リクルートライフスタイルが運営し、日本最大級の宿泊予約サイトとして、多くのユーザーに利用されている「じゃらんnet」。もともとは紙媒体から出発し、オンライン上のサービスを中心としたビジネスに移行してきた。こうした移行とデジタル化を進める中で注力してきたのが、CRM(Customer Relationship Management =カスタマー リレーションシップ マネジメント)だ。顧客にあわせたメールマガジンの配信などに取り組む同社のデジタルマーケティングについて聞いてきた。
需要を創造し旅行業界の活性化を実現するCRM
リクルートライフスタイルのネットビジネス本部でCRMを担当する“CRMユニット”を統括する石井智之氏は、じゃらんnetのCRMにおける究極の目標を「じゃらんnetを好きな人を増やしていくこと。嫌われることをどれだけ減らすかだ」と話す。
CRMは、日本語では“顧客関係の管理”などと訳されているが、チーターデジタルのマーケティングテクノロジーを導入したことで“顧客ごとの個別のアプローチ”が可能になっている。当初はレジャー市場向けのサービスがメインだったが、サービス領域をビジネス市場にも拡大。さらには、レンタカー予約や遊び体験予約、ゴルフ場予約などにもサービスを拡充している。
じゃらんnetが取り組んでいるのが、“需要を作り、旅行そのもののパイを拡大していく”というテーマだ。課題は“需要をいかにタイミングよく捉えていくか”。
じゃらんnetが設定する主なKPIはライフタイムバリュー(LTV)である。また、LTVに繋がる重要指標としてリピート率や年間利用回数に加え、ネットプロモータースコア(NPS)も合わせてモニタリングしている。
石井氏は「好き・嫌いという感情の部分を可視化できるのはまだ先の話だが、好きな人が減っているのにLTVが上がるという状況はないはず」と、両者の関連性を指摘。この2つが連動する構造がわかれば、「好き・嫌いを追いかけることでLTVを伸ばせるはず」(石井氏)と語る。
LTVをKPIとして設定するじゃらんnetだが、需要創造という一段階上からの視点で見ると、石井氏は「旅行業界全体が活性化する必要がある。それがクライアントの利益にもつながるし、旅行業界の活性化がなければ、最終的には我々にとっても芳しくない結果になってしまう」と話す。じゃらんnetでは、旅行業界の活性化を実現する重要な手法の1つがCRMであると捉えているのだという。
施策のキーポイントは「好まれるパーソナライズ」
デジタルマーケティングの分野では、かつては全会員に同様のメールマガジンなどを一斉送信する手法が取られてきた。しかしビッグデータをはじめとする技術の飛躍的な進歩に伴い、現在のCRMにおけるキーワードは“パーソナライズ”へと移行している。
石井氏は「全ユーザーに対し同じことをしてよいはずがない。どれだけ個々のユーザーと向き合い、それぞれにとって気持ち良いものを提供できるか、そしてどう実現するのかがポイントだ」と語る。
では、じゃらんnetではCRMのパーソナライズの事例としてどんなものがあるのか?
リクルートライフスタイルのCRMユニットで、主にじゃらんnetで宿泊領域のCRMを担当する木戸秋圭太氏は、「記念日などのタイミングで有益な情報を送ってあげると、反応してくれるユーザーは多い」と話す。記念日の行動には、食事やプレゼントの購入などが考えられるが、その中から旅行という行動を選んでもらうため、ユーザーごとの記念日を把握しておくことが重要となる。
また、同じCRMユニットで遊び体験やレンタカー、ゴルフ領域のCRMを担当する宮本薫氏は、「例えばゴルフの場合、セール情報に反応しない人は多い。でも、ゴルフの上達につながるノウハウ情報を送り、プレーする気分を高めた後だとセール情報に反応するケースもある」と話す。定期配信の情報には反応しないものの、サイトにアクセスした翌日になっても未予約という人に、定期配信と同じテンプレートで配信すると「メールの開封率やコンバージョン率に大きな差が出る。同じコンテンツでもタイミングを捉えることが重要」(宮本氏)だという。
複数チャネルを使い分けるコツ
より顧客目線に立ったCRMを実現するため、じゃらんnetではメールやバナー広告、アプリ、他媒体への広告など複数のチャネルでユーザーに情報提供している。これらのチャネルで旬の情報をユーザーに届け、旅行の気分を高めたうえでサイトへ誘導し、宿泊などの予約へと誘導するのだ。
木戸秋氏は、「メールを見る人、アプリを見る人、ウェブの広告に反応する人など、人によってバラバラ。内容や送る相手によって必要なチャネルが変わるので、うまく使い分けなければならない」と言う。ただし、石井氏は複数のチャネルを使用することについて、「アプリのプッシュ通知は今後も拡大する可能性がある一方で、強力なチャネルだけに一歩間違うとユーザーの気分を害する両刃の剣にもなり得る」と警鐘を鳴らす。
木戸秋氏は「複数のチャネルを使って情報を届けることが、ユーザーのアクションに結びつくのであれば複数で送るべき」と言うが、メールだけで十分という人にアプリのプッシュ通知も使って「単なるノイズだと思われるのなら送らない」(木戸秋氏)という決断も必要だという。
石井氏は「こちらがおもてなしだと思っていたことが、ユーザーにとっては実は単なるおせっかいだった、というのは最も避けたい状況」と話す。じゃらんnetでは、ユーザーに情報を送る前に、必ず“それは本当にユーザーのベネフィットなのか”と自問自答し、その裏付けがなければ“強力なチャネルでは送らない”という選択肢を採ることもあるという。じゃらんnetが目指すのは“ユーザーに好まれるパーソナライズ”なのだ。
メールのメリットは健在
スマートフォンの普及などにより、インターネット普及期から使用されているメールによるマーケティングは、以前ほどの効果が期待できないと考える人は少なくない。石井氏はこれに対し、「数字から見ても、メールを見ている人はまだたくさんいる」と異を唱える。
他のチャネルと比べた場合、より情緒的で多くの情報量を届けることができるというメールのメリットは健在。送る相手とタイミング、コンテンツさえ間違えなければ、確実に伝えたいことを届けられる有効なツールであり続けている。
メールを見て行動に移す人が誰なのかという点がわかっていれば、アプリのプッシュ通知や広告バナーよりも、メールで有益な情報を送った方が良いケースもある。木戸秋氏は「昔は一斉配信しかなかったが、現在じゃらんnetが導入しているチーターデジタルのメール配信システムの場合、配信メールの中にどんなコンテンツを差し込むかをユーザーによって変えられる」と、技術の進歩でパーソナライズしやすくなっている現状に言及する。
一斉配信して何人が反応してくれるかを待つのは以前のスタイル。今は、あるメールを送った結果、どのような反応をした人に次に送る内容のメールを決定する、というシナリオを組めるようになっているという。
PDCA、終わりなき取り組み
じゃらんnetでも活用しているマーケティングオートメーション(MA)が登場したのは、およそ3年前。ユーザーとどのようなコミュニケーションをして、どのようなシナリオを設定してコントロールしていくかという技術だ。
MAにより数値化されるものも増えていく。これは実施する施策をPDCAサイクル化する材料が増えていることも意味する。木戸秋氏は「ある施策を設計する最初の段階で、検証ポイントを明確にしてシナリオを組む。何を検証し、次にどうするのかが明確ならば、PDCAが回りやすくなる」と話す。
では、こうした活動の目標設定はどうしているのか?
じゃらんnetでは、LTVをKPIとしているが、最終的にこの水準まで達成したら終了といった明確なゴールは設定していないのだという。木戸秋氏が「常に改善、というのはあるが、数値的なゴールはあまり考えたことがない」と言えば、石井氏も「CRMは良い意味で終わりがない」と語る。じゃらんnetにとって、数値的なゴールを設定することは、“需要創造”という自ら掲げた目的を無視することになるからだ。
石井氏は「あえて目標を挙げるならば、旅行業界の統計にある1人あたりの平均旅行回数を、じゃらんnetユーザーの平均が超えるようにしたい。達成すれば、旅行業界に貢献したと確信できる」と力を込める。
なお、こうした同社のCRM戦略やマーケティングテクノロジー活用の詳細については、今秋のイベント「トラベルボイスLIVE特別版」の会場で聞くことができる。イベントでは、リクルートライフスタイルの他に先進的なデジタルマーケティングに取り組んでいる企業の担当者を招いて「いま観光マーケターが取り組むべきこと」を紐解いていく。
トラベルボイスLIVE特別版 概要
- イベント名:トラベルボイスLIVE特別版 ~デジタルマーケティング編~
- 場所:ベルサール六本木コンファレンスセンター RoomC+D+E
- 日時:2018年10月3日(水)15:30~19:00
- 登壇企業:リクルートライフスタイル/ゆこゆこホールディングス ※他調整中
- 申し込みURL:https://www.marketinggate.jp/sp/tvl1810/index_tv.html
- 問い合わせ先:トラベルボイスLIVE特別版 運営事務局
- TEL:0120-60-9920
- Email:info.japan@cheetahdigital.com
広告:チーターデジタル(https://www.marketinggate.jp/index.html)
記事:トラベルボイス企画部、REGION