文化財は「保存」から「活用」の時代へ、京都市長ら観光産業の識者が議論した「観光が果たす役割」をレポート

国連世界観光機関(UNWTO)とユネスコは2019年12月11日から13日の3日間、「観光と文化をテーマとした国際会議」を京都市の国立京都国際会館(案)で開催する。これに先立ち、ツーリズムEXPOジャパン2018では「文化」と「観光」との関係についてプレシンポジウムが開催。観光客の集中によって、京都市をはじめ世界の人気観光都市でオーバーツーリズム問題が顕在化しているなか、文化の継承と持続可能な観光について議論が展開された。

開会に先立ち挨拶に立ったUNWTO事務局長のスラブ・ポロリカシュヴィリ氏は、「文化と観光は兄弟のような関係。環境と文化に配慮しながら、観光をつくっていくべき。その模範となるのが京都」と話し、関係大臣やステークホルダーが一同に介する貴重な場となる来年の国際会議では、「持続可能な社会に向けて観光の果たす役割についてさまざまな可能性を探りたい」と意気込みを示した。

UNWTO事務局長のスラブ・ポロリカシュヴィリ氏

シンポジウムでは冒頭、モデレーターを務めたUNWTO駐日事務所代表の本保芳明氏が「日本政府は文化について、保存から活用に舵を切った。観光と文化との関係を考え直さなければいけない時期に来ている」と述べたうえで、来年の会議では、国連で定めたSDGs (持続可能な開発目標)の達成に向けた観光と文化の調和、住民生活を念頭に置いた持続可能な文化観光、文化観光の担い手の教育を含めた文化継承の3つのポイントが主に議論されると紹介した。

門川大作京都市長は、「京都のものづくりと精神文化が人をつくり、イノベーションを生み出し、街がつくられ、結果的に京都が観光都市になった」という持論を展開。四条通りの屋外広告撤去も観光のためのではなく、京都の美意識にもとづいて行われたものであると紹介したうえで、観光政策は街づくりであるとの考えを強調した。また、観光はさまざまな人たちが関わる総合産業と位置づける一方、「観光産業に従事する人たちには非正規雇用が多いため、税収もなかなか増えない」と問題点も指摘した。さらに、文化の保存のためには、職人など次世代の担い手を育てることも課題として挙げた。

観光庁審議官の高科淳氏は、改めて国の方針を説明。「観光は国の成長戦略であり、地方創生政策でもある」と述べる一方、観光客の増加によって、観光と地域住民や自然環境との共生が難しくなっている事象も出てきているという問題意識を披露。そのために今年6月に観光庁に「持続可能な観光推進本部」を設置したことを紹介した。また、日本で初開催となる来年の会議では、「海外のベストプラクティスを共有したい」と期待を寄せた。

文化庁長官官房審議官の内藤敏也氏は、文化庁が2021年度までに京都市に全面移転することに触れ、「それに合わせて組織も変わる。文化財は何のために保存するのか、それをどう生かしていくのか、文化行政も変わる必要がある」との考えを示した。2017年6月に施行された「文化芸術基本法」について、「文化芸術を新たな観光コンテンツとして地域の発展に生かしていく」方針を説明し、今年10月1日には新たな組織として「文化資源活用課」を設置したことも合わせて紹介した。

小西芸術工藝社長のデービッド・アトキンソン氏は、「観光がなければ文化を守ることはできない」との持論を述べ、「日本の労働力が減少してくなか、限られた財源で文化財を保護していくのは難しく、訪日外国人に支えてもらう必要がある」と主張した。そのうえで、二条城の拝観料が多言語解説などを付け加えたうえで来年4月から値上げされる例を挙げ、「寺社仏閣などの文化財は付加価値をつけてもっと高い拝観料を取るべき」とした。また、文化行政には需給というビジネスの視点がないと論破。文化財保護が教育委員会の管轄になっているのが一番の問題とし、「より深い体験をしてもらう仕掛けに対価を払ってもらい、それを保存に使う好循環をつくる必要がある」と強調した。

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