ホテルや航空券、パッケージツアーなど、旅行商品を一括比較検討できるメタサーチ。旅行会社や航空会社の流通の間口を広げ、オンライン旅行市場をともに拡大してきた。参入障壁が低いため、参入企業が増えている一方、既存のメタサーチはテクノロジーの進化とラインナップの拡充で、差別化が難しくなっている。また、ともに歩んできた旅行会社やサプライヤーが、価格競争を促すとして警戒する向きも出てきた。
これからのメタサーチはどのように差別化を図り、旅行のパートナーとともに成長していけるのか。消費者の旅行利便を、どのように向上させていくのか。
日本発メタサーチの草分け「Travel.jp」を生んだベンチャーリパブリックの代表・柴田啓氏、柴田健一氏の両氏に、話を聞いてきた。同サイトは今夏、月間アクティブユーザー数7600万人を誇るメッセンジャーアプリLINEと旅行事業分野で資本・業務提携し、このほど「LINEトラベルjp」に名称を変更。その次の一手に注目が集まっている。
オンライン上からの送客モデルを確立
消費者は、インターネットやメタサーチが登場する前から、常に価格を比較していた。秋葉原で電化製品の店を何軒も回ったり、複数の旅行会社に電話して航空券の価格を問い合わせたり、旅行情報雑誌で価格を見比べたり。
「比較することは根源的なニーズだと思っている。未来永劫、なくなることはない」(柴田健一氏・代表取締役副社長)。「ネットの普及で、情報の主導権が消費者の側に移るパラダイムシフトが起きた。自分も革命を起こす一人になりたいと思った」(柴田啓氏・代表取締役社長)と、メタサーチで起業した理由を語る。
同社の創業は2001年。日本における旅行比較サイトの草分け的存在だが、ほかにも同様のサービスは存在していた。しかし、同社がユニークだったのは、予約コミッション・ビジネスが主流だった日本の旅行業界に、クリック課金(CPC)型のビジネスモデルを初めて導入したこと。今でこそ一般的なビジネスモデルだが、当時はその概念が日本にはなかったのだ。
「まずクリック課金型モデル自体を理解してもらうのが大変で、先行する米国の事例を説明し、旅行会社を説得して回った。某大手サイトの該当画面を印刷し、それを見せながらの説明だった」(啓氏)と、粘り強く交渉を続けていたことを振り返る。
さらに当時の旅行会社のサイトは、流入するアクセスをトラッキングする体制が整備されているのは稀で、ホームページがあってもサイト上に掲載した電話番号で予約を受ける旅行会社も多かった。掲載に同意を得ても、サーチに掲載するための情報がデータ化されていないなど、次から次へと壁が表れ、それを一つひとつ崩していく地道な作業の連続だったという。
ただし、旅行会社側にも、多額を投じてホームページに予約エンジンを搭載したものの、期待したほどの反応が得られないという危機感があった。これに対し、購買意欲が高いユーザーをサイトに連れてくるメタサーチは、効率的なマーケティング手法で役に立つという認識が徐々に広がり、「外部リンク型の送客モデルが結果的に喜ばれた」(啓氏)。
「(支払いが発生する)CPC契約を結ぶことで、旅行会社やサプライヤー各社がアクセスしてきたユーザーの成約率アップにさらに注力するようになった。他とは違う、魅力的な旅行商品として磨かれ、メタサーチはそれを見つけ出す道具。結果的には、オンライン旅行全体の拡大につながったと思う」(健一氏)。
何よりも「最大の選択肢」提供を優先
もう一つ、注力したのは、掲載ラインナップの拡充。現在、航空券ではフルサービスキャリアからLCCまで、あらゆる航空会社の各種チケットが比較対象になっており、空席情報までリアルタイムで検索可能。特に国内航空券のページでは、格安航空券を含めて幅広く比較できるのはLINEトラベルjpだけだという。
また、ツアーでは国内最大の250社・110万商品を掲載。宿泊施設のページでは、ホテルや旅館だけでなく、エアビーアンドビー(Airbnb)の民泊物件との比較検索も可能で、こちらも目下、利用が急増しているサービスの一つ。エアビーアンドビーと流通パートナー契約を結んでいるメタサーチは世界的にも珍しく、大きな差別化要因になっている。
多様なパートナーの商品をいち早く取り扱うフットワークの軽さは、運営会社ベンチャーリパブリックが、旅行業を長年続けてきた企業ではなく、21世紀に入ってから新規参入した背景が大きい。創業時から、ニュートラルなポジションを心掛けてきたのだという。
「今でも旅行業については門外漢に近く、ベンチャーのスピリットを持っている。重視するのはユーザーの視点。ユーザーの立場になれば流通チャネルなど関係なく、すべての航空券を比較・検討したいのは当然で、ユーザーのための透明性をどう確保するかを、常に第一に追求している」(啓氏)。
加速する旅行需要のロングテール化
一方、メタサーチに対しては、“価格だけが強調される”と旅行会社やサプライヤーなどが懸念を示すこともある。これに対し、LINEトラベルjpが力を入れているのが「特集」と「旅行ガイド」のコンテンツ。「価格だけでなく、テーマによる比較をどう出していくかを考えていた」(啓氏)。それが、メタサーチとしてコンテンツを重視するユニークな戦略に繋がった。
もともと、サーチでは紹介しきれない季節の見どころ、新幹線など乗り物や、スキー・スノーボードなどのアクティビティといった切り口で商品情報(ツアー、チケット、宿泊施設など)を提示するために立ち上げたのが「特集」ページ。人気が高いのは、ビジネス客向けの「新幹線パック」「格安ビジネスパック・出張パック」や、「ペットと泊まれる宿」などで、リピーターから絶大な支持を受けている。
このコンテンツ戦略は、マーケット変化に対応する切り札にもなった。それは、旅行需要のロングテール化だ。「ユーザーの要望、嗜好やこだわりの細分化は究極に進んでいる」(啓氏)と力説する。
インターネットのない時代は、細かい要望にあう商品を探すのは無理だったから、ユーザーは希望に近い代替案で満足していた。しかし今ではオンライン上で簡単に比較検索できるので、ユーザーは妥協せずに欲しい商品を探すようになった。
そこで、ニッチな需要に特化した内容を多数揃えるための発展形として、旅行好きのブロガーなどのナビゲーターが様々なトピックスを取り上げる「旅行ガイド」ページを開設。現在、500名以上のナビゲーターによる3万件近い記事が蓄積されている。
「旅行会社が単体でユーザーの要望すべてに対応できる商品を揃えるのは不可能に近い。だからこそ、我々の存在意義がある。少数でもニーズがあるのなら、それにあった切り口でコンテンツを作り、そこへ流入したユーザーを条件にあった商品へと連れていくのが役割だ」(健一氏)。「例えば、スキー旅行では、スキー場の施設やサービス、ナビゲーターの評価も比較対象になる。コンテンツには、価格以外の多用な決め手が含まれている」(啓氏)。
膨大なコンテンツを揃えるためには相応のコストもかかるが、補って余りある効果も出ている。サイトへのアクセス数が今年8月実績で2000万人を突破。前年比で80%増と破竹の勢いで伸びており、この牽引役が「旅行ガイド」。記事自体も増加しているが、ユーザー数はそれを上回る伸びだという。
LINEとの提携で広がるタビナカ市場の開拓
今後の成長戦略を語る上で欠かせないのは、今夏、旅行事業で提携したLINEとのパートナーシップ。月間アクティブユーザー数7,600万人のアプリがもたらすスケールメリットは図りしれない。LINEでは、ユーザーの同意のもと、移動中の現在位置が把握できるようになり、プッシュ型マーケティング機能を使い、現地にいるユーザーにパーソナライズされたタビナカの情報・サービスを提示できる、といった手法だ。
例えば、旅先でハイキングをする予定だったが、天気が悪化。そんなユーザーに、周辺の屋内で楽しめるアクティビティの記事を送る。あるいは期間限定クーポンが利用可能な観光施設やおすすめレストランの紹介など、状況に合わせたレコメンドが可能になる。
「旅行中のユーザーとコミュニケーションがとれれば、面白いことがたくさんできる。実際、旅先で予定変更を余儀なくされた旅行者は、急遽別のアクティビティを検索して予約をし直すなど、大変な思いをしている。もっと便利にしたい」(健一氏)。「世界最大手のOTAやメタサーチも未開拓のユニークなサービスが提供できる。様々な可能性を考えるとワクワクする」(啓氏)。
ただし、「メタサーチは、出発日や旅行先が決まっている人には使い勝手が良いが、旅行先や滞在中の過ごし方が決まっていない人向けの情報やサービスはまだ不足しているし、整理されていない。旅行プランニングのスタートアップが続々登場しているのも、この分野をまだ誰も制覇できていないから」(啓氏)との認識も持つ。
「メタサーチで解決できるニーズとできないニーズがあり、メタサーチが万能であるとは今も創業当時も考えていない。そこにどうやってアプローチできるか、いつも考えている」(健一氏)。この問題意識が常に新しい一手を打つ、LINEトラベルjpの原動力に繋がっている。
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記事:トラベルボイス企画部