の実現で利用客に提供できる最大のメリットは、従来では検索できなかった経路を提示できるようになること。路線バスがあるのに経路探索に出てこない、という状況がなくなったほか、運行会社の違う路線バスを乗り継ぐ経路表示も可能になる。
では、どんな経路探索ができるようになるのか。象徴的な一例が、箱根/富士山へのルート。国内屈指の人気観光地を結ぶルートだが、一般的な経路検索で入力すると、一度小田原に戻り、箱根を迂回してJR御殿場線と路線バスやJR横浜線、JR中央線を利用する表示が多い。しかしナビタイムでは、箱根湯本から御殿場へ抜け、河口湖、富士山駅へと繋ぐ、箱根登山バスと富士急行バスを乗り継ぐルートも出てくる。
11時に箱根湯本を出発した場合、到着が13時22分。2時間22分で着く。運賃は2740円だ(2018年4月現在の土・日スケジュール)。これは、他の検索結果よりも20分~1時間以上早くなる。もちろん、検索結果は地図や徒歩のデータもあわせ、無理のない乗り継ぎが考慮されており、その最適性も独自ツールでテストをしているという。
次の「バスデータ100%」の目標へ
「バスデータ100%」のデータは、パソコンで利用できる「PC-NAVITIME」、総合ナビゲーションアプリ「NAVITIME」はもちろん、バスに特化したアプリ「バスNAVITIME」、auスマートパスなどの通信キャリアとのプロダクトアプリで提供。旅行者向け、法人向け、訪日外国人旅行者向けの各アプリでも提供しており、地域住民からビジネス、観光など、幅広い客層が利用できるようにしている。
利用者数も、バス会社数とともに増加。特に「バスデータ100%」計画始動後の3年間は、その増加率が群を抜いている。2017年12月26日に検索サービスを開始した「鹿児島交通」は、翌2018年1月の1か月の検索件数が1万6000件超に上った。運行エリアでの利用が多く、導入すればそのバスのユーザーも利便性が向上のために利用することが、データで示されている。
「バスデータ100%」を達成し、ユーザー満足が形となって見えている今、次の目標は何か。ナビタイムジャパンが目指すのは「コミュニティバス導入100%」。福祉バスや復興支援バスを除く、コミュニティバスを運行する全ての市区町村を対象に取り掛かっていく。対象となるのは、全国1741自治体のうち、1490自治体に及ぶ。
「路線バスの時と同様に、1つずつご連絡し、交渉していきます。ご協力いただく方々には新しいお仕事を増やすことになりお手数をかけてしまいますが、経路検索データに掲載すれば、ユーザーはもちろん、バス運行側にもメリットがある。その自信はあります」と仲摩氏は力を籠める。
充実したラインナップとその品質を武器に、さらなる安心安全な移動の実現に向けた経路探索サービスを追求し続けていく。
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記事:トラベルボイス企画部